第百九十一話 鬼を生んだ神
「なぜ、なぜ、貴方が、ここにいるのです……!!天鬼!!」
美鬼は、体を震わせて、問い詰める。
誰も、妖できなかったことだ。
神々でさえも。
まさか、妖王であり、美鬼の兄である天鬼が、現れるとは思いもよらなかったのであろう。
そもそも、村正は、どこへ行ってしまったのだろうか。
これは、幻術なのだろうか。
綾姫達は、混乱するばかりであった。
『そうか、お前は、あの鬼の事も、私の事も知らないようだな』
「え?」
『私は、妖ではない。神だ。鬼神・村正』
村正は、真実を明かす。
なんと、村正は、妖ではなかったのだ。
鬼神だという。
村正の正体を聞いて、綾姫達は、衝撃を受けた。
『そ、そんな……聞いたことがないぞ!!』
『無論だ。なぜなら、夜深が、密かに生み出したからな』
空巴達は、困惑しながらも、問い詰める。
彼らも、知らなかったのだ。
鬼神が、生まれていた事を。
当然であろう。
夜深が、密かに生みだしていたのだ。
これは、創造主・笠斎さえも、知らない事だ。
『天鬼が、私と似ているのは、私の力を受け継いだからだ。ゆえに、最強の鬼となった。そうとも知らず、貴様の両親は、天鬼を捨てたがな』
「……」
村正は、天鬼の正体も、明かす。
なぜ、自分と天鬼が、似ているのか。
天鬼が、村正の力を色濃く受け継いだからだ。
元々、村正の力は、鬼の一族に、受け継がれていた。
その力を発揮できたのは、天鬼くらいだったのだ。
天鬼の両親は、その事を知らずに、天鬼を恐れて、地獄に捨ててしまったようだ。
美鬼は、言葉を失った。
おそらく、感じたのだ。
天鬼の事も、鬼神・村正の事も。
『さて、話は、終わりにしよう』
村正は、千草に歩み寄る。
もう、千草は、息絶えたはずだ。
それなのに、何をするつもりなのだろうか。
綾姫達は、村正を止めなければいけない事を悟ったが、身が硬直して、動けなかった。
『見せてやろう。千草の皇城家の聖印能力、神懸かりを!!』
村正は、千草の聖印に触れ、無理やり、聖印能力を発動する。
千草が、夜深から授かった皇城家の聖印を。
その名は、神懸り・神村正。
すると、村正は、千草の中へと取り込まれ、千草は、急に目をカッと開けた。
村正が、千草の中に入った事により、強制的に復活してしまったのだ。
千草は、起き上がり、妖刀・村正を手にした。
「千草が、復活した……」
柘榴は、呆然と立ち尽くしてしまう。
信じられないのだろう。
確実に、心臓を貫いたというのに、千草が、復活してしまったのだから。
「さあ、殺し合いといこじゃないか!!」
千草は、天を仰いだ。
そして、すぐさま、間合いを詰めて、空巴達を切り裂き、吹き飛ばした。
一瞬の出来事であった。
「空巴!!」
「神が、一撃で……」
綾姫達は、あっけにとられる。
神々である空巴達が、一瞬にして、体を切り裂かれ、吹き飛ばされてしまったのだ。
それも、戦闘不能に陥るまで。
千草は、悪鬼羅刹と言う技を発動したのだ。
一瞬にして、相手を切り裂き、吹き飛ばしてしまうほどの威力を持つ。
元々は、村正が発動できる技であるが、無理やり、発動したのだろう。
「ふはははは!!いいぞ!!さあ、絶望しろ!!」
神々が、倒れた事により、困惑し、絶望してしまう綾姫達。
綾姫達の心情を読み取った千草は、高笑いをし始めた。
これで、彼女達の勝ち目はなくなったと、察したのだろう。
千草は、すぐさま、綾姫達に、襲い掛かった。
瑠璃が、美鬼を憑依させて、綾姫を守ろうとする。
しかし……。
「皆、ここは、逃げて!!俺が……」
柘榴が、真登を憑依させて、綾姫達を守ろうと前に出た。
しかし、千草は、一瞬にして、柘榴を切り裂いた。
「うああああああっ!!」
「柘榴!!」
千草の悪鬼羅刹を受けた柘榴は、吹き飛ばされ、倒れてしまう。
意識が、朦朧としてしまうほどに。
憑依状態でも、どうにもならないほどだ。
綾姫達は、戸惑ってしまった。
「まだだ!!」
千草は、容赦なく、綾姫達に襲い掛かる。
たった、一瞬のうちに。
綾姫達は、構えようとするが、時すでに遅し。
その場にいた高清、春日、要が、悪鬼羅刹を受け、吹き飛ばされてしまったのだ。
「高清さん達まで……」
綾姫は、愕然とした。
妖人、いや、式神と同化した高清達でさえも、敵わなかったのだ。
しかも、連携をとる間もなく。
圧倒的過ぎる。
これでは、勝ち目がない。
どうすればいいのか、戸惑う綾姫達。
その隙を千草は、逃すはずもなく、続けざまに、透馬、景時、夏乃、初瀬姫、和巳、時雨、和泉が、悪鬼羅刹を受け、吹き飛ばされてしまった。
「皆……」
「どうしよう……」
――……すみません。瑠璃。
これで、戦えるものが、綾姫、瑠璃、美鬼だけとなってしまった。
それでも、千草は、容赦なく、綾姫達に襲い掛かろうとする。
綾姫達の命を奪う為に。
瑠璃は、綾姫を守るために、前に出る。
しかし、美鬼が、瑠璃に謝罪し、瑠璃の体から出てしまった。
「美鬼!!」
突然の美鬼の行動に瑠璃は、困惑する。
美鬼は、綾姫達を守ろうと、前に出たのだ。
しかし、千草は、美鬼の手をつかんだ。
「っ!!」
「同胞にしては、弱すぎたな」
美鬼は、目を見開くが、千草から逃れようと、手を引く。
それでも、千草は、決して、美鬼を離そうとしなかった。
鬼でありながらも、人間と共に暮らしてきた美鬼をののしる千草。
そして、美鬼も、悪鬼羅刹を受け、吹き飛ばされ、倒れてしまった。
「よくも!!」
「駄目よ、瑠璃!!」
美鬼が、傷ついたのを目にしてしまった瑠璃は、怒りを露わにし、我を忘れて、千草に向かっていく。
綾姫が、危険を察知して、瑠璃の前に出た。
だが、時すでに遅し、千草は、悪鬼羅刹を発動し、綾姫と瑠璃は、直撃してしまった。
「ああああああああっ!!!」
綾姫と瑠璃は、体を切り裂かれ、絶叫を上げながら、吹き飛ばされ、倒れた。
これで、綾姫達は、全滅しかけた。
誰も、立ち上がれる者がいなくなったのだ。
それでも、千草は、綾姫達の元へ歩み寄る。
まるで、止めを刺そうとしているようだ。
綾姫達は、起き上がろうとするが、激痛で起き上がれなかった。
「貴様らは、私は、二つの聖印を同時に発動できないと言っていたな。確かにそうだ。だが……」
千草は、聖印を発動する。
それも、全ての聖印を。
先ほどまで、発動できなかったというのに。
「神懸りを発動すれば、それは、可能だ!!」
確かに、千草は、二つの聖印を同時には、発動できなかった。
だが、神懸かりを発動してしまえば、できてしまうのだ。
それも、全ての聖印を一気に。
千草は、全ての聖印を発動し、綾姫達に襲いかかった。
技の名は、妖神連魔。
綾姫達は、体中に傷を負い、重傷を負ってしまった。
誰も、起き上がる力すら、残っていないほどに。
「終わったな。もう、動けまい」
村正は、綾姫達に迫っていく。
綾姫達は、もう、動くことすらできない。
彼女達の様子をうかがっていた村正は、確信を得た。
自分達の勝ちだと。
村正は、妖刀を振り上げた。
「さあ、死ぬがいい!!」
村正は、妖刀を振り下ろす。
妖刀が、綾姫に迫っていた。
その時だ。
村正が、突然、動きを止めたのは。
「なっ、なに!?」
村正は、驚愕する。
動きを止めたのは、村正の意思ではないのだ。
しかも、頭を抱え始める。
まるで、痛みが、村正を襲っているようだ。
「な、何が……」
綾姫達も、驚愕し、意識が朦朧としながらも、村正を見る。
村正の瞳から、かすかに、温かみを感じていた。
「葵……葵は、どこにいる?」
「千草……」
村正が、葵と呼んでいる。
いや、村正ではない。
千草だ。
千草が、意識を取り戻したのだ。
一度は、心臓を貫かれて、命を落とした。
だが、村正の神懸りにより、強制的に復活し、それが、きっかけで、一時的に意識を取り戻したのだろう。
千草は、葵を探しているようだ。
「すまなかった……。お前を傷つけるわけでは……」
――そうだったのね。そうよ、千草は、葵様を憎んでなんかいなかったんだわ。ただ、守りたかっただけなのよ。ずっと、ずっと……。
千草は、ただ、葵と静居を恨んでなどいなかった。
それどころか、後悔していたようだ。
力を求め、力におぼれてしまった事に。
それが、葵を傷つけてしまったのだと、悟って。
綾姫は、千草の心情を読み取り、村正を追いだせば、千草を救うことができるかもしれないと考えた。
しかし……。
「があああああああっ!!!」
突如、千草は、絶叫を上げる。
すると、千草が、荒い息を繰り返し、綾姫達をにらみつけたのだ。
おそらく、村正が、意識をのっとってしまったのだろう。
これで、千草を救うことも、できなくなってしまったようだ。
「忌々しい!!今度こそ!!」
村正は、再び、妖刀を綾姫達に向ける。
このまま、刺し殺すつもりのようだ。
しかし、それも、敵わなくなってしまった。
なぜなら、創造主・笠斎が、前に出て、防いだからだ。
消滅したはずなのに。
「笠斎……」