【朗読劇・ボイスドラマ・舞台演劇にて使用可能】 窓と廊下
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登場人物
廊下を歩く人(A)
窓の向こうで歩く人(B)
※二人の性別は問わない
先の見えない廊下を、Aが歩いている。時折聞こえる水音や人の声、叫びが廊下に木霊す。人の声に年齢や性別の統制はない。Aはその全てに注意深く反応することはしないが、稀に音の方を見つめては、鼻を鳴らして去って行こうとする。
廊下にはいくつも窓のようなものが設けられ、そこから人の声は聞こえてくるようである。
B 「おい! おい!」
A 「……」
B 「おい! おまえだ! おまえ!」
A 「……?」
B 「こっちを見たな! 見ただろ! おい! おまえだ!」
A 「俺(私・僕)を呼んでいるのですか?」
B 「そうだ! こっちにこい!」
AはBが閉じ込められている窓に近づいていく。二人が並んで歩き出す。
A 「なにか?」
B 「たのむ! こっち側に来てくれ! もう俺(私・僕)は限界なんだ!」
A 「はあ……」
B 「もう、目の前に壁があるんだよ! もう終わりなんだ! このままじゃ終わっちまうんだ!」
A 「はあ……」
B 「俺は! 死んじまうんだ! だから! 早く助けてくれ!」
A 「しかし」
B 「ああ!」
A 「俺の道は、まだまだ先がありそうなのですよ」
B 「ああ!」
A 「だから、ここで道を違えたくはないわけです。あなたと俺が一緒になれば、またこの廊下とは違う道を歩むことになるわけでしょう」
B 「だが! だが! 俺はもう死んじまうんだぞ! 見捨てるのか! 一度見た俺を見捨てるのか!」
A 「……」
B
「本当に、偶然……いや、必然かもしれねえ! 俺とお前が出会ったのは運命かもしれねえ! ずっと窓の向こう側を見つめながら歩いてきたが、お前みたいに俺を見つけてくれた人は初めてだ! だからよ! ここは、縁だと思って!」
A 「それ、なにか俺にメリットがありますか?」
B 「はあ?」
A 「だから、なんか必死ですけど、あなたを助けることが、俺に何か良いことをもたらしてくれるのかって言ってるんですよ」
B 「そ、そんなのわかんねえけどよ」
A 「ではさようなら」
B 「まてよ! おい! ……俺はお前の名前を知ってる!」
A 「……名前?」
B 「そうだ、名前だ。お前の名前」
A 「どこで知りました? 俺の名前」
B
「た、確か数年前だ。偶然、いや、必然だ! きっとそうだ! あのときお前は……そう! 死にかけてた! 道ばたでくたばりそうだった! あまりに可哀想だったから、俺はお前に飯をやったんだ! そうだ、あれは偶然なんかじゃねえ! 運命だったんだ! ここでまたお前に出会う、運命だったんだ! だから、お前もさ、俺を助ければ、きっと、未来で良いことあるぜ!」
A 「……そうですかね?」
B 「は……」
A 「俺は、あなたに助けてもらった。俺がその恩を返す。……それで終わりません?」
B 「は、え」
A 「一回、一回、助け合った。もう次はないですよね?」
B
「い、いや! 約束する! お前が今助けてくれたら、今後、見返りなんて求めず、絶対にお前を助ける! 助け合いだ! 困ったときはお互い様だ! ああなんて美しい人間の絆!」
A 「僕はもう困る事なんて無いので。ほら、まだ先は見えない。僕には、果てしなく彼方まで、まだ見ぬ未来が待っている」
A、足を速める。
B 「待ってくれ! 助けてくれ! 頼む! 助けてくれ! 頼む!」
A 「さようなら」
Bの叫びが遠のいていく。静寂が訪れる。Aの足音だけが響き渡っている。
しかし、突如Aの進む廊下が狭まり、窓が消える。光が差し込まず、真っ暗な空間を歩き出す。
A 「……?」
Aは不安を感じ、身を縮めながら歩く。ついにしゃがマナ蹴れば歩けないほど狭くなり、先の見えない不安に駆られ、壁にたどり着く。
A
「壁だ、壁がやってきた。これは、あの人を助けなかった報いだろうか。いや、違うな。これは、運命だ。俺はどのみちここで死ぬ定めだった。助けていても、結局同じだったさ。むしろ、この真っ暗な空間に、あの人を連れてこなくて良かった。あの人は、明るいところで死ねたのだから」
暗転
人々が歩いている。彼らもいつか壁にぶつかって死んでしまうのだ。