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短編集

冬の朝とぬくぬくゆたんぽ

作者: 海水

この作品は月見里キャメロット様主催の【冬猫祭】参加作品です。



魔法使いOLシーラと恋人(猫)クロのごく普通の冬の朝の模様。

拙作『一週間の魔法』《https://ncode.syosetu.com/n5836dp/》 の後日談に当たりますが、これだけでも読めるようにはしています。

単にいちゃついてるだけかも。


気になる方は前作も一緒にお読みくださいませ~

「さむッ」


 鼻に侵入してきた冷え切った冬の空気に目が覚めた。


 なんで寒いんだ冬のバカヤロー!


 文句を言えばすっきりのあたしは超単純。

 ふやけた顔をしてるからか、勤め先の魔法研究所では「しあわせさん」などと言われ始めた。25歳OLシーラさんはそんなに幸せじゃないってば。

 ただ、好きな人と一緒に暮らしてて、その彼が猫だったりするだけよ!

 ……少しおかしいけど、彼は猫だけど人なのよ。


「ん? 胸元が寒い」


 いつもなら天然ゆたんぽでぬくぬくのはずのあたしの胸のあたり。今は隙間風の侵入をゆるしちゃってる。

 ゆゆしき事態じゃ!


「クロ!」


 あたしは、いつの間にか布団から消えている、天然ゆたんぽのクロを探した。あたしの愛しいゆたんぽちゃんはどこへ行った!

 ぬくぬくの痕跡は残ってるから。さほど遠くへは行ってないはず。探しに行けばすぐにゲットできる!


 だがここで問題が。

 寒くて布団から出れる気がしない。

 くそう、冬め!


「魔法で冬を燃やし尽くしてやろうぞ!」

『シーラ……なに朝から物騒なことを叫んでいるんだ』


 布団で息巻いてるあたしに、クロの冷たい声が飛んできて額にぶつかった。


「恋人にその仕打ちはないんじゃないの?」

『冬が暑かったらスキー場が潰れてしまう』


 艶々でキューティクルを輝かせた真っ黒な猫がひたひた歩いてくる。にょろんとした尻尾が色っぽい。


「なによ、クロはスキーなんかやらないじゃない!」

『魔法で空を飛んだほうが気持ちがいいからな』

「運動音痴のくせに!」

『できるけどやらないだけだ』


 クロはひげをピンとはってあたしの顔の前にお座りした。

 座ってるとぬいぐるみ並に可愛い黒猫ちゃん。涎が出そうだけどここは我慢。


「それは世間一般では()()()()って言われるのよ!」

『ふん、俺は世間ではない。猫だからな』


 クロはぷいっと顔をそむけちゃう。

 この、可愛いぬいぐるみちゃんめ!

 どうしてくれようぞ。

 布団に引き込んでもふもふの刑に処すべきか。

 それとも更なるふさふさを求めて風呂に入れて丸洗いすべきか。


 迷う。

 マジ迷う。

 どちらも捨てがたい。

 だが一挙両得はできぬ。

 しからばまずはぬくもりじゃ!


『そろそろ朝食……』

「でりゃ!」


 気合を入れて寒い空気に腕をさらしてクロを捕まえて布団にご招待する。

 捕縛完了黒猫ゲットだぜ!


「ようこそ布団の底なし沼へ」

『あほか!』


 暴れるけど絶対に爪では引っ掻かないクロを胸に抱き寄せる。あーはいうけど、あたしの恋人君はかっこよくて優しい。

 だが今の恋人はぬくくない。


「ちょっとクロ、体が冷えてるじゃない!」

『休みだからっていつまでも起きないお前の代わりに朝食の用意をしていたんだが?』


 胸元のクロからは、ちょっと機嫌の悪い声がする。

 できる猫は一味違うってのね。


「じゃあ、できる猫さんにはちゅーしてあげるわよ」

『それは人間の時にお願いしたいんだが?』

「仕事に出かける前にいつもしてるじゃない」


 クロはあたしが仕事に行く時はかっこいい人間の姿に戻ってお見送りしてくれる。彼はあたしよりも遅く家を出るからね。

 優秀な魔法使いの彼は、今は魔法薬を作って売っている。じつはあたしよりも稼ぎはいい。

 でも家ではあたしのお願いを聞いて猫の姿でいてくれる、ナイスガイ。


 そんなすっごい魔法使いのクロも猫の自分にヤキモチ焼いちゃう困ったサン。

 すっと一緒にいたいのだ。 


「温泉に行きたいなー。あったまりたいなー、家事を忘れたいなー」

『行きたければ休みをとれ。最近は残業ばっかりだろ?』


 胸元からするっと抜け出したクロが、あたしの目の前にニュっと顔を出してきた。

 器用にジト目で見つめてくる。

 まったく器用な猫ちゃんなんだから。

 まぁ、そもそも人間だからね。それくらいできるわよね。


『そうだろうと思って、温泉宿を確保しておいた。朝食をとったら出るぞ』


 ななんと、マジですか?

 なんてデキル猫ちゃん。じゃない彼氏!

 そろそろ婚約者に昇格させてあげようか?

 いや待て、まだ早い。身体を許してからまだ日が浅い。

 じらすテクニックを駆使するのも、いい女の条件ではないのか?

 ここは静観しておこう。あわてる乞食はもらいが少ないっていうじゃない。

 乞食じゃないけどさ。


『なーに考えてるか、おおよそ見当はつくけど……』

「わかってるって、さっさと布団から脱出よ!」


 寒い冬の朝、こんな風に布団からあたしを追い出す恋人(恋猫?)は、ほんとに優秀。


「でも貸切風呂でもあんたは猫のままね」

『にゃんだって!?』


 尻尾をピンと立てて驚くクロに、あたしは「にしし」と笑ってやった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かわいい! クロ、欲しい!! ぬくぬくしたい!! 朝食を作ってくれる猫だなんて…… なんだこれ、私の理想がここに……
[良い点] あまいいいい!!!! [一言] 戌年ですが、あえてのもふっとお猫さまて来る辺りが最高です。なんという素晴らしい企画なのか。これは旅立つしかありませんね。 ええ、実は桃色の世界を期待した私…
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