第百八十四話 死をつかさどる神の猛攻
「残念だったね。光焔、いなくなっちゃった」
「貴様!!」
村正は、柚月達をあざ笑う。
光焔との別れを見ていたかのようだ。
柚月は、怒りに駆られ、草薙の剣を鞘から引き抜き、村正に、斬りかかろうと、向かっていった。
――奏、待て!!
瀬戸が、術を発動して、柚月を引き戻す。
なぜなら、村正の前に、千草が出て、柚月を切り裂こうとしたからだ。
瀬戸のおかげで、柚月は、傷を負わず、冷静さを取り戻した。
だが、千草は、柚月を見て、唸っているようだ。
まるで、怒りを露わにしているかのように。
葵によく似た柚月を見て、感情が抑えきれなくなっているのであろう。
――千草様……。
瀬戸は、千草に対して、複雑な感情を抱いている。
千草は、葵の父親だ。
そして、自分が、封印したと言っても、過言ではない。
葵の気持ちを無視して。
ゆえに、妖人と化してしまった千草をどうするべきなのか、迷っていた。
「オマエ……セト……?」
――そうです。私です。鳳城瀬戸です!千草様、どうか、怒りを……。
「せとぉおおおおおおっ!!」
柚月の隣にいる人物が、瀬戸だと気付いた千草。
瀬戸は、怒りを鎮めるよう説得を試みるが、千草は、怒りを露わにし、感情に任せて、爪で、瀬戸に斬りかかった。
今度は、柚月が、八咫鏡で、防ぎ、瀬戸を後退させたのだ。
千草は、唸り声を上げて、瀬戸をにらみつけた。
「無駄だよ。君の事も憎んでるんだから。君も、僕達を封印したんだよ?」
――……。
村正は、無邪気に瀬戸に告げる。
瀬戸も、封印に加担した者。
千草は、葵だけでなく、瀬戸の事も憎んでいるのだ。
ゆえに、瀬戸の言葉を聞くわけがなかった。
瀬戸も、反論することができず、言葉を失った。
『そうだ。貴様らに、いいものを見せてやろう』
死掩は、力を発動する。
すると、傷だらけになった空巴が、柚月達の前に現れ、倒れ込んだ。
『空巴!!』
柚月達は、空巴の元へと駆け付ける。
消滅しかけているわけではないようだ。
だが、重傷を負っている。
光黎は、すぐさま、心地光明を発動し、空巴の傷を癒し始めた。
『すまない、光黎……』
空巴は、光黎に謝罪する。
申し訳なく感じているようだ。
空巴は、静居達の行方を探っていたが、突如、死掩と千草、村正が、空巴に襲い掛かったのだ。
空巴は、死掩達と死闘を繰り広げていたが、猛攻を受け、倒れてしまう。
そして、そのまま、死掩達に、ここまで連れてこられたようだ。
死掩達は、柚月達を殺すつもりなのだろう。
静居達の野望を叶える為に。
「憎い?僕達の事が、憎いの?」
「そうだな。だから、お前達を倒す」
「強がっちゃって。弱いくせに」
村正は、柚月に問いかける。
それも、無邪気にだ。
柚月は、こぶしを握りしめ、村正をにらみつける。
許せないのだ。
光焔の事をあざ笑い、空巴を傷つけたことを。
ゆえに、柚月は、立ち上がり、構えた。
村正は、癪に障ったのか、柚月達をにらみつけて、低い声で罵る。
そして、村正は、突如、鬼を一斉に生み出したのであった。
「鬼!?」
「なぜ、鬼を生み出せるのです!?」
突如、鬼が現れ、瑠璃も、美鬼も、動揺を隠せないようだ。
特に、美鬼は、なぜ、鬼を生み出せるのか理解できない。
一体、村正は、何者なのだろうか。
「さあ、皆殺しだよ!!千草!!」
村正は、千草に命令し、千草は、雄たけびを上げながら、柚月達に突進するように向かっていく。
鬼達も、一斉に、柚月達に襲い掛かり、綾姫達は、鬼と交戦しなければならなくなった。
「光黎!!」
『承知!!』
柚月は、聖印能力・神懸りを発動し、光黎を取り込む。
だが、彼の力を持ってしても、千草は、柚月を追い詰めようとする。
まだ、力が完全に目覚めていないのだろうか。
それとも、千草が、全ての聖印を取り込んだがゆえに、その能力が異常なのか。
千草は、爪で、柚月を切り裂こうとした。
その時であった。
朧が、九十九と千里を憑依させ、千草の前に立ち、攻撃を防いだのは。
「朧!!」
「兄さん、行って!!」
朧は、柚月に死掩の元へ行くよう促す。
死掩に対抗できるのは、柚月だけだからだ。
朧も、柚月の援護をしたい。
だが、今は、千草を食い止めなければ、どうにもならないであろう。
千草は、朧が手にしている餡枇をはじき、爪で、朧に斬りかかる。
だが、要が、千草の腕をつかみ、動きを止めた。
「海親!」
「拙者も助太刀するでござるよ、朧殿!!」
千草は、暴れまわるが、要は、必死に千草にしがみつく。
ここで、村正が、要に襲い掛かろうとするが、朧が、斬りかかる。
だが、要が、ついに、耐え切れなくなりそうになり、体勢を崩しかけた。
柚月は、要を助ける為に、千草に斬りかかろうとするが、和泉が、麗線を使って、千草の腕を捕らえた。
「和泉!!」
「なんとか、食い止めてやるさ。ほら、行きな!!」
「すまない」
和泉も、柚月に先に行くよう促す。
柚月は、申し訳なく感じながらも、死掩の元へ向かった。
その時だ。
夏乃と景時が、柚月の後を追ったのは。
「私も、行きます。柚月様」
「何とか、しないとね!!」
「ありがとう、夏乃、景時」
柚月だけに背負わせるつもりはない。
ゆえに、夏乃と景時も、柚月と共に戦うつもりでいた。
相手が神であり、どれほど強敵であろうともだ。
仲間が、支えてくれると感じた柚月は、感謝し、ついに、死掩の元へたどり着き、構えた。
「行くぞ、死掩!!」
『いい、実にいいぞ!この力を、つぶしてやろう!!』
死掩は、この状況に対して、喜びをかみしめているようだ。
柚月達を殺すつもりなのだろう。
いや、彼らが、勝てるわけないと踏んでいるようだ。
柚月は、死掩に斬りかかろうとするが、死掩の前に、人々が立つ。
それも、生気を失った姿で。
彼らは、命を落とした者達であるが、死掩が、発動した技により、復活してしまったのだ。
その名は、死灰復然。
死体を復活させて戦わせる技であり、残酷な技であった。
「こ、こいつらは……」
『私が、殺した者達だ。どうだ?実にいいだろう?』
「こいつ……」
いくら、死したと言えど、再び、命を奪えるわけもなく、困惑する柚月達。
死掩は、不敵な笑みを浮かべている。
この戦いの傍観者になろうとしているようだ。
人の命を奪えるのか、試しているようにも思える。
なんとも、卑劣なやり方であろうか。
柚月達は、憤りを覚えた。
しかし……。
――案ずるな。柚月。私に任せろ。
光黎は、困惑する柚月達に対して、任せるよう告げる。
すると、光黎は、光と炎を発動し、復活させられたものは、光と炎に包まれ消滅した。
これは、光黎が、発動できる技だ。
その名は、光焔万丈。
光と炎で敵を討つことも、浄化することもできる。
今回は、浄化したのであろう。
復活させられた者達の魂を黄泉へ導くために。
『なっ!!』
――残念だったな。これで、死体を復活させることは、できないだろう。
あっけなく、技を破られ、死掩は、動揺する。
もう、死灰復然を発動した所で、柚月達を殺すことはできないだろう。
ゆえに、封じられたと言っても過言ではなかった。
『さすがだな。光の神。なら、こいつは、どうだ!!』
死掩は、柚月に襲い掛かろうとするが、夏乃が、時限・時留めを発動し、一瞬の時を止める。
その間に、景時が、天次に天狗嵐を発動させ、柚月と死掩の間に、風を巻き起こし、死掩の行く手を阻んだ。
『人間風情が!!』
死掩は、夏乃と景時に向かって、襲い掛かる。
だが、柚月が、前に出て、死掩の攻撃を防ぎきった。
死掩は、苛立ったようだ。
柚月は、死掩にとって邪魔な存在でしかない。
だが、柚月は、未だ、体が、慣れていないのか、思うように、行動ができないようだ。
完全に覚醒していないと悟った死掩は、どうにかして、覚醒する前に、柚月を殺そうと、襲い掛かるが、柚月は、何とか、その場をしのごうと攻撃を防ぎきった。
しかし……。
「ぐっ!!」
「朧!!」
朧のうめき声が聞こえ、柚月は、振り向く。
朧は、怪我を負ってしまったようだ。
朧の体力は、限界を超えているのかもしれない。
当然であろう。
朧は、波長を合わせ、何度も、憑依を発動してきたのだ。
無理をしているのだろう。
それでも、朧は、体に鞭を打って、構えた。
朧の様子を死掩が目にし、不敵な笑みを浮かべた。
『いい、実にいいぞ!!』
死掩は、天を仰ぐ。
まるで、何か企んでいるかのようだ。
柚月達は、警戒し、構えた。
『千草、そいつを捕らえろ』
「っ!!」
「朧!!」
死掩は、千草に命令する。
すると、千草は、すぐさま、朧の首を腕で絞め始めた。
朧は、きつく目を閉じ、もがこうとするが、千草の力の方が強く、もがけばもがくほど、絞められてしまう。
要と和泉は、朧を助けようと千草に向かっていくが、村正が、二人に襲いかかり、行く手を阻んだ。
「ほらほら、どうしたの?これじゃあ、助けられないね?」
村正は、柚月達をあざ笑う。
柚月達は、すぐさま、朧の救出に向かおうとするが、ここで、柚月は、ある事に気付いた。
死掩が、術を唱え始めたのだ。
それも、自分に向かってではなく、朧を対象としている。
柚月は、死掩が、発動する前に、朧を助けようとするが、死掩が、術を発動してしまったのだ。
黒い塊が、朧の方へと向かっていく。
柚月は、朧の前に出て、朧をかばい、黒い塊が、柚月を覆い尽くしてしまった。
「があああああああっ!!」
「兄さん!!」
柚月は、絶叫を上げる。
その時だ。
神の光が、発動され、黒い塊が、消滅したのは。
黒い塊が、消えさえると柚月は、傷を負って倒れてしまった。
死掩が発動したのは、酔生夢死と言う技だ。
黒い塊の中に、相手を捕らえ、滅ぼす技だが、光黎が、神の光を発動し、柚月を救出したのだ。
だが、柚月は、重傷を負ってしまった。
朧は、手を伸ばすが、突如、千草が、朧を離し、朧の腹を殴りつける。
朧のあばらが、何本も折れる音が響いた。
「ああああああぁっ!!」
「朧君!!」
朧も、絶叫を上げ、倒れ込む。
柚月も、朧も、戦闘不能となってしまったのだ。
――神懸りの力を発動したというのに、駄目なのか……。
柚月は、力を込めようとするが、激痛により、込めることさえ叶わない。
神懸りの力を持ってしても、死掩達に勝つことができないのだ。
そう思うと、柚月は、あきらめかけてしまった。
しかし……。
――しっかりするのだ!!
突如、光焔の声が、柚月の頭の中に響いてきた。