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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十三章 皇城家の双子の兄弟
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第百五十一話 未来を見る神の目

 翌朝、葵は、目覚め、いつものように、静居の元へ向かう。

 だが、部屋に入ると、静居の姿はない。

 珍しい事もある物だ。

 静居は、いつも、葵を待ち、今日の予定を告げるというのに。

 何かあったのではないかと不安に駆られる葵。

 だが、それを悟られないように、奉公人や女房達に尋ね回った。


「え?静居様ですか?」


「うん、見かけてないかなって思って」


「申し訳ございません。今日は、見ていません」


「そう、ありがとう」


 やはり、誰も見かけていないようだ。

 葵は、屋敷内全てを見て周ったが、静居の姿は見つけられず、女房や奉公人達も、どこにいるか知らないという。

 朝早く出かけてしまったの言うのであろうか。


――どこに行ったんだろう。誰にも、行先を告げていないのかな……。


 静居が、誰にも告げずに、出かけるという事は、珍しい。

 今まで、無かった事だ。

 もし、一人で出かけるというのであれば、まず、葵に告げ、両親や奉公人や女房に告げるはずだ。

 静居は、皇城家の次期当主なのだから、危険な目に合うかもしれない。

 ゆえに、何かあった時の為に、必ず、告げるよう父親・千草から、言いつけられていたのだ。

 静居の身に何かあったのだろうか。

 葵は、不安に駆られ、屋敷を出ようとする。

 その時であった。


「葵」


「母様……」


「どこへ行くの?」


 静居と葵の母親、皇城舞耶(こうじょうまや)が、葵に声をかける。

 屋敷から出ようとする葵を見て、不安に駆られたのだろうか。 

 心配そうな表情で葵に問いかけた。


「外です。静居の姿が見当たらないので」


「葵にも告げていないの?」


「はい」


 葵は、偽ることなく、正直に答える。

 舞耶は、驚いた様子を見せた。

 やはり、珍しいことなのだろう。

 静居が、誰にも告げずに、屋敷を出たというのは。


「どうしたのかしらね……」


「……わかりません。ですが、静居は、見つけます」


「お願いね」


「はい」


 舞耶は、ますます、不安に駆られてしまったようだ。

 当然であろう。

 静居が、どこへ行ってしまったのかは、誰にも、わからない。 

 葵でさえもだ。

 だが、葵は、静居を見つけてくると約束する。

 そうすることで、少しでも、舞耶の不安を取り除こうとしているようだ。

 葵の言葉を聞いた舞耶は、不安が取り除かれたのか、少し、落ち着きを取り戻した。


「気をつけていってくるのよ」


「はい。行ってきます」


 舞耶に分かれを告げ、屋敷を出た葵は、皇城家の敷地外から出た。

 舞耶の前では、冷静さを保っていたのだが、それも、感情を押し殺してだ。

 葵は、不安に駆られていた。

 静居の身に何かあったらどうしたらいいのかと。

 葵は、慌ててだし、走り始めた。

 その時であった。


「葵」


「せ、瀬戸……」


 瀬戸の声が聞こえ、葵は、振り向く。

 すると、瀬戸が、慌てた様子で、葵の元へ駆け付けた。

 追いかけてきてくれたのだろうか。


「どうした?そんなに慌てて」


「静居が、いなくなったんだよ。だから、探しに行こうと思って」


 どうやら、瀬戸は、慌てて敷地外へと飛びだした葵を見て、慌てて駆け付けてくれたらしい。

 何かあったのではないかと悟ったのだろう。

 葵は、心を落ち着かせるように、息を吐いて、答える。

 静居が、いなくなったと。


「そうか、私も、手伝おう」


「いや、貴方の手を煩わせるわけにはいかないよ」


「しかし……」


 瀬戸は、静居を探す事を手伝うと言ってくれた。

 なんて、優しい人だろうか。

 城家の中では、珍しいと言っても過言ではない。

 城家のほとんどが、皇城家を軽蔑してきたのだから。

 瀬戸は、葵の事を一族として、認めてくれているような気がした。

 だが、瀬戸の手を煩わせるわけにはいかない。

 もし、この事が鳳城家に知られたら、瀬戸も、咎められてしまうであろう。

 そう思うと、瀬戸に手伝わせるわけにもいかず、葵は、断った。

 だが、瀬戸は、心配してくれているようだ。

 しかし……。


「瀬戸!」


「父上……」


 鳳城家の当主であり、瀬戸の父親が、怒鳴り声を上げて瀬戸の名を呼ぶ。

 葵は、一瞬、びくっと体が跳ね上がった。

 何も悪いことをしているわけではない。

 だが、罪悪感に苛まれそうになったのだ。 

 瀬戸は、冷静さを保ちながら、振り向いた。

 瀬戸の父親は、冷酷なまなざしで、葵と瀬戸をにらみつけていた。


「何をしている?」


「静居殿が見当たらないそうなので、葵殿と一緒に探しに行こうかと」


 父親は、瀬戸を問いただす。

 鳳城家の次期当主であろう者が、皇城家の人間と関わっているというのが、気に入らないのであろう。

 葵は、瀬戸が、どう答えるのか、気になった。

 正直に答えるのだろうか。

 そうなったら、どうなるかは、目に見えていた。

 だが、瀬戸は、冷静に正直に答えた。

 静居がいなくなったため、葵と共に探しに行くと堂々と宣言して。


「皇城のものなど、どうでもいいだろう。ましてや、あの気味悪い若造など、放っておけばいい」


「父上!!」


 父親は、怒鳴る事も、咎める事もしなかったが、静居の事を罵ったのだ。

 兄弟である葵の前で。

 葵の心は傷つき、うつむいてしまう。

 そんな葵を見た瀬戸は、怒りを露わにした。

 許せるはずがないのだ。

 同じ一族だというのに、なぜ、そのようなことが言えるのか、理解できずに。


「なんだ?違うのか?誰もいないのに、誰かと話しているらしいじゃないか。神と話しているとでもいいたいのだろう?神などいないというのに」


「……」


 父親は、さらに、静居を侮辱する。

 確かに、静居は、誰もいないのに、誰かと話しているかのように呟いている。

 だが、葵は、神と対話をしているのだと、信じていた。

 傍から見れば、神などいない。

 幻聴だと言いたいのであろう。

 瀬戸は、何も言えなかった。

 彼も、神などいないと、思っているようだ。

 葵は、絶句し、言葉が出てこなかった。


「行くぞ、瀬戸」


「お、お待ちください、父上!!」


「行ってください。瀬戸」


「葵……」


 父親は、瀬戸を連れていこうとした。

 それでも、反発する瀬戸。

 だが、葵は、耐え切れなくなり、瀬戸に行くよう告げた。 

 それも、悲しそうに。


「もう、私達に、関わらないほうがいいです」


「……ごめん」


「ふん、わかればよい」


 葵は、自分達と今後関わらないほうがいいと告げる。

 瀬戸は、謝罪し、葵に背を向けた。

 自分の言動が葵を傷つけてしまったのだと、悟って。

 二人のやり取りを見ていた瀬戸の父親は、平然としながら、歩き始める。

 瀬戸は、葵から遠ざかるように歩き始めた。

 一人、取り残された葵は、こぶしを握りしめた。


「私に、力があれば……」


 葵は、常に思っていた。

 もし、自分にも力があれば、静居を侮辱されずに済んだのにと。

 悔しくて、悔しくてたまらない。

 怒りでどうにかなりそうだ。

 その時であった。


「っ!!」


 葵は、突然、ふらついてしまう。

 すると、ある場面が頭の中をよぎった。

 それは、獄央山から大量の妖達が、発生し、瞬く間に、屋敷に侵入し、城家の者、女房や奉公人が無残にも殺される姿であった。


「い、今のは……」


 葵は、荒い息を繰り返しながらも、心を落ち着かせる。 

 先ほどのは、未来で起こる事だと察した。

 葵は、未来を見る力がその身に宿っていたのだ。

 皇城家の人間は、「神の目」と呼んでいる。

 だが、葵は、その力が嫌いだった。

 なぜなら、静居を支える力ではないから。

 今日までは。

 葵は、恐怖をぬぐうように、頭を振り、獄央山を見る。

 獄央山から、妖は、出現していない。

 だが、遠い先の未来ではない。

 すぐ起こる事ではないかと、葵は不安に駆られた。


「葵!!」


「せ、瀬戸。なぜ……」


 瀬戸は、葵の元へ駆け付ける。

 それも、息を切らして。

 なぜ、瀬戸が自分の元へ戻ってきたのか、理解できない。 

 葵は、戸惑いながらも、瀬戸に問いかけた。


「君が、心配で来たんだ。やっぱり、探しに行こう」


 瀬戸は、葵が心配で駆け付けに来てくれたようだ。

 しかも、父親を振り切ったのだろう。

 どこまでも、自分の事を気にかけてくれる。

 葵にとっては、うれしい事だ。 

 だが、そうも言っていられなかった。


「駄目だ」


「え?」


 葵は、首を横に振り、瀬戸は、戸惑ってしまった。

 断られたと勘違いしているのであろう。

 だが、そうではない。

 葵は、不安に駆られた様子で、瀬戸を見た。


「瀬戸、ここから、逃げた方がいい」


「え?何?どうしたの?」


 葵は、瀬戸に逃げるよう告げる。

 妖達がここへ到達する前に、瀬戸達を逃がさなければならない。

 そう、判断したのであろう。

 だが、瀬戸は、何があったのか、わからないため、困惑している。

 葵は、神の目の事を瀬戸に告げるべきか迷っていた。

 また、軽蔑されるかもしれない。

 信じてもらえないかもしれない。

 どうすればいいのか、葵は、葛藤していたが、心を落ち着かせるために、息を吐く。

 決意したのだ。

 瀬戸に、全て、話すと。

 瀬戸を守るために。


「お、落ち着いて、聞いてほしいんだ。実は……」


 葵は、瀬戸に説明する。

 大量の妖達が、現れ、屋敷へ侵入し、人々を殺すと。

 しかし……。


「いやあああああああっ!!」


「っ!!」


 女性の叫び声が聞こえる。

 葵と瀬戸は、振り返ると、目を見開き、体を震わせていた。

 なんと、大量の妖達が、獄央山から出現したのだ。

 葵が見た未来が、現実となってしまった瞬間であった。


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