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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第六章 聖妖大戦
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第七十四話 将軍達の裏切り

 獣じみた男は、雄たけびを上げ続ける。

 まるで、力を放出しているようだ。

 このまま、暴れまわろうとしているだろう。

 それほど、獣じみた男は、戦いに身を投じる事を待ちわびていたかのようだ。

 空巴達は、獣じみた男を警戒する。

 彼が、人間だとは、とても思えない。

 だが、妖とも思えなかった。


「ほらほら、興奮しないの!」


 少年が、怖気づくことなく、かかとで、獣じみた男をつつく。

 その一つの行動だけで、獣じみた男は、見る見るうちにおとなしくなったのだ。

 あっけにとられる神々達。

 少年は、明らかに鬼の妖だが、獣じみた男を制御できるとは思いもよらなかったのだろう。


「ごめんね。神様」


 少年は、空巴達に謝罪する。

 だが、無邪気に笑みを浮かべたままだ。

 神々を恐れている様子はなかった。

 まるで、自分が神と対等であると思っているかのように。


『お、お前は、何者だ?』


「さあ、誰でしょう?」


 空巴が、少年に問いただすが、少年は、問い返す。

 答えるつもりはないようだ。

 少年は、勢いよく、獣じみた男から飛び降り、宙に浮き始める。

 空を飛ぶ鬼など、聞いたことがない。

 いや、彼は、本当に鬼なのだろうか。

 それすらも、疑わしく感じた空巴達であった。


「コロス……ゼンイン!」


 獣じみた男が、空巴達に襲い掛かる。

 だが、空巴が、泉那と李桜の前に出て、獣じみた男を手をつかみ、強引に、押し返そうとするが、獣じみた男は、引き下がろうとしない。

 空巴は、天空海闊を発動し、獣じみた男の皮膚を切り裂く。

 獣じみた男は、すぐさま、後退するが、ただ、唸り声を上げている。

 体中を切り刻まれても、平然としていられるようであった。

 空巴は、少年の様子をうかがう。

 少年は、ただ、笑みを浮かべるばかりだ。

 参戦するつもりはないようだ。

 ただ、傍観者として、獣じみた男の様子をうかがっていた。

 だが、こちらとしては、好都合だ。

 彼の戦力は未知数。

 ここで、少年が、戦いに参加すれば、こちらが、圧倒的に不利な状況となってしまうだろう。

 空巴は、今は、獣じみた男の戦いに集中するしかなかった。


『ここは、私が、やる!泉那と李桜は、夜深を頼む!』


『わかったわ!』


 夜深の事を泉那と李桜に任せ、泉那達は、夜深と再び対峙する。

 泉那は、明鏡止水、李桜は、百花繚乱を発動するが、夜深は、それをいとも簡単に、切り裂いてしまった。


『一人減ったから、楽になったわね!』


 一人減っただけだというのに、夜深は、余裕の笑みを浮かべている。

 反対に、泉那と李桜が、追い詰められたような表情を浮かべていた。

 やはり、それほど、夜深の力は、絶大なのであろう。

 夜深は、容赦なく、二人に襲い掛かり、彼女達は、攻防を繰り広げ始めた。



 静居は、ただ、一人、空を見上げている。

 夜深と獣じみた男の戦いを観戦しているようだ。

 と言っても、彼女達を身を案じているわけではない。

 勝利を確信しているようだ。

 静居は、口をゆがませ、戦場へと視線を移す。

 戦場は、もはや、血の海とへと変わり、無数の死体が横たわっている。

 それほどの命が、失われてしまったのだ。

 静居の思惑に巻き込まれて。


「さて、そろそろ、か」


 静居は、何かを悟ったのか、そう呟いた。

 何が、始まろうとしているのだろうか……。



 篤丸の部下達は、苦戦を強いられていた。

 当然だ。

 今まで、篤丸が、召喚した空懸ける馬のおかげで、生きながらえたようなものだ。

 静居軍の隊士達は、容赦なく、次々と篤丸の部下を切り裂いていく。

 心臓を貫かれ、首を斬り落とされた者達もいる。

 残虐すぎる。

 あれほど、人を守ろうとしていた彼らが、いとも簡単に操られ、残酷な手口で、人々の命を奪ってしまうのだから。

 静居と言う男は、それほど、恐ろしく、残忍なのだろう。

 部下が、命を落としても、篤丸は、術を発動し続けた。


「あ、篤丸将軍、た、助けて……」


 部下の一人が、篤丸に助けを求める。

 だが、その直後、彼は、胴体を切り裂かれ、命を散らした。

 それでも、篤丸は、振り返る事も、顔色一つ変える事も、しない。

 まるで、部下を斬り捨てるかのようであった。


「無理だよ。僕は、やるべきことがあるからさ」


 篤丸は、彼らの悲鳴を聞いても、動じる事はなかった。

 助けようともしせずに。

 篤丸は、あたりを見回す。

 どうやら、術を発動しているのは、篤丸だけではない。

 おそらく、将軍達、全員、術を発動しているのだろう。


「ふう、やっと、皆、完了したみたいだね。さあ、始めようか!」


 全員の術を感知した篤丸は、術を空へ向けて解き放つ。

 すると、今度は、大幣から、空懸ける馬を召喚させるが、その馬が、なぜか、空へと飛びあがっていく。

 まるで、術に吸い込まれるように。

 馬が、術と融合し、さらには、満英が発動した術と召喚された鳳凰も融合し、篤丸が、発動した術とさらに融合した。

 その時だ。

 その術は、黒く変色し、まがまがしい柱へと変わってしまったのは。


「え?」


「こ、今度は何だ?」


 和泉も、透馬も、異変に気付き、空を見上げる。

 三つの黒くてまがまがしい柱が、出現していたからだ。

 どうやら、春見、藤代、蛍、世津が、あの柱を出現させたらしい。

 一体、何が始まろうというのであろうか。



「やっと、始まったでごわすな」


 牢屋に閉じ込められていたはずの濠嵐が、牢屋から脱出し、戦場に向かっていた。

 黒くまがまがしい柱を見上げながら。

 彼は、脱獄したのだ。

 部下を利用して、殺して。

 全ては、この時のためだ。

 黒くまがまがしい柱の出現に成功したと確信を得た濠嵐は、不敵な笑みを浮かべていた。



 撫子は、愕然としながら、空を見上げている。

 何かを悟ったようで、全身を震え上がらせていた。


「あれは、まさか……。妖を犠牲にして、神々を復活させようとしとるんどすの?」


 撫子は、あの柱が、何を意味しているのか、知っていた。

 あの柱は、神々を復活させるための、儀式だ。

 それも、夜深についていた神々の。

 神々を復活させるには、多くの命と強力な力を持つ妖の命が必要であった。

 彼らは、この為に、戦場に身を投じ、多くの命を奪ったのだ。

 神々を復活させるための生贄として。

 

「あの子らは、あてを裏切っとったんどすか!?」


 撫子は、察してしまったようだ。

 裏切っていたのは、濠嵐だけではない。

 七大将軍、全員が、裏切っていたのだと。


「帝は、気付いたかもしれんでごわすな。だが、もう遅い!」


 濠嵐は、撫子が、篤丸達まで、裏切っていた事に気付いたのではないかと勘繰る。

 だが、時すでに遅し。

 彼らは、神々を復活させようとしているのだ。

 彼らが、裏切った理由は、生き延びるためだ。

 撫子についていても、静居の脅威からは、逃れられない。

 それゆえに、濠嵐に促されて、撫子を裏切ったのだ。

 そして、静居の密命で、神々を復活させようとしていた。


「この時の為に、我らは、人と妖を殺し続けた!」


「これで、平皇京は、僕達のものだ!」


「ごめんね、帝。裏切っちゃって」


 満英、篤丸、蛍は、狂気の笑みを浮かべながら、宣言する。

 大戦に身を投じ、多くの命をためらいなく奪ってきたのは、神々を復活させるため。

 召喚した妖達に人々や妖を殺させることで、命を奪ったのだ。

 全ては、平皇京を手に入れるためだ。

 そのためなら、帝である撫子を裏切ったとしても、気にも留めない。

 自分達が、無事ならそれでいいのだ。

 そう思っていた篤丸達であった。

 しかし、彼らは悲劇に見舞われる。 

 なんと、黒くまがまがしい柱の範囲が広がり、篤丸達までも、巻き添えにし始めたのだ。


「な、何!?なんか、おかしいぞ!?どうなってやがるんだい!?」


「か、体が……吸い込まれていく……どうして、ですか!?」


「まさか、僕達は……利用されたの!?」


 春見、藤代、世津は、戸惑いを隠せない。

 抵抗し、もがこうとするが、体が動かせないのだ。

 それどころか、柱の中心に吸い込まれそうになっていく。

 回避する手段はない。


「こ、こんな、はずでは……」


 巨大化した柱を目にした濠嵐は、愕然とする。

 あれでは、篤丸達まで、巻き込まれた事が目に見えて分かったからだ。

 濠嵐は、知らなかった。

 篤丸達まで、巻き添えにされたなどと。

 いや、彼らは、助かると静居から聞かされていたのだ。

 ゆえに、彼らに命じたのだ。

 妖を生贄にして、神々を復活させよと。


「い、嫌だ!嫌だ!助けて、濠嵐!話が違うじゃないか!」


 篤丸は、涙ながらに濠嵐に向かって叫ぶ。

 自分達は、助かると聞いていたから、実行しただけの事だ。

 まさか、自分達まで、生贄にされるとは、知らされていない。

 静居は、篤丸達まで、捨て駒として斬り捨てたのだ。

 神々を復活させるための生贄と見なして。

 ゆえに、濠嵐と篤丸達、七大将軍を利用したに過ぎなかった。


「嫌だあああああああっ!!!」


 篤丸達は、泣き叫びながら、吸い込まれ、跡形もなく消滅した。

 その直後だ。

 爆発が起こり、三柱の神々が、姿を現したのは。


「あれは……神々?」


「うそでしょ?」


 高清も、和巳も、愕然として、空を見上げている。

 なんと、神々が復活したのだ。

 それも、夜深についていた神々であろう。

 姿は、はっきりとは、見えないが、目に映っているのは、神々だという事だけはわかった。

 その理由は、三柱の神々は、まがまがしい気を放っているからだ。

 それゆえに、柘榴達は、悟ってしまったのだ。

 あの神々は、自分達の味方ではないと。


『まさか、復活を遂げてしまったのか!?』


『しかも、人や妖の命を生贄にして……』


『まずいわね……。まさか、こんなことになるんて……』


 空巴達も、同様に愕然としている。

 まさか、神々が復活するとは、思ってもみなかったのであろう。

 彼らも、封印されていたのだ。

 光の神の力によって。

 だが、神々は、復活してしまった。

 静居の思惑通りに事が進んでしまったのであった。


『ようやく、目覚めたわね。待っていたわ』


 夜深は、妖艶な笑みを浮かべながら、神々の前に現れる。

 再会を喜んでいるかのように。

 三柱の神々も不敵な笑みを浮かべ、復活を喜んでいた。


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