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メモとは違うお肉を買って帰ったけれど、おつりでクミンのお菓子を買っていたことで叱られることはなかった。クミンはとても喜んでいたし、それを見た母はなんとなく嬉しそうだった。
「また今度買ってくるから。」
そう言うとクミンは、
「お姉ちゃん、ありがとう!」と可愛らしい笑顔でお礼を言った。
(可愛い!可愛い!!可愛い!!!)
思わず抱きしめそうになったけれど、手を広げ近づいてくる私にクミンが驚いた表情になったのが分かった。
それもそうだ。昨日まで喧嘩ばかり、いや、今朝だって口喧嘩をした。そんな姉が手を広げてやってきたら私だってびっくりする。ひょっとしたらお菓子は油断させる為で、今朝の喧嘩の続きで攻撃されるのではないかと思うだろう。昨日までは弟がいなければ我慢しなくていいことが沢山あったのに!と不満ばかり抱えていたのに、前世の私の願望が叶ったと思い出した途端に弟のクミンが可愛くて可愛くて仕方がない。
・・・とは言っても、まだ前世を思い出したのはほんの数時間前のことだ。きっとこれからだって喧嘩もするはずだ。
「お姉ちゃん?」
クミンが声を掛けてくる。手を広げたまま止まっている私のことを不思議に思ったのだろう。
「あ、うん。もうご飯だね。一緒に準備しよっか。」
とりあえず笑顔で返事をしてみた。クミンは私の手を握り
「うん!!」
と満面の笑みで答えた。
(やっぱり可愛い)
カレーを食べ終えた私は思い出したことをノートに書き綴っていた。本来ならば「カレはじ」を読んでいただろう。だけど今は「カレはじ」どころではない。私は前世の記憶の全てを思い出したわけではない。それは当たり前のことだと思う。だって今の私のことでも全てを覚えているわけではないから。全てを覚えているのであれば、私の成績はかなり良いはずだし、もうちょっと人生を上手く立ち回れる術も学んでいたかもしれない。だからまた忘れる前に覚えている前世での出来事や記憶をノートに書き残しておこうと考えたのだ。ノートは2冊用意した。1冊目は自分のこと、2冊目は「カレサバ」のことを書くようにした。この世界が「カレサバ」と本当にリンクしているのであれば、このメモはとても貴重なものになる。私はゲームの中の王子様の趣味や嗜好、お忍びで城下町に繰り出すことやスチルで使われていた場所を思い出した。まだ全部を思い出したわけではないだろうが、こんな情報が出まわったら大変だ。今のこの世界では王子様と私は何の面識もない。(前世でも一方的に知ってる、くらいだけど)そんな私が、王子様のこれからの行動を知っているというのは、怪しいとしか言いようがない。それに「カレサバ」には王子様以外にも数人の攻略相手が出てくるのだ。そのメンバーもそれなりに地位があるお方なので、「カレサバ」のことを書くノートは鍵付きの引き出しにしまうことにした。
「そんなことより」
そう!私が一番気になっていたのは、サラサラヘアの王子様に次に出会うタイミングではない。私は前世で、今の私と同じような話を読んだことがある。普通の少女や女性が転生する話。何かのはずみで前世のことを思い出すのだが、大体はもの凄い美少女として生まれ変わっていたり、とんでもないスキルをもっていたりする。もしくはお金持ちかそれなりの権力がある家に生まれている。
「だから私も・・」
ちょっとだけ口元がニヤけた気がしたが、鏡を見て我に返った。
「美少女・・・・・」
残念なことに、美少女には生まれ変われなかった。それに「カレサバ」のヒロインの様に王子様と同じ青い瞳でもないし、よくある漫画の様にこの世界では珍しい髪の色というわけでもなかった。家は権力や権力とは無縁だし、お金持ちとも言えない。