スクーリングの悲劇②
スクーリングの悲劇②
四日間のスクーリングでは、禊が行われる。禊とは、神事を奉仕するにあたって海水で身体を清める儀式。古事記の中で、愛する妻イザナミのミコトがいる黄泉の国に行ったイザナギのミコトが、変わり果てた妻の姿に命からがら逃げ出し、その穢れを祓うために、小戸の阿波岐原(現在の宮崎県)にて禊を行ったという神話に基づいている。
禊といっても、スクーリングの場は大阪の大都会の一角。いったいどこで?と思っていたら、会場に隣接する坐摩神社の中に、研修生専用の禊場が作られていた。大きな温泉のような造りだが、夏なのに、水は驚くほど冷たい。その中で身体を清めるわけだが、始める前に大切な鳥船行事があった。
坐摩神社の境内で、全員で祓詞を唱えたあと、道彦と呼ばれる先導者に続いて、「エーイッ・ホ」と櫓を漕ぐ動作をする。それから両足を開き、両手を腰に、声高らかに「生魂、足魂、玉留魂!」と叫ぶ。
こういう動作を、男性はふんどし一枚で、女性は禊用の白装束に身を包み、境内とはいえ、人の行き交う都会の真ん中でやるのだから、最初はかなり恥ずかしかった。
三十分以上かけて鳥船行事を終え、男性陣から先に禊を行う。冷たい水の中で大祓詞を奏上するのだが、水からあがったあとの男性陣の唇は紫に近かった。続いて女性。足を入れるだけですくみあがるほど冷たい。そろそろと体を沈め、胸から上を出していたら、担当の先生から、むぎゅうと肩まで無理やり沈められた。心臓が凍り付きそうだ。殺す気か!とむしょうに腹が立った。
先生の後に続いて大祓詞奉唱。五分はかかる大祓詞が、一分もかからず終わってしまい、先生は、あらまと苦笑いしている。プロなのに、どこか完全にすっ飛ばしてしまったようだ。
ようやく禊が済むと、死にものぐるいの速さで装束を着る。すでに夕拝の時間がせまっている。
着かえ終わった女性陣全員、境内の中を駆け抜けた。
禊の後は、兎にも角にもあわただしいのひと言だった。




