葛藤
夜中に、またものスゴイ振動音が団地に響いた。
私はふと少女の事が気になった。私は何か予感を感じ、自分の庭へ行ってみた。
少女はいた。鬱蒼とした暗闇の中で少女は白い椅子の上で膝を抱えうずくまっていた。私は草むらからそんな少女をしばらく見つめた。
「私の部屋へ来ないか」
そんな言葉が喉元まで出かかっていた。
私も決して恵まれた子供だったとは思わない。私も孤独だった。しかし、常識的な親はいて、窮乏するほどに食べることに困ることも、お金に困ることも無かった。夜には安心して眠れるベッドもあった。
「私の部屋へ来ないか」
喉元まで出かかっている言葉は硬直したまま言葉にならなかった。
私の全身に言い知れぬ無力感が浸み渡って行くのを感じた。私の両手はいつの間にか思いっきり握りしめられていた。
私は無惨に自分の部屋へと一人帰り着いた。いつもは一日二本と決めているビールの三本目を開けた。
「私にどうしろというのだ」
そんな自分への問いかけも、背中にぬめっとへばりついた後ろめたさの中で虚しく空回りするだけだった。
四本目のビールを飲んでもまったく酔えるような気分ではなかった。言い知れぬ罪悪感が私を離さなかった。頭の中を巡り巡る言い訳を、考え得る限りの言葉と理屈で補強し、武装しても、私の心は全く晴れることはなかった。
私は自責の苦しみから逃れるように、再び自分の庭へ走った。しかし、少女はもうそこにはいなかった。




