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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十五章 聖印神話の終結と新たな始まり
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第百九十五話 抗い続けた結果

 静居は、成長した柚月を目にした時の自分の心情を明かした。


「貴様は、葵によく似ていた。私は、あの時、お前を見た時、胸騒ぎがしたのを今でも覚えている」


 柚月は葵によく似ていた。

 だが、葵に子は、妖に殺されたと聞いている。

 それに、葵の子が生まれたのは、千年前の事だ。

 今まで、生きていたとは、到底思えない。

 だとしても、もし、葵の子であれば、脅威となってしまうのであろうと静居は、推測した。


「だから、私は、柚月に呪いをかけるよう、千里に命じたのだ。なぁ?千里」


「……」


 千里は、黙った。

 いらだったのだろう。

 このような男に従った自分自身が許せないのだ。


「傷を負ったお前は、餡里と入れ替わっていたな。だが、その事も、私は、気付いていたぞ?」


 千里は、柚月に呪いをかけたが、重傷を負い、餡里と入れ替わった。

 静居は、この事に関しては、知らされていなかったが、気付いていたらしい。

 餡里の事は、捕らえる事も、殺すこともなく、野放しにしていたようだ。

 餡里が、聖印京を滅ぼす道具となりうると考えていた為に。


「貴様も、餡里も、私の思い通りに動いてくれた。だが、柚月達を殺すこともできず、私を裏切るとはな」


「……罪を償うと決めたからな」


 裏切り者と呼ばれた千里であるが、反論する。

 千里は、罪を償おうと決めたのだ。

 朧に心を動かされて。


「餡里が、打ち負かされた時は、すでに、夜深は、復活を遂げていた」


『ええ、長い眠りからね』


 地獄の門が、破壊され、光黎も解放されたと同時に、夜深も封印から解放されたのだ。

 だが、夜深は、五年もの間、眠り続けていた。

 力を蓄えながら。

 そして、眠りから目覚め、静居は、宣言したのだ。

 神となる事を。

 聖印京を掌握することを。

 あの時、静居は、今度こそ、和ノ国を滅ぼすと決意していた。


「貴様達は、抗い続けた。だから、興味を持った。どれほど、抗い。生き延びるかをな」


 柚月は、九十九のおかげで、呪いが解け、朧も、千里と餡里の野望を食い止め、打ち勝った。

 静居が、神となると宣言した後も、柚月と朧は、自分に従うことなく、反抗した。

 ゆえに、静居は、抗い続け、生き延びた柚月達に対して、興味を抱いたのだ。

 どこまで、生き延びるか。


「だが、残念な事に、お前達は、打つ手はなくなった。だから、魂事消滅してやろうと思ったのだが、あの女が、また、邪魔をした」


『葵の事か?』


「そうだ」


 九十九と千里を復活させ、これまで、抗い続けてきた柚月達。

 だが、聖妖大戦時に静居は、悟ったようだ。

 もう、柚月達は、抗うすべは、なくなったのだと。

 だからこそ、魂事、消滅させようとした。

 だが、それすらも、敵わなかった。

 柚月は、無意識に静居が発動居た技を吸収し、難を逃れたのだ。 

 しかも、葵が、黄泉の乙女として、生まれ変わっていたとは、知らず、葵は、柚月達を目覚めさせた。

 静居は、心底、憎んだのだ。

 愛しかった妹・葵の事を。


「まさか、瀬戸まで出てきて、過去を知り、神懸かりの力を得るとはな。殺しておけばよかったな」


 その後、柚月達は、反撃を開始し、神々を消滅させた。

 これは、静居と夜深にとっては、予期せぬ出来事であり、許しがたい事だったのだ。

 葵は、どこまでも、柚月達を手助けし、自分達の邪魔をしてくる。

 あらゆる手段を使って。

 そして、ついに、柚月は、瀬戸の魂と邂逅を果たし、葵と瀬戸の過去を知ったのだ。

 ここで、静居は、柚月の出生を知り、後悔した。

 やはり、柚月は、葵と瀬戸の子であり、自分達にとって、脅威となる存在だ。

 殺しておけばよかったと。


「どうだ?理解できたか?私達が、なぜ、和ノ国を滅ぼそうとしているのか?」


 静居は、柚月達に問いかける。

 ここまで、自分の過去、暗躍を知り、理解できたかと。

 和ノ国を滅ぼす理由を聞かされ、共感できたかと。


「理解できるわけがない」


「何?」


 柚月は、こぶしを握りしめ、静居達の野望を否定した。

 理解できるわけがない。

 静居は、眉をひそめ、柚月をにらみつけた。

 わかっていたこととはいえ、腹立たしいのであろう。

 柚月は、自分達の事など理解しようとしないのだと悟って。


「お前達の気持ちは、よくわかった。だが、かといって、和ノ国を滅ぼしていいわけがない」


「他にも、やり方があったはずだ。こんなことしなくたって……」


 柚月と朧は、静居や夜深の気持ちを理解したうえで、否定した。

 確かに、人間は、愚かだと思いたい理由も理解できる。

 だが、和ノ国を滅ぼしていい理由にはならない。

 和ノ国を滅ぼさなくとも、人間も、式神も、神も、わかり合い、共存し合える方法があったはずなのだ。

 これまで、柚月達は、式神や神とわかり合い、共存してきたのだから。


「てめぇらのせいで、何人の人間や式神達が、命を落としたと思ってやがる?」


「餡里だって、お前のせいで……」


 九十九と千里は、二人に怒りをぶつける。

 彼らも、静居と夜深の気持ちを理解しているが、やり方は、理解できない。

 多くの命が、失われた。 

 人と妖は、争う必要などなかった。

 殺し合う必要などなかった。

 九十九は、今なら、そう言える。

 もし、共存していたとしたら、九十九の両親・八雲と明枇も、幸せに生きられたのではないかと思っているから。

 静居の野望により、多くの人々や式神達が、巻き込まれたのだ。

 餡里も、そのうちの一人だ。

 もし、餡里を追放しようと考えなければ、餡里は、幸せに暮らせたかもしれない。

 そう思うと、千里は、静居を許せるはずがない。

 餡里の為にも、食い止めたいと、改めて、決意したのだ。


『夜深、お前を孤独にさせたことは、悪かったと思っている。だが、神が、和ノ国を滅ぼすなど、あってはならない事だ』


 光黎は、夜深の気持ちを理解し、後悔している。

 もし、夜深を孤独にさせなければ、夜深は、このような事をしなかったのではないかと。

 全ては、自分の責任だと。

 だからこそ、光黎は、夜深を説得しようとした。

 これが、最後の説得。

 夜深を食い止める最後の機会だ。

 しかし……。


「貴様らに、理解を求めたのが、間違いだったな」


『一生、わからないわよね。あなた達は、こんな辛い思いを味わったことないんだもの』


 静居と夜深は、ため息をつく。

 自分達のやり方を否定されたのだ。

 柚月達は、自分達と同じ経験をしていない。

 ゆえに、全てを理解できるはずがない。

 静居と夜深は、わかってはいたことなのだが、憤りを感じていた。


「やはり、相容れないようだな」


『ええ、仕方がないわね』


 自分達の事は、誰にも理解できない。

 理解できるのは、静居と夜深のみ。

 互いを理解し合えているからこそ、和ノ国を滅ぼそうと決意した。

 柚月達では、理解できないのだ。

 ゆえに、もう、これ以上話したところで、無駄な時間を費やすだけだと察した静居と夜深は、構えた。


「貴様らは、やはり、魂事消し去る必要があるようだな。二度と、生まれ変われぬように」


 静居は、決意する。

 柚月達を魂事、消滅させると。

 二度と、この世に生まれ変わることができないように。

 邪魔するものを徹底的に排除しようとしているのだ。


「やはり、戦うしかないようだな」


「うん。仕方がないね」


 柚月達は、構える。

 もう、説得だけでは、わかり合えない。

 戦うしかないのだと。

 静居と夜深は、自分達を殺した後、和ノ国を滅ぼすつもりだ。

 もう、一歩も引くことはできない。

 負けられない戦いであった。


「絶対に、和ノ国を守る!!」


「覚悟しろ!!」


 柚月と朧は、静居と夜深に向かって、吼える。

 命を落とした者達、巻き込まれた者達、そして、自分達を救う為に、命をささげた者達の為に、和ノ国を必ず、守ると決意して。

 こうして、自分達と和ノ国の存亡をかけた最後の戦いが始まろうとしていた。


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