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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十三章 皇城家の双子の兄弟
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第百五十三話 黄泉の神

 混乱に陥っていた人々。

 もはや、皆、全滅か。

 誰もが、そう思っていた。

 だが、そこへ、静居が現れたのだ。

 別の姿で。

 まるで、神のように。


「あれは、まさか……」


「皇城静居?」


 城家の者は、口々に呟いている。

 あっけにとられているようだ。

 まさか、静居が、現れるとは、思いもよらなかったのであろう。

 しかも、自分達を助けた。

 誰もが信じられないと言わんばかりの表情を浮かべていたのだ。

 静は、冷静に、あたりを見回す。

 和ノ国は、妖達が、徘徊している。

 今も、人々の命を狙っているようだ。


「まずい状況のようだな。だが、全て、殲滅してみせる!!」


 静居は、力を解き放った。

 あの漆黒の光が、飛び散っていく。

 漆黒の光は、妖達に直撃し、妖達は浄化された。


「あ、妖達が!!」


「浄化されていく……」


「どうなっているんだ!!」


 人々は、目を見開き、あたりを見回している。

 信じられないのだろう。

 妖達は、今まで、追い返すことはできても、浄化する事もできなかったのだから。

 それを静居は、いとも簡単に成し遂げたのだ。

 異様な姿と言い、異様な力と言い、静居は、何をしたのか、誰にも、理解できなかった。

 葵でさえもだ。


「あれは、静居?どうして、何が起こって……」


 葵は、戸惑いを隠せないようだ。

 当然であろう。

 突然、妖達が大量発生し、人々を襲ったかと思いきや、姿を消した静居が、現れ、妖達を浄化したのだ。

 状況を把握できないのであろう。

 だが、その時であった。 

 一匹の妖が、葵に襲いかかったのは。


「葵!!」


 瀬戸は、葵の前に立つ。

 葵を守るために。

 静居が、妖が葵に襲い掛かっているのを目にした。


「逃がさんぞ!!」


 静居は、再び、漆黒の光を妖に向けて放つ。

 妖は、瀬戸を殺す寸前で、漆黒の光に当たり、消滅した。

 これには、葵も、瀬戸も驚きを隠せない。


「静居が、助けてくれたの?」


 葵は、恐る恐る静居を見上げる。

 静居が助けてくれたのだと、察して。

 静居は、冷静さを保ちながら、あたりを見回した。

 まだ、妖達が、徘徊している。

 このままでは、本当に、和ノ国は、滅んでしまうだろう。


「さあ、行くぞ、夜深!」


 静居は、再び、漆黒の光を発動し、妖達を浄化していった。



 しばらくして、静居は、ようやく、妖達を殲滅した。

 いや、妖達は、ひと気のない場所へ逃げたと言っても、過言ではないだろう。

 これで、人々を襲ってくることはなさそうだ。

 今の所は、といった方がよさそうだが。


「全て、殲滅できたようだな。戻るぞ」


 ひとまずは、妖の殲滅に成功したと察した静居は、ゆっくりと葵達の元へ降りてくる。

 本当に、神のようだ。

 葵は、あっけにとられながらも、静居に見とれていた。

 しかし……。


「こ、こっちに来るな!」


「何をするつもりだ!!」


「別に、何もしませんよ。ただ……」


 城家の者は、静居に怯えているようだ。

 助けてもらったというのに。

 それでも、静居は、冷静に地に降り立つ。

 すると、静居の体から女性が、出てきた。

 それと同時に、静居も、元の姿に戻ったのだ。

 その女性は、漆黒の髪に、漆黒の瞳。

 妖艶且つ美しい女性は、笑みを浮かべながら、城家の者を見回していた。


「な、なんだ!?そいつは、何やつだ!!」


「静まれ!!」


 城家の者達が、ざわつき始める。

 女性に対して、敵意を抱いているように思えてならない。

 当然なのかのしれない。

 この女性は、静居の中から出てきたのだから。

 明らかに、人間ではない。

 未知なる存在だ。

 ゆえに、人々は、彼女を恐れた。 

 しかし、静居が、一喝する。

 城家の者達は、体を震え上がらせ、静まり返った。


「この者は、黄泉の神だ。その名も、夜深と言う」


「夜深?静居が、話しかけてたのは、あの人?」


 静居は、女性の事を紹介し始める。

 彼女は、なんと黄泉の神だというのだ。

 葵は、夜深の存在を知っていた。

 なぜなら、静居は、部屋で夜深の名を呟いたことが何度もあったからだ。

 静居から、夜深が黄泉の神である事を聞かされた時、驚きながらも、静居の事を信じた。

 静居が、言うなら、神は、存在し、対話が可能なのだろうと。


「そ、そんな事、信じられるか!!この化け物め!!」


 城家の者は、静居に襲い掛かろうとする。

 妖が現れ、混乱してしまっているようだ。

 静居を敵とみなしているのかもしれない。

 葵は、止めようとするが、夜深が、静居の前に出て、全ての武器をはじいた。

 まさに、神技と言ったところだ。

 葵も、城家の者もあっけにとられていた。


『静居に手出しはさせないわよ。次は、殺すわ』


 夜深は、冷酷な目で、城家の者達をにらみつけている。

 静居を殺そうとしたことに対して、憤り感じているようだ。

 彼女と視線が合った者達は、背筋に悪寒が走り、蛇に睨まれた蛙のように、体を硬直させていた。

 瀬戸の父親を除いて。


「このっ!!」


 瀬戸の父親は、再び、静居に襲い掛かる。

 今度こそ、静居を殺すつもりだ。

 だが、夜深が、瀬戸の父親の武器を真っ二つに折り、瀬戸の父親の首をつかむ。

 力は、込めていない。

 それだけだというのに、瀬戸の父親は、持ち上げられた。


「ひいぃいい!!」


「父上!!」


 瀬戸の父親は、悲鳴を上げる。

 ついに、恐怖に恐怖に怯え始めたのだ。

 今まで、静居を威嚇していたというのに、体を震え上がらせている。

 夜深に殺される。

 そう感じているようだ。


『言ったはずよ。次は、殺すと』


 夜深は、瀬戸の父親をにらみつける。

 警告したというのに、一度ならず二度までも、静居を殺そうとしたからであろう。

 彼女の目に殺気が、宿っている。 

 葵は、そう感じていた。

 夜深は、左手に力を込める。

 先ほどの漆黒の光を生み出そうとしているようだ。


「やめ!!」


「やめるんだ、夜深」


 葵が止めに入ろうとするが、静居が冷静な声で、夜深を止める。

 夜深は、ため息をつきながら、瀬戸の父親を離した。

 解放された途端、瀬戸の父親は、逃げるように後退する。

 何とも、情けない姿だろうか。

 今まで、威張っていたというのに。

 誰もが、そう思っていた。


「しかし、神と言うなら、なぜ、今まで、姿を現さなかったんだ?」


『私は、黄泉であなた達を見守っていたのよ。けど、妖達が、現れたから、こうして、助けに来たってわけ。醜くて、哀れな人間たちをね』


 一人の男性が、夜深に問いかける。

 なぜ、今になって姿を現したのか。

 夜深は、男性の質問に答えた。

 彼女は、黄泉で自分達を見守っていたそうだ。

 だが、突如、妖達が出現したことにより、黄泉から出て、静居と共に共闘し、妖を討伐したのだろう。

 城家の者達を、あえて、皮肉って。


「これで、信じてもらえたでしょうか?」


「……」


 静居は、瀬戸の父親に問いかける。

 彼が、一番、自分の事を信用していないと感じたからであろう。

 瀬戸の父親は、何も言わず、静居に背を向けて、去っていった。


「父上!!」


 瀬戸は、自分の父親を呼び止めようとする。

 あのような態度は、失礼に値すると感じたからだ。

 だが、瀬戸の父親は、立ち止まることなく、自分の息子から遠ざかっていった。

 瀬戸は、ため息をつきながらも、静居の元へと歩み寄った。


「静居殿、父がすみませんでした。本当に、ありがとうございます。おかげで助かりました」


「いいえ。こちらこそ、ありがとう。葵を守ってくれて」


「あ、いえ……」


 瀬戸は、静居に謝罪と感謝の言葉を述べた。

 ふがいない父親に変わって。

 だが、静居は、気にしていないようだ。

 むしろ、静居は、瀬戸が、葵を守ろうとしてくれたことを感謝している。

 瀬戸は、戸惑いながらも、うなずいた。


「葵、無事だったようだな。良かった」


「うん……」


 葵を目にした静居は、安堵している。

 心配していたのだろう。

 葵が、怪我をしていないか。

 瀬戸が、葵を守ってくれた事は、わかってはいるが、葵が無事であったと、分かり、ほっと、胸をなでおろしたのだ。

 葵は、うなずいてはいるが、暗い表情を浮かべていた。


「葵?どうした?」


 静居は、葵に尋ねる。

 何かあったのではないかと。

 葵は、とうとう、涙を流し始めた。


「静居……母様が……」


「母上が、どうしたんだ?」


「妖達に……」


「え?」


 葵は、肩を震わせる。

 舞耶の事を伝えたいのだが、うまく伝えられないのだ。

 静居は、舞耶の身に何かあったのではないかと悟る。

 ついに、葵は、泣き叫び始めた。

 感情を爆発させて。

 瀬戸は、彼女から目を背けた。



 緊急会議が行われ、犠牲者の数は、まだ、不明とされているが、屋敷の中に隠れていた女房、奉公人が、犠牲になったのだ。

 城家も、一人、犠牲となった事が、報告されている。

 名は、皇城舞耶。

 だが、皇城家以外のものは、憐れむそぶりを見せなかった。

 瀬戸を除いて。

 舞耶の葬儀は、皇城家のみが出席し、しめやかに行われた。



 翌日、葵は、未だ、部屋に閉じこもったきりだ。

 静居は、葵の様子を見に部屋を訪れようとする。 

 だが、その時だ。

 葵の部屋から、千草が、出てきたのは。


「父上、葵は?」


「落ち込んでいるようだ。守れなかったと」


「そうですか」


 葵の様子を千草に尋ねる。

 葵は、ずっと、後悔しているようだ。

 舞耶を守れなかったことを。

 静居も、悔やんでいた。

 もし、自分が、側にいれば、舞耶は死ぬ事はなかったのではないかと。


「見に行ってやってくれないか?」


「はい。失礼します」


 千草は、葵の様子を見に行くように静居に促す。

 静居は、頭を下げ、葵の部屋へと入っていった。

 しかし……。


「舞耶、なぜ……」


 千草は、静かに涙を流した。

 冷静を装っていたが、彼も、悔やんでいるのだ。

 もし、屋敷内にいれば、舞耶を守れたのではないかと。



 静居は、葵の部屋に入る。

 葵は、呆然としていた。

 まるで、生気を失ったかのように。


「葵、大丈夫か?」


「うん……」


 静居は、葵に尋ねる。

 葵は、うなずくが、とても、大丈夫そうには見えない。

 あまり、食事もしていないようだ。

 やせてしまい、目にも熊ができている。

 ずっと、悔やんでいたのであろう。

 そう思うと静居は、心が痛み、葵を抱きしめた。


「すまない。私が、側にいてやれたら」


「ううん、静居が、いてくれたから、皆、助かったんだよ」


 静居は、謝罪する。

 葵の姿を見て、後悔しているのであろう。

 だが、葵は、平然を装い、涙を流しながら、静居のおかげで、助かったのだと告げた。

 感情を押し殺して。


「もう、自分を責めなくていいんだぞ。母上だって、お前には、強く生きてほしいと願っているはずだ」


「うん……ありがとう」


 静居に励まされた葵は、うなずく。

 静居の存在が、葵を支えているのだ。

 葵が、静居を支えているように。

 葵は、強く生きようと決意した。

 こぶしを握りしめて。


――よくも、母様も。許さない。絶対に、許さない!!


 葵は、誓った。

 妖達を殲滅する事を。

 それで、自分が、どんな結末になったとしても。

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