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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十三章 皇城家の双子の兄弟
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第百六十八話 告白

 静居は、瀬戸から、妖人の正体が千草であった事、そして、千草を討伐する事は不可能として、深淵の界と呼ばれる場所に封じたと報告を受けた。

 瀬戸が、光城に帰還した後、静居は、夜深と酒を飲む。

 父親が封印されたというのに。

 いつものように。


「失敗したか」


「みたいね」


「まさか、村正の坊やも、封じられちゃうなんて」


「失敗作を殺させるつもりだったのだがな」


 なんと、静居は、千草を葵に殺させる計画だったようだ。

 静居は、千草が、妖人になった事を知っていた。

 そして、自分の駒として動かすつもりであったが、妖人となってしまったが為に、失敗作だと呟いたのだろう。

 葵は、千草を殺させることで、罰を与えようとしたのだ。

 信頼を得た葵の精神を崩壊させたかったのだろうか。

 愛しい妹であったはずなのに……。


「あの子は、貴方とは違うんじゃない?双子でもね」


「そのようだ」


 夜深は、皮肉ってみせる。

 双子であっても、葵には、静居と違う。

 冷酷さも、野望もない。

 ゆえに、千草を殺せるわけがなかった。


「聖印渡しの術。どうするの?」


「これは、使える。私の邪魔となる者がいれば、これを使用させれば、追放できる」


「残酷ね。貴方は」


 夜深は、聖印渡しの術に関する書物を静居に渡す。

 千草の部屋からとってきたものだ。

 これを周囲に知られてはならないと判断したのであろう。

 静居は、自分で保管することにした。

 これを悪用するつもりのようだ。

 邪魔者と判断した者に、この術を発動させ、罪を犯したとして、追放するつもりだ。

 どこまでも、冷酷で、残忍なのだろうか。

 夜深は、そんな静居を愛おしく思っていた。

 狂おしいほどに。


「でも、千草の方はどうするの?封印が解かれたら、どうなるか……」


「……そうだな。だが、使えるかもしれない」


「え?」


 封印された千草は、どうするか、静居に問う夜深。 

 もし、千草の封印が解かれてしまったら、千草は、また、暴れまわり、人々の命を奪うであろう。

 だが、殺す事も不可能なほど、驚異的だ。

 静居も、そう推測しているらしい。 

 と思っていたのだが、予想外の言葉を口にする。

 静居は、千草を使役しようとしているようだ。

 これには、さすがの夜深も驚いている。

 どうするつもりなのだろうかと。


「私が、力を蓄え、使役すればの話だが」


「父親さえも、捨て駒にしようとするのね」


 静居は、自分が力を蓄えれば、千草を使役できると思っているようだ。

 それも、捨て駒として。

 家族であっても、葵の事も、千草の事も道具としか思っていないのかもしれない。

 夜深は、笑みを浮かべ、静居を後ろから抱きしめた。


「そういう貴方、私は、好きよ」


 夜深は、静居に自分の気持ちを伝える。

 静居を心から愛しているのだ。

 今日の彼女は、上機嫌のようであった。

 なぜなら、葵を絶望の底に陥れることができたと確信しているのだから。



 光城に帰還した瀬戸達は、それぞれ、自分の部屋に戻っている。

 皆、葵の事を心配しているのだが、どう声をかけたらいいのか、わからないのであろう。

 葵は、光城に戻った直後、自分の部屋に閉じこもった。

 一人にしてほしいと。

 瀬戸は、どうするべきか、迷い、自分の部屋で一人、悩んでいたが、突然、立ち上がり、部屋から出る。

 葵が、心配になったのであろう。

 瀬戸は、葵の部屋にたどり着くと、葵の部屋の前で立っている光黎と出会った。


「瀬戸……」


「葵は、大丈夫か?」


「わからない。私は会わないほうがいいと思ってな」


 瀬戸は、光黎に問いかける。

 葵のことが気になったのだろう。

 だが、光黎は、葵の部屋に入ったわけではないらしい。

 会わせる顔がないのだ。

 強引に、葵の体を操り、千草を封印したのだから。

 光黎は、責任を感じていたのだ。


「瀬戸、葵の事、頼めるか?」


「私が?」


「そうだ」


 光黎は、瀬戸に葵の事を託す。

 瀬戸なら、葵の傷ついた心を癒してくれる。

 そう、確信を得たのであろう。

 葵の事を理解し、支えになってきた瀬戸なら、と。


「わかった」


「ありがとう」


 瀬戸は、うなずいた。

 葵と話す事を決意したようだ。

 光黎は、お礼を言い、その場から去っていく。

 そして、瀬戸は、葵の部屋の前に立ち、息を吐き、心を落ち着かせた。


「葵、入るぞ」


 瀬戸は、葵に声をかけ、御簾を上げる。

 葵は、呆然としており、生気を失っているかのようであった。

 目は、赤く腫れている。

 ずっと、泣いていたのであろう。

 瀬戸は、しゃがみ込み、葵の目をじっと見つめた。


「大丈夫か?」


「……」


 瀬戸は、葵に尋ねる。 

 だが、葵は、返事をしようとしない。

 生きる気力を失ってしまったのかもしれない。

 それほど、堪えたのだろう。


「すまない。私は、君の父親を……」


「瀬戸のせいじゃない」


「え?」


 瀬戸は、葵に謝罪しようとする。

 彼も、責任を感じていたのだ。

 千草を封印することは、苦渋の決断だった。

 だが、結果、葵を傷つけてしまった。

 葵の訴えを無視したのだから。

 葵は、瀬戸のせいではないと告げる。 

 瀬戸は、驚き、目を見開いた。


「私が、悪いんだよ。私が、未熟だったから……。だから、光黎にも辛い思いをさせてしまった」


「葵……」


 葵も、責任を感じていたのだ。

 父親である千草を救えなかったことを。

 もし、力があれば、千草を救えたかもしれない。

 未熟であったがゆえに、千草を封印するしかなかったと思っているようだ。

 光黎の事も、責めているわけではなく、むしろ、申し訳なく感じていた。

 瀬戸は、心が痛んだ。


「私は、皆を救いたかった。人も、妖も……でも、できなかった。救えなかったんだ……。ごめんなさい、父様……」


 聖印を授かり、光黎と契約を交わしてから、葵は、全て、救うと誓って、今まで、妖達と戦いを繰り広げてきた。

 討伐する事で、妖達を救えると信じて。

 だが、それも、思い込みだったのかもしれない。

 誰も救えず、父親でさえも、救えていなかった。

 そう思うと、葵は、自分が、未熟だったと思い込んでいたのだ。

 葵は、涙を流し、千草に謝罪した。

 しかし……。


「救ってくれたよ」


「え?」


「葵は、救ってくれた。葵が、光黎と契約してくれたから、私は、今も、こうして、生きている。皆だってそうだ」


「瀬戸……」


 瀬戸は、葵に語りかける。

 神聖山で光黎に始めて会った時、瀬戸は、救われたのだ。

 葵が、光黎と契約し、神懸かりで、妖達を討伐してくれたおかげで。

 屋敷に襲撃した時も、葵は、聖印一族を守るために、静居と共に戦った。

 だからこそ、自分は、聖印の力を授かろうと決意できたし、聖印一族は、守られたのだ。

 葵が、皆を守った。

 瀬戸は、そう言いたいのだ。

 瀬戸の優しさを感じて、葵は、涙を流した。


「今は、封印するしかなかったかもしれない。だが、元に戻せる方法が見つかるかもしれない。そう、思わないか?」


「そうかな、見つかるかな?」


「見つけるんだ。私達で」


「うん……」


 今後、千草を元に戻せる方法が見つけられるかもしれないと瀬戸は、葵に告げる。

 つまり、希望はまだ残っていると予想しているのだ。

 確信はない。

 だが、千草を元に戻す機会は、いくらだってある。

 瀬戸は、方法を見つけようと葵に告げ、葵は、うなずき、手で涙をぬぐった。


「葵、もう、泣かなくていい。一人で背負わなくていいんだ。私が、君の支えになる」


 瀬戸は、葵に告げる。

 自分が、葵をさせるからと。

 そして、瀬戸は、葵を抱きしめた。

 葵は、驚き、体を硬直させた。

 予想もできなかったからだ。


「君が好きだ」


 瀬戸は、自身が抱いてきた想いを葵に告げた。

 葵は、目を見開き、驚いていた。

 予想もできなかったのだろう。

 まさか、瀬戸が自分を好いてくれていたとは。


「葵の気持ち、聞かせてくれるか?」


「ま、まだ、早いよ……」


 瀬戸は、葵に尋ねる。

 返事が聞きたいようだ。

 だが、まだ、告白されたばかりで、葵は、戸惑っていた。


「じゃあ、聞かせてくれるまで、離さない」


「本当、強引だな、君は……」


 瀬戸は、葵の返事が聞けるまで、離さないというのだ。

 本当に、強引だ。

 そう思っているのに、嫌ではなく、居心地がいいと葵は、思えた。


「瀬戸は、ちゃんと、私を見てくれた。皇城家の者じゃなくて、一人の人間として」


「うん」


「すごく居心地が良くて、どうしてかなって、わからなかったけど。今は、わかる気がする……」


 葵は、今まで、自分が抱いてきた感情を瀬戸に告げる。

 瀬戸は、たまに、強引だけど、優しくて、いつも、自分の事を気にかけてくれる。

 瀬戸といると居心地が良かった。

 なぜ、そう思えるのか。

 自分は、どういった感情を抱いているのか、葵には、わからなかった。

 だが、瀬戸に告白され、葵は、気付いたのだ。

 自分の気持ちに。


「私も、好きなんだって」


「良かった!!」


 葵は、自分の想いを瀬戸に告げる。

 この感情は、愛だったのだ。

 瀬戸を愛していたのだ。

 瀬戸は、子供のように嬉しそうにはしゃぐ。

 想いが通じ合って嬉しいのであろう。

 瀬戸は、葵から離れるが、本当にうれしそうだ。

 そんな瀬戸を見た葵は、心が穏やかになり、微笑んだ。


「葵、これからは、大丈夫だ。私がいる。側にいるから」


「うん。ありがとう。瀬戸」


 葵は、瀬戸と口づけを交わした。

 瀬戸といれば、どんな困難も立ち向かえる。

 葵は、そう、確信したのだ。

 だが、この時、葵は、知らなかった。

 一年半後、静居の野望を知り、静居と戦うことになるとは。


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