第四十話 静居と夜深の脅威
「お前が、黄泉の神……」
夜深の正体を目の当たりにした柚月達は、息を飲む。
彼女は、倒さなければならない相手だ。
だが、彼女は、神。
神相手に、自分達は、勝てるだろうか。
柚月達は、内心、不安に駆られていた。
『あははっ!やっと、気付いたの?』
正体を明かした夜深は、高笑いをし始める。
まるで、喜んでいるかのようだ。
自分の正体をさらけ出せたことに。
「そうか、人々を静居が操られたのも、妖を召喚できたのも……」
『ええ、私が、静居に力を与えたからよ』
柚月は、なぜ、静居が、人々を操り、妖を召喚できたのか、推測し、夜深が答える。
黄泉の神である彼女が、静居に力を与えたからだ。
静居は、神の力を授かり、千年も生きることができた男。
ゆえに、彼女から力を授かったとしても、何の影響もなく、発動できるのは、そのためであろう。
「お前の目的は何だ?」
柚月は、夜深に問いかける。
光の神の言葉を思いだしていたからだ。
黄泉の神が、和ノ国を滅ぼそうとしていると。
柚月は、それを確かめる為に、問いかけたのであった。
『私の目的は、和ノ国を滅ぼすことよ。ね?静居』
「そうだ」
夜深は、自分の目的を堂々と告げる。
やはり、彼女は、和ノ国を滅ぼそうとしているようだ。
しかも、静居も、彼女の目的を知っており、賛同しているらしい。
なぜ、静居は、和ノ国を滅ぼそうとしているのであろうか。
柚月達には、見当もつかなかった。
「この腐った国を変えるためには、そうするしかないのだ。そして、私は、新しく生まれ変わった和ノ国の神となる!」
静居は、堂々と宣言する。
和ノ国を一度滅ぼし、再生させた上で神となり、人々をあがめさせようとしているようだ。
しかも、今の和ノ国を腐った国と罵って。
何とも、恐ろしい男であろうか。
柚月達には、静居の考えている事が全くもって理解できなかった。
「狂ってる!」
「狂ってるのは、人間の方だ!欲望におぼれ、人を傷つける事も、ためらわない。これが、狂ってないと言えようか!」
柚月は、静居の思惑に対して、反論するが、静居は、狂っているのは、人間の方だと、叫ぶ。
それも、形相の顔を浮かべて。
静居は、それほど、人を憎んでいるというのであろうか。
だから、和ノ国を滅ぼすと宣言したのであろうか。
過去に、何があったというのであろうか。
思考を巡らせる柚月達であったが、見当もつかない。
静居の心情を理解できなかった。
いや、理解したくなかった。
「だからって、和ノ国を滅ぼしていいはずがない!」
「お前達のたくらみは、俺達が、止める!」
確かに、人々は、欲望におぼれ、人を傷つけるかもしれない。
だが、全ての人々がそうとは思えない。
お互いに、手を取り合い、助け合う人々もいる。
だからこそ、人々は、生きていけたのだと柚月達は、考えていたのだ。
そのため、柚月は、真っ向から静居のたくらみを否定し、朧は、それを止めると宣言し、構えた。
『止められるかしら?私は、神よ』
夜深が、静居の前に立ち、構える。
確かに、夜深は、強敵だ。
静居、一人でも、適う相手ではないのに。
それでも、止めるしかない。
国の存亡がかかっているのだ。
柚月達は、覚悟を決めるが、泉那と李桜が、彼らの前に立ち構えた。
『神は、貴方だけじゃないわ』
『私達も、戦います』
泉那と李桜は、夜深と戦うと宣言する。
彼女達にとっても、負けられない戦いなのだ。
だからこそ、夜深と戦うと決意し、構えたのであった。
『光の神の下僕が、私を止められるとでも思ってるの?』
自分と戦うと宣言された夜深は、なめられたと感じているのだろうか。
苛立ちを露わにし、泉那と李桜を見下した言い方をする。
確かに、彼女達は、光の神側に着いた神々であり、黄泉の神と比べれば、力の差は、歴然であろう。
黄泉の神の力の方が圧倒的なのだ。
それでも、泉那と李桜は、逃げるわけには、いかなかった。
「行くぞ、夜深!」
『ええ!』
静居と夜深は、地面を蹴り、柚月達に向かっていく。
柚月達も、地面を蹴り、静居と夜深に向かっていった。
柚月、朧、綾姫、瑠璃は、静居と対峙する。
まず、綾姫が、結界・水錬の舞を発動し、柚月達の前に、結界を生み出す。
だが、静居は、強引に結界を突き破り、柚月達に、襲い掛かろうとしていた。
ここで、瑠璃が、白桜輪舞を発動し、静居を足止めしようとするが、静居は、桜の刃を全て、切り裂いていく。
技を発動した所で、静居には、適わないという事なのであろうか。
技をかき消されてしまった綾姫と瑠璃は、愕然とする。
だが、柚月と朧は、あきらめておらず、二人がかりで、静居に斬りかかり、静居は、一人で、二人の刃をはじき返し、柚月と朧は、とっさに、後退して、距離を保った。
「四人がかりで、この程度か。無駄なあがきだったな」
「やってみないと、わからないだろ!」
たった一人で、四人を相手にしているというのに、静居の方が余裕の笑みを浮かべている。
反対に、柚月達の方が、苦戦しているように見えてしまう。
だが、柚月は、まだ、あきらめておらず、静居の挑発に対して、吼えるように、叫び、朧と共に、聖印能力を発動させた。
「異能・光刀に、憑依か。面白い!」
切り札である異能・光刀と憑依・明枇を目にした静居は、不敵な笑みを浮かべて、構えた。
静居は、柚月達が、その力で自分を任せられると思っているのだろうかと予想しているようだ。
彼らが、聖印能力を発動したことにより、綾姫と瑠璃も、構える。
今は、柘榴達が、ここに、たどり着き、空の神を復活させるまで、時間稼ぎをするしかない。
たとえ、この身が、傷ついたとしても。
柚月達は、再び、静居に向かっていき、斬りかかっていった。
一方、泉那と李桜も、夜深と激しい戦いを繰り広げている。
泉那が生み出した水と、李桜が生み出した桜の刃を組み合わせて、夜深に斬りかかろうとするが、夜深は、一瞬にして、かき消してしまう。
彼女達の連携でさえも、夜深には、適わないようであった。
『この程度で私を倒せるとは、思わないことね!』
夜深は、泉那と李桜を見下したような発言をし始める。
彼女も、たった一人で二人を相手にしているというのに、余裕の笑みを浮かべているようだ。
反対に、泉那と李桜は、劣勢に立たされた状況まで追いやられているように見えた。
『思ってないわよ!』
『ええ、ですから!』
夜深の発言に対して、泉那と李桜は、反論し、再び、水と桜の刃を生み出して、夜深に斬りかかる。
夜深は、再び、かき消すが、突如、光が、夜深を照らし始めた。
「なっ!」
夜深は、まばゆい光に耐え切れず、とっさに、後退し、距離を保つ。
その光を放ったのは、妖である光焔だ。
彼の光は、夜深にとって、弱点のように思えた。
――やはり、ただ者ではないようね。こいつらを、一気に、殺さなければ……。
光焔に対して、夜深は、警戒し始める。
静居は、彼を殺そうとしていたほどだ。
それほど、光焔は、静居と夜深にとって、何か力を秘めているのであろう。
夜深は、ここで、一気に柚月達を殺すことを決意した。
『静居!』
「よかろう!」
夜深が、静居の名を呼び、静居がそれに呼応する。
すると、静居と夜深は、力を発動させ、波長を合わせて始めた。
それによって、柚月達を一気にけしかけるつもりなのだろう。
「させるか!」
「無駄だ!」
柚月達は、静居と夜深を止めるために、一斉に駆けていく。
だが、彼らが静居に到達する前に、静居と夜深は、衝撃波を発動した。
李桜は、八尺瓊勾玉を使用して、吸収し、柚月は、八咫鏡で防ぎきろうとするが、衝撃波の力は、それらを無効化する威力を持っていた為、柚月と李桜は、防ぎきることができず、吹き飛ばされてしまった。
「ぐっ!」
「みなさん!」
吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる柚月達。
柚月達に守られた餡里は、無事であった。
たった一度、衝撃波をその身に受けただけだと言うのに、柚月達は、傷を負い、倒れてしまった。
しかも、柚月と朧は、強制的に、聖印能力を解除させられて。
――無茶苦茶だ!こんなに強いなんて……。
衝撃波の威力に、愕然とする餡里。
まさか、静居と夜深が、これほどまでに、驚異的であったとは、思いもよらなかったのであろう。
それは、柚月達も、同様であった。
勝つことはできずとも、戦い抜くことは、できると、信じていたのだから。
「さて、殺すとするか」
静居は、ゆっくりと、柚月達に迫っていく。
柚月達を殺すつもりだ。
柚月達は、立ち上がり、構えるが、抵抗できる力は、残っていない。
万事休すだ。
このままでは、本当に、柚月達は、静居に殺されてしまう。
それでも、静居は、容赦なく、迫ってくる。
だが、その時であった。
「待ってください!」
「餡里!駄目だ!」
餡里が、柚月の前に立ち両手を広げる。
朧は、驚愕し、叫ぶ。
だが、餡里は、引くつもりなどなかった。
「お、お願いします!柚月さん達を殺さないでください!」
餡里は、静居と夜深に懇願する。
わかっている。
懇願した所で、静居達が、引き下がるわけがないと。
それでも、餡里は、柚月達を守りたいと願い、懇願したのだ。
しかし……。
「私に許しを請うか。この罪人が」
「え?」
「やめろ!静居!」
静居は、冷酷なまなざしで、餡里を見下ろし、吐き捨てる。
罪人呼ばわりされた餡里は、驚き、困惑してしまった。
朧は、静居にこれ以上、話すなと制止させる。
餡里に、思いだしてほしくないからだ。
「僕が、罪人?」
餡里は、戸惑い、体を震わせる。
自分が、罪人とは、どういう意味なのだろうか。
再び、頭痛が、餡里を襲う。
だが、餡里は、思わず、静居に尋ねてしまった。
「そうか、覚えていないのか?お前は、かつて、聖印一族を滅ぼそうとした人間・烙印一族の真城餡里だ」
静居は、餡里に、衝撃的な真実を吐き捨てる。
それは、朧にとって、最も、知ってほしくないことであった。




