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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第五章 深淵で生きる者
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第五十九話 深淵の番人

 静居の企みを知った柚月は、静居達よりも、先に深淵の囚人を見つけ、殺すため、深淵の界を目指す。

 朧、九十九、千里、綾姫、瑠璃、美鬼、光焔を引き連れて。


「この近くにあるんだな?」


「うむ」


 光焔は、柚月達の前に出て歩いている。

 それも、淡々とした様子で。

 周辺は、木々に囲まれており、近くには、山がそびえ立っている。

 どうやら、どこかの山の近くに深淵の界はあるようだ。

 柚月の問いにも、しっかりとうなずいて、答える光焔。

 深淵の界まで、もう少しと言ったところなのだろうか。


「まさか、獄央山の裏にあるとはな……」


「ああ、本当にな……」


 朧は、周辺を見回して、呟く。

 なんと、深淵の界は、獄央山の裏にあるようだ。

 千里も、感傷に浸りながら、呟く。

 おそらく、思い返しているのだろう。

 獄央山は、柚月達にとって、因縁の場所と言っても過言ではない。

 柚月と九十九は、かつて、獄央山の洞窟の奥にある地獄で天鬼と死闘を繰り広げ、千里は、餡里と共に、静居によって、追い詰められ、この獄央山に封印されたのだ。

 そして、静居の命令に従い、柚月を呪いにかけてしまった。

 柚月達にとって、あまり、思いだしたくない記憶であり、避けられない場所であった。


「で、本当によかったのか?」


「何がだ?」


「情報もすくねぇのに、これだけの人数で、あの深淵の囚人ってやつをぶっ殺せるのか?」


 九十九は、柚月に疑問を投げかける。

 危惧しているのだろう。

 深淵の囚人は、聖印一族でさえも、殺せず、封印するしかなかった人物だ。

 その深淵の囚人をたった八人で乗り込み、殺そうとしている。

 しかも、その者に関する情報は、少なすぎる。

 対策も練られないまま、乗り込もうとしているのだ。

 九十九が、危惧するのは、当たり前なのだろう。


「お前の言いたいこともわかる。だが、静居の罠と言う可能性もある。全員で、行けば、逆に、静居の思惑にはまる事もある」


「なるほどな」


 確かに、九十九が懸念している事も、柚月は、理解している。

 何も情報なしに、少人数で乗り込むのは、得策ではない。

 あまりにも、無防備すぎると言っても過言ではないからだ。

 だが、用心しなければならない。 

 なぜなら、相手は、静居だ。

 情報操作をし、自分達をほんろうしているかもしれない。

 もし、これが、罠だったとしたら、静居の思惑にはまり、全滅と言う事もありうる。 

 ゆえに、柚月は、少人数で深淵の界に、乗り込むことを決意したのだ。


「静居の動向も、平皇京の状況も知っておかなければなりませんからね」


「ああ」


 美鬼が、理由を付け加える。

 静居の動向や、平皇京の状況も知っておく必要があるからだ。

 他の街の事も。

 そして、光の神を復活させる手掛かりも、まだ、つかめていない。

 それゆえに、柚月は、柘榴達に光城に残ってもらったのだ。

 自分達がいなくとも、彼らが動けるようにと。

 柚月は、それほど、柘榴達を信頼しているのだ。


「ねぇ、深淵の界について聞いていいかしら?」


「うん、ずっと、気になってた」


 綾姫と瑠璃は、深淵の界について柚月に尋ねる。

 気になっていたのだ。

 深淵の界については、綾姫達でさえも、知らない。

 機密情報だったのだろう。

 それゆえに、深淵の界については、ごく一部の人間しか知らされていない。

 これから、向かう場所だ。

 少しでも、知る必要がある。

 綾姫達は、そう考えたのであろう。


「深淵の界は、元々は、妖の住処だったのだ」


「ええ!?」


「つまり、妖の巣窟」


「そうだ」


 光焔が、柚月の代わりに説明をし始める。

 深淵の界は、元々、妖達が住んでいた場所だったようだ。

 綾姫は、驚くが、瑠璃は、冷静に答える。

 反応は、両極端だ。

 おそらく、綾姫は、予想していなかったのだろう。

 だが、瑠璃は、推測していたようだ。

 深淵の界の事を。


「神々がいたという説もあるらしいな」


「うむ」


 柚月は、説明を続ける。

 なんと、神々が住んでいたという説もあるらしい。

 柚月は、この仮説に関しては、信じていなかった。

 妖と神が、共に住んでいたという事は、まず、あり得ないと思っていたからだ。

 だが、光焔の正体を聞いた時、その仮説は、正しいかもしれないと考えを改めるようになった。


「昔、深淵の門は、閉じられていた。だが、千年前、何者かが、深淵の扉を開け、妖達は、世に出てしまったのだ。再び、深淵の門は、閉じられたが、遅かった」


「その時から、俺達、聖印一族と妖の戦いが、始まったってことか」


「うむ。誰が開けたのかはわからぬが」


 光焔の話を聞いた朧は、推測する。

 何者かが、深淵の門を開けたがために、聖印一族と妖の戦いが、始まってしまったのだと。

 つまり、千年前、突如、妖が出現した原因が、深淵の門が開かれた事によるものだったのだ。

 しかし、誰が開けたのだというのだろうか。

 そのことに関しては、光焔も、知らないようであった。


「だが、どうやって、門を開けるつもりだ?静居も、門が開けられないんだろ?」


「問題ない。深淵の番人に頼めばよいのだ」


「深淵の番人?」


「うむ」


 千里は、疑問を抱く。

 深淵の門をどうやって開けるかだ。

 おそらく、静居も、どうやって門を開けるか知らないのだろう。

 それゆえに、隊士達に調べさせているのではないだろうかと推測する。

 だが、千里の問いに対して、光焔は、問題ないと答える。 

 深淵の番人に頼むようだ。

 だが、深淵の番人とは、何者なのだろうか。

 首をかしげる瑠璃に対して、光焔は、静かにうなずき、ふと、足を止めた。

 どうやら、目的の場所にたどり着いたようだ。

 と言っても、門らしきものは、何もない。

 だが、柚月達は、光焔を信じ、問いかけることなく、立ち止まっていた。


「門を開けよ」


「誰だ?」


「我が名は、光焔だ」


「……良いだろう。ほら、入んな」


 何の前触れもなく、光焔は、誰かに話しかける。

 すると、どこからか、声が聞こえたのだ。

 老人のようなしゃがれた声が。

 老人は、何者かと尋ねると光焔は、名を名乗る。

 すると、老人は、黙り込むが、声の主が、光焔だと信じたのだろう。

 老人は、柚月達が、深淵の界へ入る事を許可した。

 その時だ。

 青、白、黒が入りまじった光が出現したのは。

 その光は、天へと延び、柚月達の伸長を軽々と超えて巨大化した。


「な、なにこれ、何か、出てきたわよ?」


「これが、深淵の門だ」


「そういう事か」


「では、行くぞ」


 突然の事で、驚きを隠せない綾姫。

 そんな彼女に対して、光焔は、冷静に答える。

 この光こそが、深淵の門なのだと。

 光焔の答えを聞いた柚月は、納得した。

 深淵の門は、外側からは、決して開けられない。

 老人が、認めたものしか、入れないようにしてあるのだろう。

 光焔は、柚月達に、深淵の門へ入るよう促し、柚月達は、光焔と共に、深淵の門をくぐった。



 深淵の門をくぐると、青と黒が入りまじった洞窟が柚月達の目に入った。

 その洞窟こそが深淵の界なのだろう。

 その洞窟は、青い宝石と黒い宝石ででできているように思える。

 だが、気味悪さを一切感じない。

 本当に、神々がいたのではないかと思うほどに美しい場所だったのだ。

 深淵の界をまじまじと見つめる柚月達。

 すると、光焔より少し、背の高く、白いひげを生やした仙人のような老人の妖が、柚月達の元へと歩み寄った。


「よう、光焔。久しぶりだな」


「うむ、久しぶりだ。笠斎(りゅうさい)


 老人の妖と挨拶を交わす、光焔。

 どうやら、老人の妖、笠斎とは、知り合いのようだ。


「光焔、もしかして、この者が……」


「うむ、深淵の番人、笠斎だ」


 柚月は、気付いたようだ。

 いでたちや雰囲気からして察しのだろう。

 笠斎が、何者なのかを。

 光焔は、改めて、紹介する。

 笠斎が、深淵の番人なのだと。


「その通りだ。で、こいつらは?聖印一族のようだが」


「わかるのか?」


「まぁな。ここの番人だからよ」


 どうやら、笠斎も柚月達が、聖印一族だと見抜いていたらしい。

 さすが、深淵の番人をしているだけのことはある。

 しかし、彼は、本当に妖なのだろうか。

 笠斎からは、妖気を感じられない。

 光焔と同じ、神に近い力を感じるのだ。

 とすれば、彼も、光焔と同様、神から生まれた妖なのだろう。

 柚月達は、そう思えてならなかった。


「この者たちは、聖印一族と彼らと共に戦う妖達だ。わらわ達は、今の聖印寮に対抗するべく、ここへ来た」


「へぇ、あの聖印寮にねぇ。わけを聞かせな」


「うむ」


 光焔は、なぜ、柚月達は、同士である聖印寮に対抗しているのかを語り始め、笠斎は、静かに、聞いていた。


「なるほどな、いいじゃねぇか。気に入ったぜ。わしも、静居が気に入らなかったからよ。協力してやるよ」


 話を聞き終えた笠斎は、柚月達の意思に賛同する。

 静居の事を快く思っていないようだ。

 そのため、静居に対抗するべく、柚月達に協力を申し出たのであった。


「でも、ここに何のようだ?対抗する手段なんかねぇはずだぞ?」


「ここに、深淵の囚人が封印されている。静居は、その者を狙っているのだ」


「なるほどな。お前らは、そいつを殺そうってことか?」


「ああ」


 光焔は、ここに来た理由を明かす。

 笠斎は、納得したようだ。

 それほど、深淵の囚人は、凶悪なのだろう。

 柚月達が、深淵の囚人をどうするかまで、察したようだ。

 やはり、笠斎は、ただ者ではなさそうだ。


「そうかい。けどよ。お前らは、同胞を殺せるか?いや、人間を殺せるのか?」


「……覚悟の上だ。和ノ国を守るためなら、囚人を殺す。たとえ、聖印一族であってもだ」


「いい覚悟だ。了解だ。深淵の界に、案内してやるよ。ついて来な」


 柚月の意思を聞いた笠斎は、承諾する。

 和ノ国を守るためなら、同胞であっても殺す。

 それは、静居に対してもだろう。

 柚月達の覚悟を笠斎は、受け止めたようだ。

 笠斎は、柚月達に背を向け、歩き始める。

 深淵の囚人が封印されている場所へ、案内してくれるようだ。

 柚月達も、静かに、笠斎についていった。


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