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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第七章 魂を導く乙女達
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第八十八話 罪と向き合えたのは

 九十九と千里の目の前にいるのは、かつて、愛した人達。

 だが、守れず、自らの手で殺した。

 巻き込んでしまい、自分のせいで、命を落とした。

 その彼女達が、九十九と千里の目の前にいるのだ。

 状況を理解できずにいた。


「なんで、お前がいるんだよ……椿……」


「茜……藍……。本物……なのか?」


 九十九と千里は、声を震わせて問いかけるが、返事をしない。

 これは、幻だ。

 自分達は、幻にとらわれている。

 そう、自分に言い聞かせる九十九と千里。

 頭では理解しているが、心が否定できずにいるのだ。


「九十九?千里?」


 光焔は、九十九と千里に問いかける。

 どうやら、椿、茜と藍の姿は、光焔達には、見えていないようだ。

 そのため、彼らは、理解できなかった。

 九十九と千里は、なぜ、戸惑っているのか。

 彼らは、何を見たというのか。

 二人に対して、背を向け、歩き始めた椿と茜と藍。

 三人は、樹海の奥へと消えるように入っていった。


「待て!」


「行くな!」


 九十九と千里は、手を伸ばして、彼女達を後を追う。

 もう、幻であっても、否定できなかった。

 ただ、彼女達を見た途端、彼女達に会いたいと強く願ったばかりに。


「九十九!千里!」


「どこに行くの!」


 綾姫と瑠璃は、九十九と千里を制止させようとするが、彼女達の声は、二人に届かず、樹海の奥へと消えてしまった。

 光焔たちも、後を追うが、すでに二人の姿は見当たらなかった。

 あたりを見回しても……。


「もしかして……」


「幻にとらわれたのかもしれぬ」


 光焔と高清は、悟る。

 どうやら、九十九と千里は、幻にとらわれてしまったようだ。

 あれほど、気をつけろと謎の人物に、忠告されていたにもかかわらず。

 いや、二人なら、幻さえも、打ち消せると思っていたのだが、とらわれてしまったようだ。


「やれやれ、少しは、冷静になってほしいよ」


「本当にね。けど、あの二人が、我を忘れて、行っちゃうなんてね……」


 柘榴は、あきれた様子で呟く。

 これでは、彼らと合流するだけでも、手間がかかると愕然としながら。

 景時も、あきれてはいたが、何か思うところはあるようだ。

 自分達の声が、聞こえないほどなのだから。


「それほど、会いたい人がいたのかもしれないわね」


「そうだと思う。私も、そんな気がした……」


 綾姫と瑠璃は、九十九と千里の様子を見て、察した。

 彼らが、何を見たのか。

 おそらく、彼らが、会いたいと願った人物なのだろう。

 もう、会えなくなった彼女達なのだと。

 ゆえに、彼らの心情を理解したのだ。

 幻を振り払えないくらいだったのだと。

 だが、一刻も早く九十九達と合流しなければならない。

 そうでなければ、彼らは、一生、幻にとらわれてしまうだろう。

 光焔達は、焦燥に駆られ、九十九と千里の後を追った。



 九十九は、柚月を抱えながら、走っていく。

 椿の姿を見つける為に。


「椿!どこだ!」


 九十九は、椿の名を呼び、叫ぶ。

 だが、返事はない。

 彼女が姿を現すこともなかった。

 九十九は、立ち止まり、息を整えた。

 あたりを見回しながら。


「いねぇ……幻だったのか……」


 九十九は、ようやく悟った。 

 自分が見た椿は、幻であり、自分は、幻に、とらわれてしまったのではないかと。

 呼吸を整えて、息を吐く九十九。

 情けない。

 幻さえも、見抜けなかったとはと嘆きながら。

 その時であった。


「九十九!」


「千里!」


 千里が、九十九の名を呼ぶ。

 九十九は、振り向くと千里が、朧を抱えて九十九の元へ駆け付けた。

 それも、汗をかきながら。

 立ち止まり、息を整え始める千里。

 ここで、九十九は、察した。

 千里は、自分を追いかけてきたのだと。

 自分が、幻にとらわれてしまったばかりに、千里に迷惑をかけてしまった。

 そう、自分を責めた九十九であった。


「わりぃ、俺……」


「いや、俺も、人のことは言えない」


「え?」


「俺も、幻にとらわれた。茜と藍が見えたんだ」


「そうか……」


 九十九は、千里に謝罪しようとするが、千里は、九十九に真実を打ち明ける。

 自分も、幻にとらわれてしまったのだ。

 かつて、大事にしていた茜と藍の姿を見てしまい、我を忘れてしまったと。

 九十九は、千里の心情を理解した。

 自分と同じように、幻にとらわれてしまったのだと。

 それほど、彼女達に、会いたかったのだと。

 自分と同じように。


「俺達、まだ、とらわれてるのかもしれねぇな。罪の意識に」


「いや、そうとは思えない」


「え?」


 九十九は、自分を責めた。

 罪を償えたと感じ取っていたのだが、そうではないのかもしれない。

 罪の意識に苛まれたがゆえに、彼女の幻影を見てしまったのではないか。

 そう、推測したようだ。

 しかし、千里は、違うのではないかと否定する。

 九十九は、驚き、困惑した。

 なぜ、そう言いきれるのだろうかと。


「声が聞こえた気がした。まるで、俺達を導いてくれてる気がしたんだ」


「……そうだといいんだけどな」


 千里は、理由を語る。

 声が聞こえたというのだ。

 おそらく、茜と藍の声なのだろう。

 自分が、惑わされているとは、思えないようだ。

 彼女達とは、長年、共に過ごしてきたからこそ、そう、言いきれるのであろう。

 九十九も、疑っているわけではないが、謎の人物のあの忠告が頭をよぎる。

 ゆえに、警戒心を解くことは、できなかった。


「とりあえず、どうするよ」


「さすがに後戻りは、できそうにないな。進むしかない」


「だよな。後で、綾姫達に怒られそうだけど」


「覚悟するしかないな」


「おう」


 綾姫達とはぐれてしまった九十九と千里だが、ここで引き返そうにも引き返せない状態だ。 

 この入り組んだ樹海の中では。

 ならば、いっそのこと先に進むしかない。

 行先は同じなのだから。

 あとで、綾姫達と合流したら、怒られることは間違いないだろうが。

 九十九と千里は、進み始める。

 樹海の乙女に会いに。



 進み続けた九十九と千里であったが、未だに、樹海の乙女は、見当たらない。

 やはり、そう簡単には見つからないようだ。


「そう簡単には、見つからないか」


「みてぇだな」


 九十九と千里は、立ち止まる。

 綾姫達とも合流できていない。

 このまま、先に進んでいいものかと思考を巡らせる。

 その時であった。

 奥の方で、かすかに光が見えたのは。


「ん?なんか、奥が光ってるな」


「行ってみるか?」


「ああ」


 その光は、まるで、九十九達を誘っているようだ。

 樹海の乙女達がいるとは限らない。

 だが、その光を頼りに進むしかないようだ。

 九十九と千里は、ある程度まで進むと、まばゆい光が九十九達を照らしている。

 今にも、目がくらみそうだ。

 だが、それゆえに、幻想的で美しく感じる。

 自分達に害はないように思えた。


「とりあえず、柚月達は、ここで休ませたほうがいいな」


「そうだな」


 一度、九十九と千里は、柚月と朧を樹にもたれかからせる。

 今も、ぐっすり眠っている二人。

 血のつながりがない兄弟は、本当の兄弟のように寄り添っていた。


「行くぞ」


「おう」


 九十九と千里は、先へ進む。

 そして、光に触れようとした瞬間、光が爆発するように、輝きを増していった。

 そのまばゆさに、目を閉じる九十九と千里。

 光が止むのを感じた時、恐る恐る目を開けた。

 しかし……。


「っ!」


 九十九と千里は、絶句する。

 なぜなら、二人は、過去を見ていたからだ。

 それは、消す事ができない過去、二人にとって最も残酷な過去だ。

 九十九が目にしたのは、最愛の人・椿をこの手で殺してしまった光景。

 千里が、目にしたのは、茜と藍が、命を失い、餡里が、人々を殺してしまった光景だ。

 全ては、自分の発端で。


「あ、あれは……俺か?」


「なぜ……これが、幻なのか……俺達は、とらわれてしまったのか……」


 愕然とする二人。

 罪が、二人へと襲い掛かる。

 幻にとらわれてしまったと自覚していながらも、抜け出すことができない。

 その光景は、何度も、何度も、二人に見せるのだから。

 まるで、二人を責めているかのように。


「やっぱり、俺は……」


「すまない……」


 九十九も、千里も、あきらめようとする。

 もがけば、もがくほど、その光景が、目に浮かんでしまうのだから。

 二人は、罪は償えていないと錯覚し、目を閉じようとした。 

 しかし……。


――逃げるな!九十九!


「柚月?」


――千里、大丈夫だからな!


「お、朧?」


 柚月と朧の声がする。

 まるで、彼らを呼び戻すかのように。

 あきらめるなと告げているかのようだ。

 九十九と千里は、ぐっとこぶしを握る。

 自分達が、ここにいるのは、柚月と朧のおかげだから。

 最愛の姉を自分が殺したにもかかわらず、柚月は、自分を受け入れ、許してくれた。

 罪を重ね、利用し、裏切り、嘘を重ねたにもかかわらず、朧は、最後まで、自分から離れようとしなかった。


「たく、本当に変わった奴だな」


「ああ、本当にな」


 二人は、自嘲気味に笑う。 

 思い返せば、不思議な奴らだ。

 本来なら、憎まれても仕方がないはずなのに、受け入れてくれる。

 だが、それが、心地いい。

 九十九と千里は、刀を鞘から引き抜き、構えた。


「確かに、俺達は、罪を犯した。だが、受け入れ進むと決めた」


「おうよ。幻なんて、くそくらえだ!ぶっ壊してやる!」


「同感だ!」


 九十九と千里は、薙ぎ払うように斬る。

 幻を破壊すると決めて。

 すると、その光景が硝子のように砕け散り、九十九と千里は、樹海に立っていた。


「幻が、壊れた?」


「いや、違う」


「妖!?」


 自分達が切ったのは、幻だったのかと錯覚する九十九だ。

 だが、そうではないようだ。

 その光景は、幻ではなく、なんと、妖であった。

 その妖は、獅子のような姿をしていた。


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