第七十六話 二人の正体
柘榴達の元へ駆け付けた柚月達は、構える。
彼らは、牡丹から話を聞かされ、知ってしまったのだ。
静居が、大戦を仕掛けた事。
そして、柘榴達が、覚悟を決めて、静居軍の隊士達と死闘を繰り広げている事を。
彼らを助けるため、柚月達は、ここに駆け付けたのであった。
柘榴達は、あたりを見回すが、光焔の姿は見たらない。
おそらく、光城に残してきたのだろう。
彼を巻き込ませないために。
「すまない。遅くなった」
「遅いよ。待ちくたびれたんだけど」
――けど、助かったっす!
謝罪する柚月に対して、皮肉ってみせる柘榴。
だが、その表情は、どこか、嬉しそうだ。
ようやく、柚月達が来た事を喜んでいるのだろう。
真登も、柘榴の荷が下りたのではないかと胸をなでおろした。
柚月達の背中がたくましく、頼もしく見えるほどに。
「ふうん、なるほどね。確かに似てるね」
柚月を目にした少年は、不敵な笑みを浮かべる。
確信したようだ。
静居が言っていた葵に似ている男と言うのは、柚月の事ではないかと。
内心、驚くほどに似ているのだ。
だが、葵の肉親でないはずの彼が、なぜ似ているのかは、少年も、見当がつかなかった。
「オマエハ……アオイ、カ?」
「え?」
獣じみた男は、柚月に問いかける。
柚月は、困惑し、あっけにとられていた。
だが、獣じみた男は、柚月をにらみつける。
まるで、殺意をぶつけるかのように。
獣じみた男は、体を震わせ始めた。
柚月に対して、怒りを露わにしているかのようだ。
「アオイ……アオイ……ユルサナイ!ゼッタイニ、ユルサナイ!」
「柚月!」
獣じみた男は、いきり立って、柚月に襲い掛かる。
柚月を殺そうとしているようだ。
綾姫は、とっさに、結界・水錬の舞を発動して、結界を張ろうとするが、彼女が発動し終える前に、朧が、千里を憑依させ、柚月の前に出て、獣じみた男の攻撃を受け止めた。
だが、全力で受け止めても、獣じみた男は、唸り声を上げながら、力任せに、襲うとしている。
押しのけられそうになるほどだ。
九十九は、危機を察したのか、九尾の炎を放つ。
獣じみた男は、すぐさま、回避し、後退し、柚月達と距離を取った。
――なんだ?こいつ……力が……。
――朧、気をつけろ!こいつは、妖じゃない!
彼のこぶしを受け止めた朧が、察する。
目の前にいる男は、今まで対峙してきた妖達とは、桁違いの力を持っていると。
千里も、異様な力を察知したのか、朧に、警告する。
しかも、彼は、意外な言葉を口にした。
獣じみた男は、妖ではないというのだ。
だが、人間のようには、思えない。
彼は、一体、何者なのだろうか。
「この異様な気配、なんなんだよ……」
九十九も、珍しく、警戒しているようだ。
それほど、異様な気配を感じたという事なのだろう。
彼は、妖の姿をした人なのか。
それとも、別の力を手にしたなれの果てなのか。
「この人、変」
「ええ、気をつけてください。瑠璃」
瑠璃と美鬼も、警戒する。
今までの妖達とは異なり、異様だと。
「アオイ……アオイヲ、コロス……」
「葵って皇城葵様の事?」
獣じみた男が、「アオイ」と呟き、綾姫は、その「アオイ」と言う人物が、静居の弟君である葵ではないかと悟る。
だが、なぜ、この男は、柚月を見て、「アオイ」と呼んだのだろうか。
少年も、先ほど、似ているとつぶやいていた。
そして、笠斎も「あいつ」に似ていると。
おそらく、彼らは、柚月と葵が似ていると言いたいのだろう。
だが、思考巡らせても、なぜ、彼らは、二人が似ていると言いたいのか、見当もつかなかった。
「その通りだよ!」
少年が、柚月達の前に出て答える。
獣じみた男が言う「アオイ」と言う人物は、「皇城葵」の事を指しているのだと。
だが、やはり、見当がつかない。
なぜ、柚月を見て、「アオイ」と呼んだのか。
「でも、彼は、葵じゃないよ。千草」
「……アオイジャナイ?」
少年は、獣じみた男に説明する。
柚月は、「葵」ではないと。
別人なのだと。
千草と呼ばれた獣じみた男は、柚月を凝視して、首をかしげる。
柚月と葵は、別人であることを認識したかのように。
だが、柚月達が、気になったのは、少年が、彼の事を「千草」と読んだことであった。
「千草、どこかで……」
「千草」と言う名を聞いた柚月達は、警戒しながらも、思考を巡らせる。
だが、どこで聞いたかは、定かではない。
それでも、思い出さなければならない気がしてならない柚月達。
すると、ある事が頭に浮かんできた。
それは、「静居」と「葵」、そして、「千草」の事だ。
彼は、深い関わりがある。
それゆえに、柚月は、千草が、何者のなのか、気付いてしまった。
「静居の父親か!?」
「せーいかーい!」
柚月は、愕然とした様子で叫ぶ。
すると、少年が、楽しそうにうなずいていた。
なんと、千草は、皇城家の人間であり、静居と葵の父親だというのだ。
「この人は、皇城静居の父親、皇城千草だよ。そして……君達が、殺そうとしていた深淵の囚人さ」
少年は、無邪気に説明し始め、柚月達は、驚愕する。
なんと、目の前にいる人物は、深淵の囚人だというのだ。
つまり、葵は、自分の父親をあの深淵の界に封印したという。
静居は、実の父親を復活させたというのだ。
なぜ、葵は、千草を封印し、なぜ、静居は、千草を復活させたのだろうか。
いや、気になるのは、それだけではない。
なぜ、千草は、「深淵の囚人」と呼ばれ、封印されることになったのだろうか。
「あはは!びっくりした?でも、嘘じゃないよ?本当のことさ」
少年は、笑いながら、語りかける。
柚月達は、信じられなかった。
目の前にいる男の正体が、皇城千草であり、深淵の囚人だという事を。
だが、それは、まぎれもない事実のようだ。
少年の様子をうかがっていた柚月達は、少年が、偽っているように、柚月達は、思えなかった。
「さて、なぜ、彼は、深淵の囚人となったか知ってる?答えは、これです!」
少年は、千草が、深淵の囚人となった原因を明かす。
彼の肩に飛び乗り、無造作に、千草の前髪をかき上げたのだ。
すると、千草の額に聖印が刻まれているのが、見えた。
だが、それは、見た事がない異様な紋だ。
今まで、見てきた聖印と何かが違う。
まがまがしく、歪と言っても過言ではなかった。
「聖印か?」
「けど、あんな聖印見たことないわ」
柚月達は、目を見開き、騒然とする。
誰も見た事がない聖印を千草は、その身に宿しているのだ。
だが、それが、今の姿となり、深淵の囚人として封印された要因につながるのだろうか。
思考を巡らせる柚月達。
だが、彼らは、ある事に気付いた。
よく見ると、その聖印は、皇城家の龍と太陽、鳳城家の鳳凰と月、天城家の獅子と星、千城家の金魚と雫、万城家の蝶と雪、蓮城家の虎と蓮、安城家の馬と桜、真城家の鶴と牡丹が、重なり合って刻まれている事に……。
「まさか……すべての聖印をその身に宿しているのか!?」
柚月達は、察した。
千草は、全ての聖印をその身に宿していたのだ。
ゆえに、凶悪。
ゆえに、凶暴。
だが、全ての聖印を宿した者がいるなど誰も聞いたことがなかった。
「そうそう。その通りだよ!全ての聖印をその身に宿した。だから、千草は、人なのに、妖みたいになっちゃったんだよ。君達みたいにね」
「まさか、聖印渡しを……」
少年が、高清達を見て、にやりと口をゆがませる。
彼の説明を聞いた高清は、察してしまったのだ。
千草は、自分達と同じ、聖印渡しを行ったのだと。
しかも、全ての聖印を。
もし、自分達と同じ手法で聖印を手に入れたとなれば、納得がいく。
その身に、妖気を宿したことになるからだ。
一つの聖印だけでも、暴走してしまうというのに、全ての聖印を宿したとなれば、想像は、計り知れない。
人の姿ではなくなり、自我を失ってもおかしくはなかった。
だが、柚月達は、一つの疑問が浮かび上がった。
この少年は、なぜ、千草に関して、これほど詳しいのだろうか。
彼の正体は、不明だ。
彼は、何者なのだろうか。
「さて、なぜ、ボクが彼の事を詳しく知ってるかって思ってるみたいだね、答えは簡単だよ!ボクは、千草に付き従う妖、村正だからね!」
ついに、少年は、自分の正体を明かす。
なんと、彼は、千草につき従う妖だというのだ。
つまり、彼は、千年前から生きている鬼の一族の生き残りというわけだ。
おそらく、蓮城家と安城家の聖印を宿した時に、彼と契約したのだろう。
柚月達は、村正を警戒した。
鬼の一族は、妖の中でも、最強の一族。
彼の戦闘能力は、推測できない。
ゆえに、千草同様、用心すべき相手であった。
「さあ、おしゃべりは、ここまでにしよう!続き、やろう?」
村正が、そう告げると、突如、妖気を放ち始める。
すると、千草がそれに反応するように、雄たけびを上げ始めた。
音圧と妖気が柚月達を襲い、柚月達は、思わず、手を前に出して、防御態勢に入る。
妖気と殺気に、押しつぶされてしまうのではないかと感じたからだ。
――まずいね。このまま、全員で挑んだとしても、全滅の可能性がある。となれば……。
柘榴は、額に汗をにじませる。
柚月達が、合流したとしても、勝ち目がないと悟っているからだ。
それほど、千草と村正の力が驚異的だと感じているのだろう。
それに、彼らは、まだ、本気を見せていない。
このまま、全力で死闘を繰り広げたとしても、全滅の可能性があるだろう。
柘榴は、そう、予想していた。
ゆえに、彼は、ある選択を選んだ。
「柚君、朧とつくもん、千里を連れて、先に行って」
「なっ!正気か、柘榴!」
柘榴は、柚月に、朧と九十九、千里を連れて、先に行くように促す。
柚月達に託したのだ。
静居を止め、この大戦を終わらせることを。
だが、柚月は、驚愕し、反論する。
柚月も、察していたからであろう。
全員で挑まなければ、千草と村正に、勝てないと。
「ここで、足止めを喰らってる場合じゃないんだよ。静居を止めないと。こっちは、不利になってきてる。瑠璃達が、戻ってきてくれたんだ。この人数なら、押し切れるよ」
「……わかった」
柘榴は、説得する。
静居を止めなければ、大戦は止められない。
綾姫、瑠璃、美鬼が加われば、押し切れると言うが、それも、嘘だ。
だが、そうやって言わなければ、柚月は、納得しないだろう。
柚月は、うなずき、承諾するが、実際は、納得などしていない。
彼らの身を案じていた。
それでも、承諾した理由は、静居を止める事で、勝ち目が見えてくるかもしれない。
ゆえに、柚月は、静居に元へ行くことを決めた。
朧達も、同様に、承諾し、うなずいていた。
「行くぞ!」




