見習い神主 実習編③
見習い神主 実習編③
実習は、私の場合は大半が見学であり、祭式の先生から祭式のノウハウを教わったり、数ある祝詞をノートに筆写したりしていた。
祝詞。祭式とともに、神職が最も力を注がなくてはならないものだ。
神前で奏上する言葉には、祓詞と祝詞とがあり、前者は祭りの前提となるお祓いのための唱え言葉。そして後者は祭りで神様に申し上げる言葉である。
八十三文字の祓詞は、いかなる祭りでも修祓とよばれる最初のお祓いで奏上される。
神職の家で生まれ育つと、教わらなくても祓詞だけはマスターしてしまうようだ。
そして大祓詞。これもまるで子守唄のように聞いて育つので、全体のリズムだけは自然に身体に染み込んでいる。これは大阪の研修に行った際に感じたことで、やはり育った環境はみな同じなんだなと改めて納得したものだった。
祝詞には、神社の恒例祭で奏上される決められた定型のものと、祭りごとに作文しなくてはならないものがある。とはいえ、初心者神主のために、ひな型となる参考書は探せばどこかにあるもの。身近なところでは、祖父や父の作った祝詞である。しかし、父の書いた祝詞を開くなり、うう……とうなってしまった。達筆すぎるという点では、大いに父を尊敬するのだが、子孫たちが読めなくては困るのだ。
神道の葬儀である神葬祭。突然に依頼が来るなり待ったなしに事が運ばれる。
通夜祭のあと、喪主の方から、生前の故人のさまざまな情報を得て、泣いても笑ってもひと晩で祝詞を書き上げなくてはならない。ほぼ徹夜状態でやりぬく父を何度か見た記憶がある。参拝した人たちにもわかるように、具体的に生前の故人を称え、偲び、霊魂が安心して神の御許へ帰られるように、祈りをこめて奏上する。大変ではあるけれど、いい祝詞だったと家族に言ってもらえれば、いちばんホッとするとの父の言葉に納得する。
祝詞修行の道は果てしなく続きそうだ。




