死神の感情
夜の風が少し涼しい、この大陸の夏にごく稀だがある気象
「樹の涼」
これはこの大陸
もとよりこの世界に存在した加護を持つ聖樹
それが加護を顕現した時に
涼しい癒やしを吹かせるという現象
ギルドの開拓者はこの癒やしを吉兆とする
その中で少しずつ灯を戻した視界が焦点を重ね終わる
「うぅ・・・・・・ ここは?」
「起きた?」
横で座っていたタリアにイシュが声を掛けられ
寝転んでいたまま顔を横斜めに向けた
そんな彼女に話を続ける
「ここはギルド本部の医務室だよ」
朧気ながら気を失うまでの記憶を手繰る
そんな記憶の最後にたどり着き
ハッと真面目な表情になり
「あの魔物ようなものは?」
「あれ? その魔物を退けたの覚えてない?」
「あんな一撃で終わったのですか?」
「あんな・・・・・・って、平原の一部が森になったんだけどな・・・・・・」
イシュが放ったあの一撃は何故か
前方を扇形の森に変貌させた
「起きたか~い? 君には色々聴きたいんだよ~」
扉が音もなく開いており
そこには一人の女性が本を持ち立っていた
「やあ、僕はキャバリエ=バレンタイン
君の答えを少しだけ持っている学者と捉えておけば安心かな?」
手をヒラヒラ振って近づいてくる女性に
「答え・・・・・・? ですか?」
「そうだよ~ 開拓者の伝承から話すよ~」
そう言うとキャバリエは伝承の書かれた
脇に抱えていた本を開く
昔の話
ここは元々、未開拓の魔物が住む大陸で
人なんてものが住むことなど出来ないはずだったため
諦めて、島などで分割して住んでいた
だが「聖樹」の存在が人をこの土地に呼ぶ
それはこの大陸の外である分割して住んでいた島に
聖樹を嫌う突然現れた魔物のようなものに
次々、土地を追いやられたため
聖樹の周りにはいない魔物のようなもの
島に住む者達は
聖樹の加護で種の繁栄を目指すことにした
そんな者達を開拓者と呼び
それがギルドの元となった
「で・・・・・・ 僕の仮定的な考えなんだけどね?」
と懐から古い布を出した
そこには茶色い剣に緑を纏わせ、人が剣を翳している絵があった
「これはね~ 挿絵が大きすぎるからっていう付録だよ~」
「これが答えとは・・・・・・ どういう意味なんですか?」
「えっとね~ 君はこの挿絵の人と同じで英雄である「イグドラ」の
生まれ変わりってことなんだけどね~」
イグドラについては記述は無い
それがこの国の定説
しかしキャバリエは城都の学者が匙を投げた部分を
徹底的に調べた結果
「情報を意図的に隠したものがイグドラの時代に存在した」
という事実が判明した
「つまりは君は存在がバレるとその意図的に葬ろうとした組織か個人に
消されちゃうから君を城都直属の部隊で保護するよ~」
情報が多すぎたため本を拒絶するイシュは
理解も無くタリアを見る
そんな彼女を見た師匠が進言をする
「それなら私もその部隊でイシュを守ります」
「だよね~ だから君も呼んだんだよ~」
そう軽い感じで言うがとてもつもなく危険だ
イシュは「なにか」に狙われる
そしてその「なにか」に敵わなかった城都の騎士とタリア
はっきり言って無防備で城都を危険にしかねない
だがその状況にとって理由となる情報を一つ
キャバリエは持っていた
「あとさ~ 二週間後にね~ 城都にその「なにか」が
攻めてくるはずなんだ~」
そう、守られるのはこの城都で
イシュは英雄の生き様を再現することになる
その事実に顔が青ざめるタリア
「駄目です・・・・・・ イシュは私が守ります」
顔を俯かせ手を膝の上で強く握る
執行を主に行う「大罪の死神」
その部隊はかつて城都の裏で汚れ仕事を請け負う
落ちこぼれの騎士の寄せ集めだった
曲がりなりにも家族の様で
厳しくも優しい騎士団長に
口が悪いが最強と謳われていたエースに
不思議な能力をもつお姉さん的な存在などが身を寄せ合い
つまはじきを受けていた者達の家だった
あの事件までは・・・・・・
「まさか、こいつらの側ってのはクソだな・・・・・・」
「こらこら~ 生きるため仕方ないでしょ~?」
赤いフード被る男と黄色いフードの女が
巨大な蜥蜴のようなモヤに包まれる「なにか」の上で話していた
命令が無ければ今頃、この二人は死んでいた
というより見捨てられたこの者達は
復讐のために従う
世界から見捨てられた者達が最後の戦線で
「世界を壊せば心が救われる」
その目標が達成した後のことはなにも考えず
死神と呼ばれ、国に使い捨てられたということだけ
ただそれだけを拭おうとしている
黒い波が迫るようなモヤの塊は平原を染めていく
太い帯状の線は草木を腐らせながら行進する
大陸の地形上、この者達は海から来たことになるが
恐らく廃城構える大きな島
「第二城都跡の島」
そこは遙か昔に開拓者が侵攻を受けた始まりの場所