見習い神主 実習編②
見習い神主 実習編②
一か月間の研修は、途中、大阪での研修も入っていたことから、二回に分けて行くことにした。
初日。指定の場所で白袴と白装束に着かえ、上宮へ。
八時半から、巫女さんたちと、みっちり一時間の掃除である。
掃除の場所も祈祷殿から、三か所の御殿、長い廊下、そして広すぎる境内を掃いたり、拭いたり、草をとったり、けっこうな重労働だ。
祈祷殿に着いた瞬間、三人の巫女さんたちがホウキを手に血相変えて走ってきた。
私のあとからきた初老の先生の名をよび、祈祷殿を指さし叫ぶ。
「先生、蜘蛛! 大きいのがいるんです! 取ってください」
くらくらとめまいがしそうだった。
私は蜘蛛恐怖症。蜘蛛がいつも出てくるところなんて死んでもいやだ。
その先生はホウキを受け取ると、笑いながら祈祷殿に入っていった。
「ねえ、こういうこと多いの?」
「いえ、めったにないです。だけど……」
「だけど?」
「蚊はすごいです」
その言葉どおり、蚊取り線香の香りがあちらこちらに充満している。そして、今朝つけたばかりの蚊取りの煙が、もくもくとあがっていた。
「まるでのろしみたいだね」
初老の先生は驚くそぶりも見せずに笑っている。
七月の朝はさすがに暑い。
掃いて掃いて、拭いて拭いて。
上宮は周囲が森だから、掃けども掃けども風が吹けば落ち葉だらけ。それでも巫女さんたちは、顔色一つ変えず、文句ひとつ言わずに掃き続ける。
神社は清浄を第一とする。研修で習った教えが頭をよぎった。
私たちの心も同じことだ。曇った心は常に祓い清めて清浄にしておかなければならない。
毎日の清掃は無心になれるひとときだった。ただし、朱塗りの御殿での掃除で白足袋は赤く染まってしまったけれど。




