第五十二話 荒ぶる龍神王
龍神は、今も、雄たけびを上げながら、荒れ狂うように暴れまわっている。
ただ、やみくもに、柚月達に襲い掛かっているようだ。
だが、なぜ、龍神は、自分達に襲い掛かったのか、見当もつかず、柚月達は、困惑した。
「な、何が起こってるんだい!?」
「まさか、俺達を追い払うつもりなのか!?」
和泉と透馬が、口々に叫ぶ。
考えられる理由は、一つ。
龍神達も、妖狐同様、人間を信じておらず、自分達を目にして、追い払おうとしているか、殺そうとしているかだ。
集落で、ひっそりと過ごしてきた龍神達だ。
人間を信じていない可能性もある。
龍神に襲われるのも、無理はなかった。
「まずいですね」
「うん、さすがにね……」
「歓迎されてないってことか、参ったね」
美鬼、景時、和巳も困惑した様子で呟く。
やはり、自分達は、歓迎されてはいないのだろう。
どうにかして、自分達が敵ではない事を話せればいいのだが、龍神は、暴れまわっている。
とても、話せる状態ではない。
しかも、目の前にいる龍神から、発せられる力は、妖気と言うよりも、神に近い力だ。
柚月達だけでは、敵いそうになかった。
だが、その時だ。
千里のように、丸みを帯びた二本の角と龍のような尻尾を生やし、人の姿をした妖達が、駆け付けに来たのは。
「龍神王!?どうされたのですか!?」
「ど、どうか、お静まりください!!」
彼らは、龍神に向かって、静まるよう促す。
この妖達は、龍神のようだ。
どうやら、目の前にいる龍神は、龍神王のようだ。
おそらく、龍神達を束ねているのであろう。
どうやら、自分達を襲いに来たというわけではないらしい。
しかし、何が起こったというのであろうか。
「お前達、何かあったのか!?」
「お、お前達こそなんだ?なぜ、人間が?」
光焔は、龍神達に問いかける。
だが、龍神は、驚いた様子で、光焔に聞き返した。
人が、この山を登って龍神の集落にたどり着くとは、想ってもみなかったのであろう。
龍神は、動揺を隠せなかった。
「そ、そんな事は、今は、どうでもいいだろう!龍神王様が、突然、ご乱心になってしまったんだ!あんたらは、逃げた方がいいぞ!」
もう一人の龍神が、慌てた様子で説明する。
なんと、龍神王が、突然、暴れ始めたようだ。
そこに、柚月達が、出くわしたらしい。
だが、龍神達は、なぜ、龍神王が暴れ始めたのか、見当もつかない。
龍神は、柚月達の身を案じ、逃げるよう促した。
「そういう事でござったか!」
「何とかして、鎮めるしかない!」
ここで、柚月達が、逃げる事は、まずありえない。
なにせ、龍神と話をしなければならないのだ。
千里を復活させるためには、闇の力が必要だ。
龍神王に頼まなければ、闇の力は、手に入らないだろう。
となれば、柚月達の選択は、ただ一つだ。
戦って、鎮めるしかない。
要も、瑠璃も、覚悟を決め、構えた。
「餡里、私の後ろに下がりなさい!」
「わ、分かった!」
高清は、餡里に自分の後ろに下がるよう促す。
今の餡里を戦いの前線に出すわけにはいかない。
となれば、後ろへと下がらせるしかないのだ。
本当は、安全な場所で身を隠してほしいのだが、餡里が、そのような事をするはずがない。
なぜなら、彼も、聖印一族であり、聖印隊士として、戦ってきたのだから。
自分だけ逃げるわけにはいかないのだろう。
それゆえに、高清は、餡里を下がらせた。
「行くぞ!」
「うん!」
柚月達は、地面を蹴り、龍神王へと向かっていった。
彼を鎮める為に。
柚月達の行動を目にした龍神達は、あっけにとられている。
まさか、龍神王を鎮めようと戦ってくれるとは、想ってもみなかったのであろう。
「美鬼!」
「仰せのままに」
瑠璃は、聖印能力を発動し、美鬼を憑依させる。
鬼と化した瑠璃は、跳躍し、龍神王に迫ろうとする。
だが、彼女よりも、早く、龍神王は、反応し、尻尾を振り回し、瑠璃は、とっさに回避するが、風圧により、吹き飛ばされてしまった。
「瑠璃!」
地面にたたきつけられそうになる瑠璃を朧は、抱きかかえる。
間一髪だ。
もし、朧が、瑠璃を助けなければ、瑠璃は、地面にたたきつけられていただろう。
なんという威力だろうか。
瑠璃が憑依化した状態であっても、龍神王に近づくことすらできないのだ。
困惑する朧と瑠璃。
だが、龍神王は、容赦なく、朧達に襲い掛かった。
彼らを守るために、和泉が、麗線を駆使して、防衛線を生み出し、防ごうとする。
だが、龍神王は、それすらも、引きちぎろうとしている。
ここで、要が、朧達の前に出て、防御態勢に入り、守ろうとするが、要でさえも、押し潰されてしまいそうなほどの威力を龍神王は持っていた。
「天次君!」
景時が、天次を呼びだし、天次は、天狗嵐を発動する。
少しでも、吹き飛ばすことができればと。
やはり、龍神王を押し返す事は至難の業のようだ。
だが、柚月達は、あきらめてなどいない。
続いて、透馬が岩壁を、和巳が聖生・色彩器を、高清も、陸虎ノ盾を発動して、防御壁を生み出す。
三壁の前では、龍神王も適わないはず。
誰もがそう思っていた。
しかし、龍神王は、雄たけびを上げながら、防御壁に向かって頭突きをし始める。
それも、激しく。
「まずいな……」
これには、柚月達も動揺を隠せない。
仲間達が、龍神王の攻撃から防ごうとしても、龍神王の力が、強すぎる為、適わないのだ。
このままでは、防御壁も破壊されてしまう。
柚月達は、窮地に陥っていた。
だが、その時であった。
光焔が、何かに気付いたのは。
「なんだ?何か、邪気が入ってきてるのか?」
「そ、そうみたいなんだ。そのせいで、龍神王様は……」
光焔は、集落の奥から、邪気が入り込んでいる事に気付く。
それも、闇の力や妖気ではない。
龍神王ですらも、抵抗できないほどの。
そのせいで、龍神王は、暴れ始めたらしい。
だが、邪気の正体がつかめず、龍神王を鎮める手段も見つからない為、龍神達は、困惑していたようであった。
「ならば、ここの邪気を取り除こう」
「で、できるのか?」
「無論、わらわは光の妖だ。問題ない」
「光の妖?」
光焔は、邪気を取り除こうと名乗り出る。
龍神は、半信半疑のまま、光焔に尋ねた。
彼のような妖が、あの邪気を取り除けるとは、到底思えなかったからだ。
だが、光焔は自身の正体を告げる。
龍神は、目を見開き、驚くが、光焔は、龍神王に背を向け、光の力を放つ。
すると、龍神の集落を覆っていた邪気が取り除かれるのを光焔は、感じ取った。
「これで、邪気は取り除いたぞ!うまく、鎮められるはずだ!」
「簡単に言うけど、どうやってやれって言うんだい!?」
「こんな暴れまわる龍をどうにかできたら、とっくにやってるよ!」
柚月達に、邪気を取り除いたと伝える光焔。
だが、龍神王は、未だ、暴れまわっている。
まるで、もがき苦しんでいるようだ。
この状態では、鎮める事は、容易ではないだろう。
それに、今にも、防御壁が破壊されそうである。
和泉も、和巳も、半ば、嘆いた状態で、光焔に反論した。
しかし……。
「そうだ。聖印能力だ。蓮城家の聖印能力があれば……」
「一度、操って、鎮めるということでござるな!」
「うん!」
餡里は、あることを思いつく。
それは、蓮城家の聖印能力だ。
蓮城家の聖印能力は、妖と契約し、使役する事。
今、蓮城家の聖印能力を身に宿しているのは、朧、景時、餡里の三人だ。
だが、餡里に、聖印能力を発動させると、体に悪影響を及ぼしかねない。
となれば、朧と景時の二人で、龍神を無理やり、使役して、鎮めるしかないだろう。
「兄さん!一瞬だけ、動きを止められるか?一瞬だけでいいんだ!!」
「わかった、やってみる!皆、行くぞ!」
朧は、柚月に頼む。
龍神の動きを一瞬だけ止めてほしいと。
そうすれば、隙が生まれ、朧と景時は、龍神を使役し、鎮める事が可能となるだろう。
柚月は、承諾し、朧達は、バラバラになって、行動し始めた。
その直後、防御壁が破壊されてしまう。
だが、柚月が、異能・光刀を発動し、龍神王をほんろうする。
龍神王は、暴れまわるが、被害を最小限に抑える為に、瑠璃と要が、龍神王にしがみつき、取り押さえる。
龍神王は、暴れまわるが、和泉が、麗線を駆使して龍神王を捕らえる。
さらには、透馬が岩壁を、和巳が聖生・色彩器を、高清も、陸虎ノ盾を発動して、龍神王を囲むように、防御壁を生み出し、龍神王は、身動きが取れなくなった。
「朧!景時!今だ!」
「うん!先生!」
「了解!」
わずかな隙を生み出した柚月達は、朧と景時に合図を送る。
朧と景時は、聖印能力を発動し、龍神王の使役を試みた。
――鎮められましたか?
「駄目、龍神王の力が強すぎて……」
美鬼は、瑠璃に問いかけるが、瑠璃は、不安に駆られた様子で、首を横に振る。
聖印能力を発動し続ける朧と景時。
だが、龍神王の力が強すぎる為、うまく、使役ができないのだ。
このままでは、朧も、景時も、身を滅ぼしてしまう。
防御壁も、破壊されてしまったら、今度こそ、柚月達の身に危険が迫るだろう。
「僕も、聖印能力を発動できれば……」
餡里は、呟く。
彼も、聖印能力を発動すれば、龍神王を使役することができるのではないかと。
だが、そうすれば、必ずや、体に影響を及ぼしてしまうだろう。
葛藤し続ける餡里であったが、朧と景時の苦しそうな表情を目にして、意を決した。
聖印能力を発動する事を。
餡里は、覚悟を決め、地面を蹴った。
「待ちなさい、餡里!」
餡里が、走りだしたのを目にした高清は、制止させようとするが、餡里は、ついに、聖印能力を発動した。
「餡里!」
餡里が、聖印能力を発動したことに気付いた朧は、餡里の名を呼び、制止させようとする。
だが、餡里は、聖印能力を発動し続けた。
苦悶の表情を浮かべ、額に汗をにじませながら。
効果があったのか、龍神王の動きが鈍くなり始め、ついには、目を閉じ、地面に倒れ込む。
柚月達は、ようやく、龍神王を、鎮めることができた。




