表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十三章 皇城家の双子の兄弟
163/204

第百六十二話 救う手段

 葵は、本堂から出て、瀬戸に報告する。

 静居は、帝を恨んでおり、手助けしようとしないのだと。

 葵は、静居に失望し、自身の手で、平皇京を救うことを話した。


「そうか。静居様は、そのような事を……」


「うん。確かに、気持ちはわかるけど、今は、そのような事を言ってる場合じゃないと思う」


「そうだな……」


 葵は、静居が、帝を恨む気持ちもわかる。

 だが、平皇京に住む人々を見捨てていいわけがない。

 彼らと協力し合い、和ノ国を守っていかなければならないのだから。

 瀬戸も同意見のようだ。 

 どのような過去があったとしても、帝や人々を見捨てるわけにはいかないのだから。

 ふと、葵は、瀬戸に関して気になることがあった。

 それは、瀬戸が、静居の事を「静居様」と呼んでいる事だ。


「ねぇ、瀬戸、聞きたいことがあるんだけど」


「どうした?」


「君は、どうして、静居の事を様と呼ぶようになったの?静居が、大将だから?」


 葵は、瀬戸に質問する。

 今まで、瀬戸は、静居の事を呼び捨てにしていたというのに、なぜ、急に様とつけるようになったのだろうか。

 葵にとっては、違和感でしかない。

 いくら、静居が大将になったと言えど、同じ聖印一族だ。

 なぜ、静居に気遣うのだろうか。

 葵は、気になって仕方がなかった。


「……やはり、君は、何も知らないんだな」


「え?」


 瀬戸は、難しそうな表情を浮かべて、呟く。

 葵の問いに対して、確信を得たようだ。

 葵は、何も知らされていないのだと。

 そして、葵に話すべきかどうか、躊躇していたが、隠し通せるものではないと判断して、瀬戸は、葵に語り始めた。


「実は、一年前、私達、鳳城家の位は下がったんだよ。一番下に」


「え!?」


 葵は、驚愕する。

 なんと、鳳城家の位が下がったというのだ。

 しかも、一年前に。

 葵が、武官に任命された時期と同じのようだ。


「その位を決めたのは、まさか……」


「……静居様だ」


 葵は、推測してしまった。

 鳳城家の位を下げたのは、間違いなく、静居であろう。

 瀬戸曰く、皇城家が一番高い位であり、次に千城家、安城家、天城家、万城家、蓮城家、真城家、鳳城家となってしまったようだ。

 静居は、鳳城家の者達の事も恨んでいたのかもしれない。

 鳳城家は、皇城家の人間を罵り、冷ややかな目で見てきたのだから。


「皇城家が、一番、位が高いのはわかっていた。だが、位の低い私は、君に会うことさえも、許されなかったんだ」


「静居は、そんな事まで……」


 静居は、一年前、鳳城家の者に命じたようだ。

 今後、皇城家の人間と関わりを持つことを禁じると。

 もし、皇城家と話がしたいのであれば、自分の許可が必要となると。

 なぜ、自分達にそのような事を命じたのかは、不明だ。

 静居の命令により、瀬戸は、葵と会うことを禁じられてしまい、ゆえに、葵と会うことを避けてきたのだ。

 しかも、捨て駒のように扱われたものもいるという。

 葵は、愕然とする。

 なぜ、静居は、鳳城家にそのような仕打ちを行ったのだろうか。

 罵られてきたと言っても、このような行いは、非道でしかないと。

 葵は、静居の心情が理解できなくなっていった。


「ごめん、何も知らなくて」


「いや、いいんだ。知られたくなかったのかもしれないな」

 

 葵は、瀬戸に謝罪する。

 だが、瀬戸は、葵が悪いとは、思っていない。

 むしろ、静居の気持ちを理解しているようだ。

 葵にだけは、知られたくなかったのだろう。

 もし、葵が、この事を知ってしまったら、軽蔑されると恐れていたのかもしれない。


「そんな事よりも、今は、鬼の事をどうにかしなければ」


「そうだね。でも、平皇京に行くには、時間もかかるし……」


 瀬戸は、自分の事よりも、西地方の問題を解決しなければならないと葵に促す。

 葵も、位の事は、気になるが、まず、鬼をどうするか、対策を練らなければならない。

 だが、平皇京まで行くには、最短で一週間かかる。

 それよりも、前に、鬼が襲撃してしまっては、彼らを救うことはできないのだ。

 自身が神懸りを発動して、瀬戸を抱えていくことも可能だ。

 だが、鬼を討伐するには、戦力が足りない。

 それに、平皇京に到達したとしても、力を使っている為、体に負担がかかってしまうだろう。

 となると、効率の良い手段が無く、葵達は、頭を抱えた。

 しかし……。


「私に、いい考えがある」


「え?どうすればいい?」


「私に、ついてきてくれるか?」


 光黎は、何かいい案が浮かんだようだ。

 葵は、藁にも縋る思いで、光黎に尋ねる。

 すると、光黎は、葵と瀬戸をある場所へと連れていった。



 そこは、聖印京から遠く離れた場所。

 天利堂が、建てられている場所であった。


「ここは……確か、天利堂だったよね?」


「そうだ」


「天利堂は、真城家が管理していたと聞いていたが、なぜ、ここに?」


 天利堂の事は、葵達も、知っている。

 いつ、建てられたのかはわからないが、由緒正しい建物である事は聞かされていたのだ。

 神が授けた建物だと言われているらしい。

 ゆえに、真城家が天利堂を管理していたのだ。

 だが、なぜ、光黎は、葵達をここへ連れてきたのだろうか。

 葵と瀬戸は、見当もつかなかった。


「天利堂は、仮の姿だ」


「仮の姿?」


「まぁ、見ておれ」


 光黎は、力を発動する。

 すると、天利堂は、共鳴するかのように、見る見るうちに、変化し、一回りも巨大化し、城へと姿を変えた。


「わっ!」


「変化した!?」


 葵と瀬戸は、驚愕し、目を見開いている。

 まさか、天利堂が、変化するとは、思ってもみなかったのであろう。

 だが、驚くことは、これだけではなかった。


「それだけではないぞ」


 光城は、さらに、力を発動する。

 すると、大地が大きく揺れ、葵も、瀬戸も、ふらつきそうになるが、互いを支え合う。

 城へと変化した天利堂は、ゆっくりと、浮かびあがり始めた。


「「う、浮かんだ!?」」


 葵と瀬戸は、声をそろえて、驚く。 

 城が浮かぶなど、誰が予想できたであろうか。

 まさか、天利堂にこのような仕掛けがあったとは。

 葵と瀬戸は、あっけにとられた様子で、城を見上げていた。 

 光黎は、嬉しそうに城を見上げていた。


「真の名は、光城。かつて、創造主から託されたものだ。それを天利堂に変化させて、神の一族に守らせていた」


「そういう事だったんだ」


 光黎曰く、光城は、古き時代に、創造主から託されたものらしい。

 おそらく、聖印一族が神の一族と呼ばれていた時代なのだろう。

 その時から、真城家が管理していたのかもしれない。

 葵は、納得していたが、やはり、驚きは、隠せない。

 目を瞬きさせながら、光城を見上げていた。


「さあ、二人を乗せよう」


「え?」


 光黎は、二人を光城に乗せると告げたのだ。

 葵も、瀬戸も、動揺を隠せない。

 あの浮かんだ城へとどうやって、乗るというのだろうか。

 困惑している二人を見て、光黎は、何も説明せず、突如、光を発動する。

 葵と瀬戸は、光に包まれ、一瞬のうちに、光城へと吸い込まれていった。


「ここって、光城の中?」


「そうだ」


 光城の中にたどり着いた葵は、すぐさま、自分達がいる場所は、光城の中である事に気付く。

 光黎は、うなずき、答えた。

 今、葵と瀬戸がいる場所は、大広間と呼ばれる場所であり、広い空間となっている。

 何十人も入れそうな場所だ。


「すごいなぁ」


 瀬戸は、あっけにとられた様子で、大広間を見回している。

 光城が、浮いている事も、光城の中が思っていた以上に広い事も、信じられないくらいだ。


「ここからなら、すぐに、どこにでも行ける。平皇京も行けるぞ」


「なるほど、これなら、すぐに、行けるね!瀬戸」


 光黎は、光城にいれば、どこへでも移動できる。

 つまり、時間をかけずに、すぐに平皇京にたどり着けるというわけだ。

 葵は、目を輝かせ、瀬戸に語りかける。

 瀬戸は、顔を赤らめて、葵から、目をそらした。


「そ、そうだな」


 瀬戸は、思わず、目をそらしてしまったが、なぜ、自分が、顔を赤らめてしまったのかは、見当もつかない。

 葵が、満面の笑みを浮かべたからなのだろうか。

 だが、葵は、男だ。

 男に惚れるはずがない。

 瀬戸は、自身が、どのような感情を抱いているのか、理解できず、困惑していた。


「ねぇ、瀬戸。君の部下をここに呼び寄せられないかな?彼らの力が必要となると思う」


「そうだな。だが……」


 葵は、瀬戸に懇願する。

 彼の部下をここへ呼び寄せてほしいと。

 鬼と戦うのだ。

 自分達だけでは、不利になってしまう可能性があるからであろう。

 だが、瀬戸の部下が、来てくれれば、心強い。

 瀬戸も、そうしたいところではあるが、勝手な事をすれば、武官と静居に知れ渡ることになってしまうだろう。

 部下にも迷惑をかけることになる。

 討伐隊の武官が、それを許可するとは、到底思えず、瀬戸は、躊躇してしまった。


「武官の事なら、問題ないよ。私が、話をつけてくる。もちろん、静居には内密で」


「すまいなぁ」


 葵は、自分が、武官と話すと瀬戸に告げたのだ。

 もちろん、静居には、知られないように。

 瀬戸にとって、ありがたいことではあるが、葵に頼らなければならないことに関して、瀬戸は、申し訳なく思っており、情けなくも感じていた。

 それでも、葵なら、説得してくれるであろうと確信を得た瀬戸なのであった。


「さあ、共に行こう!」


 こうして、葵達は、鬼を討伐するために、動き始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ