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ある団地の庭の書斎にて  作者: ロッドユール
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庭の書斎

 今日も昼少し前に起き、けだるい体でスーパーの陳列棚で一番安い値段の付いていたインスタントコーヒーを淹れ、それを片手にちびちびとまだ眠っている老朽化した胃に啜り入れた。

 私の職業は一応作家だった。しかし、最近では全く収入はなく、過去に出した本の印税と、その本で取った賞の賞金合わせて七百万円程の貯金も使い果たそうとしていた。

 私はコーヒーの入ったマグカップを片手にベランダに出ると、そこから見える団地の敷地を見回した。団地の庭はもう、ジャングルのように荒れ放題に荒れ果てていた。もともと、直ぐ隣りが山で、鬱蒼とした森になっていたところに、ここ何年も敷地内の手入れがされなくなり、完全に山と敷地は同化し、野生化してしまっていた。身長よりも高い草が生い茂り、庭に植えられていた庭木も伸びるがままに巨大化していた。

 私は、突如思い立ち、その荒れ果てた庭に降り立った。ベランダから少し離れたところに、枝を、使い勝手のいい傘のように横に大きく広げた程よい大きさの木が立っていた。私はその木の下まで行くと、手にした錆びたカマでその場の草を刈り始めた。

 私は自分の空間をそこに造ろうと思った。私だけの快適な空間。だが、それは思った以上に重労働だった。運動不足の私の体に、慣れない姿勢での草刈りの一つ一つの動きが、ギシギシと体に響いた。

 大粒の汗を吹き出し、蚊に刺され、虫にたかられ、それでも私は草を刈り、地を慣らし、ほぼ一日をかけ、その空間を作り上げた。そして私は部屋から机を持ってきてそこに置き、椅子を置くとその上に必要なものを並べた。

 出来上がった私の空間は長い草丈が横からの、木の枝が上からの視線を完全にシャットアウトしてくれて、そこは団地の敷地でありながら完全な私のプライベートな空間になった。私はその改めて完成した空間を見つめ、想像以上の出来栄えに私は子供のように興奮した。

 もともと、この団地にはもう人は殆ど住んでおらず、私の部屋のある号棟にも空き家が並んでいた。上も隣りも斜め上も人は住んでいなかったし、五階までのその上の階にも二件ほどにお年寄りが侘しく住んでいるだけだった。

 私の部屋は一階の角部屋でしかもこの棟自体が団地群の角にあり、隣りに建物はないときている。私は広大な敷地の中に完全に自由な空間を手に入れたも同然だった。

 それから私はその空間で、仕事をし、食事をし、読書をした。日々草の匂いと、木陰の涼しさと風の音が、そんな私を心地良く流れていった。今まで自分がこの空間なしでどうやって生きていたのか不思議に思うくらい、そこは快適だった。


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