第七十話 戦の始まり
柚月達は、光城へ帰還することに成功する。
だが、笠斎達は、閉じ込められてしまった。
柚月達を脱出させるために……。
笠斎達は、無事なのだろうか。
光焔は、笠斎達の無事を祈りつつ、光城に足を踏み入れた。
「ようやく、戻ってこれたな」
「早く、深淵の囚人の事、言わないと」
「ああ」
柚月も、朧も、胸をなでおろす暇もなく、行動を移そうとする。
深淵の囚人が、解放されてしまったのだ。
しかも、濠嵐が、裏切っていた。
この事を柘榴達に、報告しなければならない。
柚月達は、柘榴達の部屋へたどり着くが、柘榴達の姿はない。
誰もいなかったのだ。
これは、何かあったのだろうか。
不安に駆られる柚月達。
だが、その時だ。
「お前……」
「牡丹さん!?」
「ど、どうしたんですか!」
九十九は、背後から気配を察し、振り返る。
すると、柚月達の背後には、牡丹、保稀、凛、智以がいたのだ。
それも、不安に駆られた様子で。
朧も、綾姫も、嫌な予感が頭をよぎる。
自分達が、深淵の界に行っている間に何か起こった。
そう、確信したからであった。
「朧、大変なの!!」
「智以?何がだ?」
智以が、慌てた様子で、朧の元へ駆け付ける。
何があったというのだろうか。
朧は、不安に駆られながらも、智以に尋ねるが、智以は、答えようとしない。
説明ができないのだろう。
「……落ち着いて、聞いてや」
智以の代わりに牡丹が、説明し始める。
それも、重い口を開けて。
濠嵐の裏切りと深淵の囚人が解放された事、そして、静居が、平皇京へと進軍し始めた事を。
そして、それを柚月達に伝えるために、自分達が、ここで、待機するよう撫子に命じられたことを。
彼女の話を聞いた柚月達は、目を見開き、驚きのあまり、身を硬直させてしまった。
柚月達が、光城へ帰還する二時間前の事。
濠嵐から、静居が、平皇京へ進軍していると聞かされ、光城に残っていた仲間達を平皇城の大広間に呼び寄せる。
作戦を取るためだ。
これから、大戦が起こると予想しているからだ。
聖印一族と妖、聖印一族と人の大戦。
のちに、聖妖大戦と呼ばれる大戦が……。
「まずは、配置なんどすが、将軍たちは、隊を引き連れて、分かれて進軍してください」
撫子が、指示をし始める。
七大将軍である篤丸達は、濠嵐が裏切った事を聞かされ、衝撃を受けた。
だが、暗い表情を浮かべている場合ではない。
静居達や、着々と平皇京に近づいているはずだ。
対策を練り、進軍を止めなければならなかった。
「お供しなくてよいのか?」
「あんさん方は、妖を召喚できます。広範囲で、進軍を止められると思うんどす」
「確かにね。悪くない配置だと思う」
撫子の身を案じたからなのか、満英が撫子と共に行かなくていいのかと尋ねる。
撫子は、篤丸達は、宝器から、妖を召喚することができる。
しかも、妖が発動する技は、広範囲に効く。
ゆえに、彼らを散らばらせ、進軍する隊士達を食い止められると悟ったのだ。
世津も納得した様子でうなずいていた。
「それで、俺達は、どうしたらいい?麗しき帝をお守りすればよいのかな?」
「その通りどす」
「え?」
和巳は、撫子に尋ねる。
それも、撫子を口説きながら。
こんな時でも、口説くのかと内心、あきれてものも言えない透馬。
だが、今は、突っ込みしている場合ではない。
それほど、事態は深刻なのだから。
だが、撫子は、口説き文句をあしらうかのように、平然と答える。
これには、和巳も、拍子抜けしたような声を出してしまった。
「ほ、本当にですか?」
「そうどす」
夏乃は、確認するかのように、問いかける。
自分達も、将軍達と同様に、散らばって配置されると思っていたからだ。
だが、撫子は、肯定する。
何か、理由があるようだ。
「今は、守りを固めたほうがいい。と言う事でごぜぇやすな」
「はい。静居は、何をするかわかりまへんからなぁ」
高清が、理由に気付き、撫子に語りかける。
静居は、卑劣な手段を使う男だ。
一瞬の隙を狙って撫子の命を奪うかもしれない。
ゆえに、撫子は、数々の死闘を潜り抜けてきた英雄達を撫子の元へ配置させ、守りを固めようと考えたようだ。
「柚月達が、戻ってくるまでは、耐えるしかないな」
「柚月達に頼るしかないっすからね!」
透馬も、真登も、柚月達が、戻ってくるまで、戦い抜き、耐えるしかないと考えているようだ。
自分達の戦力では、静居には到底かなわないと悟っているからであろう。
柚月は、三種の神器を装備している。
朧も、九十九と千里の憑依化が可能だ。
綾姫は、結界術や治癒術にたけている。
瑠璃も、美鬼との連携と憑依を可能としている。
何より、九十九と千里の圧倒的な戦闘能力を持っている。
ゆえに、彼らの戦力があれば、静居に対抗することができる。
そう、予想しているようだ。
「黄泉の神のことは、空巴様方に任せたほうがいいかもね」
「神々なら、静居と黄泉の神、深淵の囚人を食い止める事は、できるでござるな」
景時、要は、静居、黄泉の神、深淵の囚人は、空巴達にも協力を依頼した方がいいと、考えているようだ。
もちろん、自分達で、撫子を守り抜かなければならないのも事実。
だが、今は、神の手も借りたいぐらいなのだ。
おそらく、神々も、状況を察しているはずだ。
今、聖印京の様子を探っているのだから。
「では、即座に準備をし、進軍を開始します」
「はっ!」
作戦会議は、終わり、撫子達は、すぐさま、大戦の準備に取り掛かった。
それから、一時間後の事。
柘榴達は、大戦を始める為に、撫子達と共に進軍し始め、とうとう、獄央山付近まで、進んできた。
北側で、篤丸、満英、春見が、南側で、藤代、蛍、世津が待機していた。
「大変なことになりましたなぁ。申し訳ありまへん」
「いえいえ、平皇京を奪われるわけには、行きませんからね~。もちろん、貴方の命も」
「おおきに」
撫子は、柘榴達に謝罪する。
彼らを巻き込んでしまった事を悔いているのだろう。
聖印一族である彼らを。
これから、柘榴達は、聖印一族と戦わなければならない。
家族も、同僚も、部下も敵に回して。
だが、柘榴は、巻き込まれたと思ってはいなかった。
なんとしても、撫子と平皇京を守らなければらなないのだ。
そのためなら、聖印一族と戦う決意を固めていた。
「まさか、聖印一族が、大戦を仕掛けるなんて、静居は、誇りを持っていらっしゃらないんですの?」
「静居は、誇りなど持っておらんじゃろうな。目的の為には、手段を選ばんのじゃろう」
初瀬姫は、ため息交じりに呟く。
人々を守るために、力を授かった聖印一族が、人々の平穏を脅かすような真似をすることに対して、怒りを覚えたからであろう。
だが、そうさせたのは、他でもない静居だ。
彼らは、静居に操られている。
致し方のないことなのだろう。
それに、静居は、誇りなど持ち合わせているはずがない。
これまでに、卑劣な手を使って、柚月達を追い詰めてきたのだから。
春日は、そう、察しているようだ。
「で、ですが、なぜ、大戦を仕掛けようとしたのでしょうか?何か、裏がある気がします」
「そうでござるな」
時雨は、おどおどした様子で、柘榴達に問いかける。
静居は、なぜ、このような大戦を仕掛け始めたのか。
本当に、撫子の命を平皇京を奪うためだけとは到底思えないからだ。
要も、同じことを思っていたらしい。
この大戦には、裏があると。
その時であった。
「帝!聖印寮の隊士と妖が、進軍しています!獄央山の平野に到達しそうです!」
「とうとう、どすな」
偵察に向かっていた隊士が、駆け付けに来た。
夜深と大勢の隊士達と妖達を引き連れて、進軍しているらしい。
撫子も、深刻な表情を浮かべ、柘榴達にも、緊張感が走り始めた。
いよいよ、大戦が、始まってしまうのだと思うと……。
平皇京に向かって進軍していた静居達。
だが、静居、夜深は、平野から遠く離れている。
撫子達の様子をうかがっているようだ。
「来てるみたいね」
「そのようだ」
夜深は、柘榴達や撫子の気配を察知したようで、妖艶な笑みを浮かべている。
まるで、大戦を待ち遠しく感じているようだ。
静居も、余裕の笑みを浮かべている。
この時を待ちわびていたかのように。
「あの坊やたちはいないみたいだけど」
「まだ、深淵の界にいるようだな。だが、それでいい。夜深、後は、頼んだぞ」
「ええ」
夜深は、柚月達が、いない事を確認していたようだ。
それを聞いた静居は、笑みを浮かべている。
計画通りに事が進んでおり、上機嫌なのだろう。
これで、全てが手に入ると確信を得て。
静居は、夜深に指示をし、夜深は、青い宝石を手にしてうなずいた。
その宝石こそが、深淵の鍵であった。
「シズイ……」
「なんでしょうか?」
まがまがしい声が、静居の耳に入ってくる。
その声は、もはや、人間ではなく、獣のようだ。
静居は、振り返りながら問いかける。
すると、彼の背後に男性が立っていた。
だが、その男性は、人とはかけ離れた姿をしている。
黒に近い灰色の肌、黄金の瞳、鋭利な牙を口からのぞかせ、二本の鋭利な角を生やしているものの、衣冠を身に着けている。
まるで、元は人であったようだ。
「アオイハ……ドコダ?」
「葵は、いませんよ。千年前に死にました」
「へぇ、そっかぁ。まぁ、千年も生きてるなんて、君くらいだもんね!」
男性は、静居にゆっくりと問いかける。
どうやら、葵を探していたようだ。
だが、静居は、淡々と答え、男は黙り込んだ。
だが、その時だ。
男性の背後から、少年が男性の肩に乗り始めたのは。
その少年も、金髪に、黄金の瞳、二本の鋭利な角を生やしている。
彼は、鬼のようだ。
だが、鬼の一族は、天鬼によって、滅んだはず。
妹の美鬼以外は。
少年は、無邪気に静居に語りかけた。
「似た男なら、知っていますが」
「へぇ、誰なの?」
「見ればわかる」
「あっそ」
静居は、葵に似た男を見たことがあるようだ。
少年が、無邪気に尋ねるが、静居は、答えようとしない。
少年は、つまらなさそうに、そっぽ向いた。
「さて、そろそろ、始めようか」
静居は、ゆっくりと前に出て、口をゆがませる。
これから、壮絶な大戦が、始まろうとしていた。




