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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十二章 真実を求めて
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第百四十七話 共鳴

「綾姫様!!」


「うそ!!」


 綾姫が柚月をかばい、重傷を負ってしまうの所を夏乃は、目にしてしまい、顔が青ざめる。

 初瀬姫も、体を震わせ始めた。

 綾姫が倒れてしまい、動揺しているのであろう。

 誰もが予想できない事態が起こってしまったのだ。


――瑠璃!!


「うん!!」


 瑠璃は、綾姫の元へと駆け付ける。

 綾姫を助けるためにだ。

 瑠璃は、すぐさま、爪で腕を斬り、血を流して、美鬼桜血酒を発動する。

 綾姫の治療に取り掛かったのだ。

 初瀬姫、要も、慌てて綾姫の元へ駆け寄り、治療を開始した。


「綾、しっかりしろ!!綾!!」


 柚月は、綾姫に呼びかける。 

 だが、綾姫は、目を開けようとしない。

 意識を取り戻さないのだ。

 不安に駆られる柚月達。

 このまま、綾姫が、命を落としてしまうのではないかと。


『綾姫が……』


 泉那も、治療に取り掛かるが、愕然としている。

 泉那にとって綾姫は、家族も同然なのだ。

 自分が、幻帥にほんろうされてしまったがために、綾姫が重傷を負ってしまった。

 責任を感じているのであろう。

 柚月も、自分のふがいなさを感じ、こぶしを握りしめた。

 守りたかったはずの人間を守りきれず、危険な目に合わせてしまったのだから。

 その時であった。


『ふふふ、ははははは!!』


 幻帥の高笑いが、響き渡る。

 まるで、柚月達をあざ笑っているかのようだ。

 柚月達は、一斉に、幻帥へと視線を向け、にらみつける。

 神経を逆なでされたかのように。


『殺してやったぞ!!しかも、千城家の姫君を!!これで、我が主は、ほめたたえてくれるはずだ!!』


 幻帥は、綾姫を殺したと思い込んでいるようだ。 

 衝撃波をもろに受けてしまった。

 助かる見込みなどない。

 もし、綾姫が死んだとなれば、夜深は、自分をほめたたえてくれる。

 それどころか、力を分け与えてくれるかもしれない。

 そう思っているのであろう。


「貴様!!」


「許さないのだ!!」


 柚月と光焔は、怒りを露わにする。

 大事な仲間を、愛しい人を傷つけたのだ。

 許せるはずもないだろう。

 その時であった。

 柚月の聖印が光り始め、それに呼応するかのように、光焔も光を発動したのは。

 それも、無意識に。


『な、に!?』


 柚月と光焔が光を発動したことにより、幻帥は、驚愕している。

 予想外のようだ。

 さすがの幻帥も、動揺を隠せない。

 まるで、二人は、共鳴しているかのようだ。

 二人は、光に包まれ始めた。


「兄さんと光焔が、共鳴してる!?」


――おい、どうなってやがるんだ!!


――このままだと、まずいんじゃないか!?


「二人を止めよう!」


 朧は、二人が、共鳴していると感じた。

 だが、九十九は、状況を把握できないようで戸惑っているようだ。

 このままだと、どうなってしまうのかと。

 千里は、危機感を感じているらしい。

 柚月達を止めなければならないのではないかと。

 朧も、同じことを考えていたようで、聖印が暴走してしまうと恐れ、柚月達の元へ急ぐ。

 だが、光に遮られ、進むことが不可能となってしまった。


「駄目だ!!これじゃあ、近づけない!!」


「柚月殿の聖印が、暴走してしまうでござるよ!!」


 透馬も要も、焦燥に駆られる。

 このまま、柚月の聖印は、暴走し、柚月も光焔も、聖印に飲みこまれて、命を落としてしまうのではないかと、危険を察知して。

 だが、彼らの元へ行くことができない。

 どうすればいいのか、彼らは、困惑していた。

 しかし……。


――違うみたいっすよ!!


「え?なんでだい!?」


 真登は、気付いたようだ。

 柚月の聖印は、暴走していないと。

 だが、和泉は、理解できない。

 あれは、暴走ではないというのであれば、一体、何だというのか……。

 正体がつかめず、動揺していた。


――あれは、暴走ではなく、共鳴です。まさかとは、思いますが……。


 美鬼も、暴走ではなく、共鳴していると判断する。

 予期しているのだ。

 柚月は、光焔を取り込むのではないかと。 

 無意識ではある。

 だが、どちらも、制御しているように思える。

 つまり、一段と強化された状態になるのではないかと推測しているようだ。

 美鬼の読み通り、光焔は、みるみるうちに柚月の中へと吸い込まれていった。


「また、光焔が、吸い込まれるって言うんですかい!?」


――あの時と同じになるってことかよ!


 九十九と高清は、また、柚月が光焔を取り込んでいるように見えた。

 だが、光焔は、抵抗しようとしない。

 まるで、吸い込まれることを承諾しているようだ。

 光焔が、完全に吸い込まれた時、柚月は、光を纏い、その光は、輝き、天へと昇っていった。

 朧達は、目を開けることもできない。

 それほど、まばゆかったのだ。

 それは、幻帥も同様であった。

 朧達は、恐る恐る目を開ける。 

 すると、柚月は、光焔を取り込んだ状態で、姿を現した。

 戦魔との対戦時と同様に。

 柚月の姿を目にした朧達は、驚愕していた。


『な、なんですか!?その姿は!!この力は、まるで……神じゃありませんか!!』


 幻帥も、動揺している。

 戦魔の時と同じ現象を目にしたからであろう。

 このままでは、消滅してしまう。

 危機を感じた幻帥は、撤退しようと試みた。

 だが、柚月は、それを逃すはずもなく、すぐさま、幻帥の元へと間合いを詰め、幻帥を弾き飛ばす。

 幻帥は、壁に激突し、体勢を整えるが、柚月は、神の光を発動し、幻帥は、錫杖で切り裂こうとしたが、切り裂くこともできず、防ぐしかなった。


『防ぎきれない!!』


 圧倒的な力の前に、追い込まれる幻帥。

 柚月は、神の光を発動し続け、ついに、神の光は、幻帥を覆い尽くした。


『ぎゃあああああっ!!!』

 

 幻帥は、絶叫を上げ、消滅した。

 ついに、幻帥も、討伐したのだ。

 柚月と光焔の力によって。


『幻帥が、滅んだ……』


 幻帥が、神の光によって消滅したのを目の当たりにした泉那は、戸惑いを隠せない。

 それは、幻帥が消滅したことではなく、柚月と光焔が、聖印に乗っ取られることなく、制御し、共鳴したことだ。

 まるで、心を通わせるように。

 光焔は、無意識のうちに柚月の体から出てくる。

 体に負担がかかったためか、柚月は、ふらつき、前のめりになって倒れかけた。


「っ!!」


「兄さん!!」


「光焔!!」


 朧が、慌てて柚月を支える。

 神刀に変化していた千里も、人型に戻り、光焔を抱きかかえた。

 柚月は、肩で荒い息を繰り返しているが、意識があるようだ。

 光焔も、気を失っているわけではない。

 むしろ、体に負担がかかっていないようだ。 

 聖印に飲みこまれたわけではないからであろう。


「だ、大丈夫だ。それより……」


「うむ。綾姫の所に行かなければ……」


「わかった」


 柚月は、足に力を入れ、立ち上がろうとする。 

 だが、思うように力が入らないようだ。

 それでも、柚月と光焔は、綾姫の元へ行こうとする。

 綾姫の事が心配なのだろう。

 朧は、九十九を憑依したまま柚月を背負い、千里も、光焔を抱きかかえたまま、綾姫の元へと向かった。

 綾姫の元へと到達した柚月は、歩み寄る。

 だが、綾姫は、目を閉じたままであった。


「綾……」


「怪我は、治ったんだ。でも、目を開けてくれないんだよ……」


 景時も、治療を続けていた。

 完治はしたものの、綾姫は、目覚めようとしない。

 未だに眠り続けたままだ。

 幻帥の言う通り、綾姫は、死んでしまったのか。

 自分のせいで。

 柚月は、こぶしを握りしめ、自分を責めた。


「どうしよう、綾姫が……」


「目覚めないんですのよぉ……」


 瑠璃も、初瀬姫も、懸命に治療を続けている。

 だが、怪我が治った以上、どうすれば、綾姫が目覚めるかは、わかっていない。

 二人は、目に涙を浮かべていた。

 綾姫が死んでしまったのではないかと、不安に駆られて。


「綾姫様……どうか、目を開けてください……」


 夏乃は、祈り続けた。

 綾姫が目覚めることを。

 そうでもしないと、今にも、泣き崩れそうになるからだ。

 あきらめたくはない。

 大事な綾姫を失いたくないのだ。

 それは、誰もが思っている事であり、皆が祈っていた。


「綾……俺のせいで……」


 柚月は、体を震わせ、愕然としている。

 綾姫は、自分のせいで、傷つき、倒れてしまったのだと。

 命を落としてしまったかもしれない。

 そう思いたくないが、不安がよぎってしまう。

 柚月は、絶望に陥ろうとしていた。

 しかし……。


『大丈夫よ。綾姫は、生きてるわ』


「え?」


 泉那が、柚月達に希望を与える。

 なんと、綾姫の鼓動を感じ取ったようだ。

 触れたわけではない。

 だが、綾姫の事は、わかるのだろう。

 柚月達は、戸惑いながらも、泉那へと視線を向ける。

 藁にも縋る思いで。


「本当に?」


『ええ』


 瑠璃の問いに、泉那は、うなずく。

 疑っていた柚月達は、本当に、綾姫は生きているのだと確信を得ることができた。

 綾姫は、生きている。

 懸命に、生きようとしているのだ。

 泉那は、透き通った水が入った小瓶を生み出し、柚月に差し出す。

 それは、命の雫と呼ばれるものだ。

 かつて、泉の神が、瀕死した人間に与え、息を吹き返したという伝説がある。

 その伝説は、真実だったようだ。


『柚月、これを綾姫に飲ませてあげて。そうすれば、綾姫は、目覚めるわ』


「……わかった」


 柚月は、命の雫が入った小瓶を泉那から受け取る。 

 それを飲み、綾姫に口移しした。

 どうか、目覚めるようにと願いながら。


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