見習い神主 実習編④
見習い神主 実習編④
暑いさなかだったが、実習も、そして二年間の研修も無事にやりこなすことができた。
今後は、地元の神社で、宮司の父親や、禰宜の夫にいろいろと教わりながら、神事にたずさわることになるのだが、最後に実習先の担当の先生がしみじみと話してくれたことが忘れられない。
「わたしらは、あくまで●●神宮に勤める神主であって、単独で外祭に出かけても、ひとりの神主とは見なされないんだよ。田舎ではその点がぜんぜんちがうと思うよ」
それは、ひと月の間、その神宮で研修していて、強く感じたことでもあった。
上宮の祈祷殿には、日々さまざまな祈願のために参拝客が訪れる。受付をし、案内をするのは巫女さん。希望すれば昇殿参拝といって、めったに上がれない御殿で玉ぐし拝礼ができる。中には丁寧に説明をされる神主さんもおられたが、ほとんどが終始無言でご祈祷のみに集中していた。まるで、参拝者と神主さんの間に見えない壁があるように、何か迂闊に近づけないものがあるように感じられてならなかった。
これはあくまで、私個人の感想であり、大きなお宮すべてにあてはまるものでは決してないと思う。
けれども、ひとつだけ確信したことは、田舎のお宮だからこそできることもあるということだ。
実家の神社は、地区の十一社と、地区外の担当神社合わせて二十三社を持っている。
そこで暮らす氏子さんの、様々な祈願―新車のお祓いや、安産、お宮参り、七五三、地鎮祭、時にはもっと個人的な悩みごとの祈願も引き受ける。
「この前、家の者が事故起こして……」
「母が大きな手術を受けるんです」
「実は前の妊娠に失敗していて……」
さまざまな不安を抱えてお参りされる人。彼らにしてあげられる田舎のお宮ならではのこと。
それは、寄り添ってあげることだ。一緒に一生懸命祈りましょう。だいじょうぶですよ。
そのひと言で、来てくれた方々の表情が、ぱあっと明るくなる。
これはとても大事なことだと思うのだ。




