第五十一話 誰にも止められない
柚月達は、ついに、九十九を復活させることに成功する。
彼らは喜びを分かち合い、涙を流した。
だが、まだ、終わっていない。
次は、千里だ。
景時は、龍神の集落がどこにあるのか、判明したという。
千里を復活させる時が来たのだ。
期待が高まる柚月達。
餡里もそうだ。
いや、餡里は、特に千里に会いたがっているだろう。
しかし……。
「ごほっ!ごほっ!ごほっ!」
部屋で床に臥せていた餡里は、咳き込む。
しかも、咳は治まらない。
日に日に、苦しさが増しているようだ。
そんな餡里を高清は、心配そうに見ていた。
「餡里……」
高清は、餡里の背中を優しく、さする。
これくらいしかできないのだ。
高清は、なぜ、餡里の体調が日に日に悪くなっていくのか、察している。
研究者であったがゆえに。
ようやく、咳が治まり、荒い息を繰り返す餡里。
息も整い、餡里は、自分の手を見やる。
自分の手は、血で真っ赤に染まっていた。
「餡里、やはり、この事……」
「言わないで!」
高清は、餡里の体調について柚月達に話そうと提案しようとする。
だが、餡里は、声を荒げ、遮ってしまった。
どうしても、知られたくないのだ。
特に朧には。
「お願い、朧達には言わないで。僕なら、大丈夫だから」
「……」
餡里は、朧達には、言わないでほしいと懇願し、笑みを浮かべる。
だが、どう考えても、無理をしているのは、高清も、目に見えて分かる。
それでも、餡里は、知られたくないのだろう。
高清は、どうすることもできず、言葉を失ってしまった。
「父さん、次は、千里の番だね……」
「そうだな」
餡里は、嬉しそうに話す。
千里に会いたいのだろう。
彼は、かつての相棒だ。
辛苦を共にしてきた。
もう、会うことができないと思っていた。
だが、八尺瓊勾玉の力を使えば、千里は、復活させられるというのだ。
まだ、神の力は、残っている。
後は、闇の力を吸収すれば、千里は、復活できるだろう。
餡里は、待ち遠しくてたまらなった。
「僕、会えるかな……」
餡里は、静かに呟いた。
もう、時間がない。
それゆえに、不安に駆られているのだ。
千里が、復活する前に、自分の命が、尽きてしまったらと。
高清は、自分の無力さを思い知らされ、こぶしを握りしめ、震わせていた。
朧は、九十九が寝ている部屋にいる。
九十九と話し込んでいるようだ。
聖印京の状態や静居が本性を現し、和ノ国を滅ぼう祖としている事について。
話を聞くにつれ、九十九も、深刻な表情に変わる。
辞退を把握したからであろう。
そして、自分の力が、今後、必要となる。
だからこそ、明枇は、魂を自分にささげてくれたのだと、改めて理解した。
これから、朧は、光城を出る。
龍神の集落へ行くために。
「わりぃな、まだ、ちょっと、起き上がれそうにねぇ」
「わかってる。九十九は、大人しく待ってろよ」
「わかったよ」
九十九も、朧と共に龍神の集落に行きたいところなのだが、復活したばかりで、本調子ではない。
魂が新しい体に馴染むのに、まだ、時間がかかりそうだ。
もちろん、朧も、理解している。
九十九は、休まなければならない事に。
「次は、千里の番か」
「うん……」
九十九は、呟き、朧はうなずく。
朧にとっても、相棒である千里を復活させる番になったのだと。
かつて、九十九は、柚月を救うために、千里と対峙した。
だが、それも、過去の話だ。
餡里と千里の過去を知った九十九は、千里にも復活してほしいと願っている。
朧の為にも。
朧は、餡里に会わせてあげたいと強く願っていた。
「先生が、調べてくれたおかげで、龍神の集落が見つかったらしい」
「そうか……」
朧達が、妖狐の里に行っている間に、景時が、龍神の集落の場所を調べてくれたようだ。
それも、短時間で。
さすがと行ったところであろう。
おかげで、朧達は、すぐに龍神の集落に行くことが可能になったのだ。
そう思うと、九十九も、嬉しそうな表情を浮かべる。
心の底から、願っているからであった。
「餡里に、早く会せてあげたいな」
「おう、そうだな」
朧と九十九は、願った。
早く、千里が復活し、餡里と再会できる事を。
柚月は、景時と共に大広間へ向かっている。
景時から受け取った資料に目を通しながら。
「まさか、この近くに、龍神の里があったとはな」
「みたいだね~」
柚月が目にしていた資料は、龍神の集落の場所だ。
龍神の集落は、妖狐の里の近くにある山の中にあるようだ。
移動距離も短い。
これで、時間をかけずに、龍神の集落に行けそうだ。
「景時、一つ聞いていいか?」
「うん、いいよ」
「龍神は、本当に妖なのか?俺は、そうは思えないんだが……」
「神の名がついてるもんね」
柚月は、一つ、気がかりなことがあった。
それは、龍神が、本当に妖かどうかだ。
神の名がつく一族であるにも関わらず、妖として認識されている。
今にして思えば、違和感でしかない。
だからこそ、景時に、尋ねたのであろう。
「そこは、僕達もずっと、調べてきたことなんだよ~。けど、光焔が、神から生まれた妖だって聞いた時、分かった気がするんだ」
「何をだ?」
「龍神は、神から生まれた妖なのかなって」
「なるほどな」
景時も同じ疑問を抱いていたらしい。
龍神と言う妖がいる事は、景時も知っていた。
それゆえに、気になっていたのだ。
本当に、龍神は、妖なのかと。
だが、光焔の出生を耳にした時、確信を得た。
龍神も、神から生まれた妖なのだろう。
だからこそ、神の名がついたのではないかと。
柚月も納得したようであり、静かにうなずいていた。
柚月と景時は、大広間に入る。
そこには、朧、瑠璃、美鬼、景時、透馬、和巳、高清、要、和泉が集まっていた。
今回、龍神の集落に行く者たちだ。
綾姫達は、光城に残させた。
九十九も、満足に体を動かせないため、彼を守ってもらうように。
また、静居の動向を探り、撫子達と連絡を取り、連携を取るために。
「全員、集まったな」
「う、うん……」
柚月は、朧達に問いかける。
朧は、うなずくが、どこか、歯切れが悪い返事だ。
違和感を覚えた柚月は、もう一度、朧達の顔を見る。
すると、右端に餡里が、高清と共に立っている事に、柚月は気付いた。
「餡里、なぜ、お前が……」
「僕も、連れていってほしいんだ」
柚月は、餡里に尋ねる。
なぜ、餡里が、ここにいるのか。
餡里は、部屋で寝ていたはずだ。
いや、九十九以上に体の状態は悪い。
そのはずなのに……。
餡里は、柚月の問いに答える。
龍神の集落に、連れていってほしいと。
柚月は、理由は言わずともわかっていた。
千里に会いたいのだと。
「お前……」
「お願いします!」
柚月は、反対しようとするが、餡里は、頭を下げて懇願する。
それほど、千里に会いたがっているのだ。
「……あたしらも反対したんだけどね」
「どうしてもって、聞かないでござるよ」
「千里に、会いたいって……」
和泉、要、瑠璃が、申し訳なさそうに柚月に告げる。
餡里が、高清と共にここを訪れた時、朧達は、反対したのだ。
餡里を危険な目に合わせたくないと願って。
だが、餡里の意思は、固く、引き下がらなかった。
「いいじゃない。連れて行ってあげれば」
「和巳」
「会いたい気持ちなんて、誰にも止められないさ」
和巳は、柚月に、連れて行ってあげればいいと促す。
だが、朧は、反論するかのように、和巳をにらんだ。
余計な事を言うなと。
それでも、和巳は、自分の意見を変える気はない。
餡里の気持ちを汲んでいたからだ。
それゆえに、餡里も連れていくよう提案したのだろう。
和巳は、得意の片目を閉じて、柚月に語りかけた。
「相変わらずだな、お前って」
「そう?」
透馬は、あきれた様子で、和巳に語りかける。
自分の意見を言えるのは、うらやましくもあるのだが。
和巳は、気にもせず、透馬に問いかけた。
「柚月、どうしますか?」
「……」
美鬼は、柚月に判断をゆだねる。
誰もが、迷っているのだろう。
餡里を連れていくべきなのか。
柚月なら、最良の判断をしてくれる。
だからこそ、ゆだねたのだ。
だが、柚月は、黙ったままだ。
迷っているのだろう。
餡里の気持ちを尊重したいが、もしもの場合もある。
そう思うと、決断ができなかった。
だが、その時であった。
「連れて行ってあげてください」
「陸丸」
「このような事を頼むのは、父親として、失格なのは、わかっております。ですが……私も、会わせてあげたいのです」
高清は、頭を下げ、懇願する。
息子の事を想えば、行かせてはならないだろう。
だが、高清は、餡里の状態や気持ちをよく理解しているからこそ、懇願したのだ。
父親失格であるのもわかっている。
それでも、餡里を行かせてやりたかった。
「……わかった。無理するなよ」
「うん」
柚月は、餡里と高清の懇願を受け入れる。
悟ったのだ。
誰にも、止められないのだと。
餡里は、顔を明るくさせ、嬉しそうにうなずいた。
「行くぞ」
柚月達は、龍神の集落へと向かった。
しばらくすると、柚月達は、龍神の集落にたどり着く。
その山は、険しく、登って進むには、困難を極めただろう。
光城でなければ、たどり着くことは、不可能だったはずだ。
「ここが、龍神の集落なのですね」
「ああ」
光城を集落の近くに着陸させ、降り立つ柚月達。
目の前は、家が立ち並び、奥に屋敷が建っている。
やはり、神の名がつく妖、雰囲気は厳かと言ったところだろう。
柚月達は、集落へと入ろうとする。
だが、その時であった。
「待て!進んではならぬ!」
光焔が、何かに気付いたのか、慌てて、叫び、制止させる。
入口の手前で、立ち止まった柚月達。
すると、巨大な龍が、柚月達に襲い掛かり、柚月達は、ギリギリのところで回避した。
「あれは……龍神!?」
柚月は、目を見開き、気付く。
目の前にいる龍こそが、龍神なのだと。
龍神は、荒れ狂うように、雄たけびを上げた。




