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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十一章 聖印京奪還作戦
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第百四十話 亡き父親への誓い

 静居が聖印京から撤退した為、解放された。

 朧を守った次那は、妖の樹海へと戻っていった。

 朧と虎徹に別れを告げて。

 静居が撤退したからと言って、聖印京が、元通りになったわけではない。

 皆、混乱しているようだ。

 和ノ国を静居が滅ぼそうとしているのだ。

 無理もないであろう。

 それに、聖印一族にって、受け入れられないことがあった。

 勝吏が、命を落としたのだ。 

 静居との戦いで。

 しめやかに勝吏の葬儀が行われた。

 柚月は、鳳城家の次期当主として、勝吏の長男として、勝吏を埋葬した。

 動じることなく……。

 柚月は、感情を押し殺しているのだと悟った朧達は、心が痛んだ。


 

 次の日の朝、雨が、降っていた。

 土砂降りの雨だ。

 止みそうにない。

 久々に、千城家の屋敷に戻った綾姫は、夏乃、瑠璃、美鬼と共に、食事を終え、外を眺めていた。

 柘榴達、烙印一族の者達も、聖印一族が出迎えてくれることとなった。

 当然であろう。

 彼らは、何も悪いことをしていない。

 静居によって、運命を狂わされたのだから。

 勝吏の死、柚月の出生について、聞かされていた綾姫達は、衝撃を受け、言葉が出ず、沈黙が続いた。

 柚月の事を心配して。

 雨は、まだ、降り続けていた。


「綾姫様、大丈夫ですか?」


「ええ。大丈夫よ。瑠璃は?」


「私も、問題ない。でも……」


 綾姫達を心配する夏乃。

 綾姫と瑠璃は、大丈夫だと言うが、どこか浮かない顔をしている。

 とても、大丈夫そうには見えない。

 無理をしているのが、目に見えて分かる。

 なぜなのかは、夏乃も、美鬼も、悟っていた。


「柚月と朧の事が、心配なのですね」


「うん……」


 綾姫達は、柚月達の事を心配しているのだ。

 彼らは、愛しい父親、勝吏を殺された。

 静居の手によって。

 しかも、柚月は、勝吏と月読の子供ではないと明かされたのだ。

 自分達が想像を絶するほど、辛い思いをしているに違いない。

 そう思うと、綾姫達は、心が痛んだ。

 何もしてあげられない自分達の無力さを悔やみながら。


「雨、止みそうにないわね……」


「はい」


 雨は、未だ、降り続けている。

 まるで、柚月達が、涙を流しているかのようだ。

 当分、晴れそうにない。

 雨は、綾姫達の心を余計に曇らせていた。



 朧も、鳳城家の離れに戻り、部屋にこもっている。

 千里も、光焔も、朧の部屋にいたが、誰一人、話そうとしない。

 沈黙が、続き、雨音だけが、部屋に響いた。


「朧、大丈夫か?」


「うん、俺は、大丈夫。でも、兄さんが……」


 千里は、朧に問いかける。

 朧の事を心配していたのだろう。

 当然だ。

 父親である勝吏が、亡くなってしまったのだ。

 平然としていられるはずがない。

 だが、朧は、大丈夫だと答えた。

 とても、大丈夫そうには見えないが。

 朧は、自分の事よりも、柚月の事が心配なのだろう。


「まさか、俺と同じで、父さん達と血がつながってないなんて……」


 朧も、衝撃を受けたのだろう。

 自分の出生を聞いた時よりも。

 兄の柚月も、自分と同じで、勝吏と月読と血がつながっていなかったのだ。

 しかも、柚月は、誰の子なのか、未だにわからなかった。


「わらわは、柚月の事が心配なのだ。柚月は、大丈夫だと思うか?」


「わからない。現実を受け入れられないかもしれない。俺も、そうだったし……。今回は、父さんが……」


 光焔は、朧に問いかける。

 千里も、光焔も、柚月の事を心配しているのであろう。

 朧は、大丈夫だと、肯定することができなかった。

 なぜなら、自分も、現実を受け入れられなかったからだ。

 話を聞かされたときは、衝撃を受けた事を思い出す。

 誰とも、血のつながりがないと知った時は、現実を受け入れられず、言葉を失った。

 今回は、勝吏が目の前で死んだのだ。

 それも、柚月をかばって。

 柚月は、自分の時以上に、辛い思いをしているのだろう。

 そう思うと、朧は、心が痛んだ。



 柚月は、朧達がいる部屋の隣の部屋にいた。

 彼も、空を見上げている。

 何も、話そうとしない。

 九十九が、柚月を心配そうに見ていた。


「大丈夫か?柚月」


「ああ……と言いたいところだが、今回は……」


「だよな……」


 柚月に問いかける九十九。

 柚月は、うなずきたいところだが、相当、参っているようだ。

 当然だろう。

 真実を聞かされた上に、勝吏が、命を落としたのだから。

 自分をかばったばかりに。


「父上は、なぜ、俺を……助けたんだ……」


「決まってる。家族だからだ。息子を守りたいと思ったんだろ」


「だが、生きててほしかった……」


 柚月は、混乱しているようだ。

 なぜ、勝吏は、柚月を守ったのかさえ、わからないほどに。

 だが、九十九が、優しく、ぶっきらぼうに答えた。

 勝吏の息子だから、守りたかったのだと。

 柚月にとっては、生きててほしかった。

 血のつながりなどなくていいから。

 勝吏の息子として生きたかったのだ。

 だが、もう、勝吏は、いない。

 そう思うと、柚月は、立ち直る事ができなかった。

 その時だ。 


「入るぞ」


 月読の声がして、柚月達は、振り向く。

 すると、月読は、御簾を上げ、柚月達の部屋に入ってきた。


「月読……」


「柚月、九十九、お前達に話したいことがある」


「……はい」


 月読は、柚月達を勝吏の部屋へと連れていった。

 話をする為に。



 柚月達は、勝吏の部屋にたどり着く。

 部屋には、朧、千里、光焔が、待っていた。

 朧達も、呼ばれたらしい。

 柚月、九十九は、着席に、月読は、柚月の前に座った。


「これを、読みなさい」


「これは……」


「勝吏様が、残した手紙だ」


 月読は、柚月に手紙を渡す。

 それは、勝吏が、生前書き留めていたものだ。

 おそらく、その手紙こそが、柚月の出生について記されているのであろう。

 柚月は、手紙を読み始めた。


 柚月へ。

 この手紙を読んでいるという事は、私は、命を落としているのだろうな。柚月、お前に、伝えなければならないことがある。お前は、千年前、我が先祖である鳳城瀬戸(ほうじょうせと)と聖印一族の女性との間に生まれた子なのだ。その女性は、誰なのか、未だにわかっていない。お前は、生まれてすぐ、何者かに命を狙われていたらしく、封印し、時を止めていたそうだ。時が来るまで。この事は、鳳城家と万城家の当主しか知らぬ。だから、月読も、虎徹も、皆、知らなかったんだ。本物の柚月がなくなった時、月読は、衰弱していたんだ。辛かったのだろう。だから、私は、月読を助ける為に、夏乃の父親に頼んで、時の封印を解いたんだ。私と月読の子として育てる為に。この時、月読は、記憶をなくしてしまったんだ。だから、お前を柚月だと思い込んだ。身勝手なことをしてすまなかった。お前の父親、鳳城瀬戸の事だが、瀬戸は、裏切り者であり、歴史から葬られたと語られているが、それは間違いだ。鳳城瀬戸の魂は、和ノ国のどこかで眠っていると聞く。きっと、お前を導いてくれるであろう。柚月、強く生きるのだぞ。お前は、私の誇りだ。その事を忘れるな。今まで、ありがとう。


                           鳳城勝吏

 


「父上……」


 柚月は、勝吏の手紙を握りしめる。

 おそらく、勝吏は、後悔していたのだ。

 月読の為と言えど、柚月の時の封印を解き、熾烈な戦いに身を投じさせてしまった事を。

 それほど、柚月の事を大事にしていたのだ。

 柚月は、それが、痛いほど伝わっていた。


「勝吏様は、私を助ける為に、お前を……」


 月読は、涙を流した。

 彼女は、本当の柚月を失った記憶をなくしている。

 それゆえに、気付けなかった。

 勝吏の苦悩を。

 勝吏にも、柚月にも、申し訳ない事をしてしまったと悔いているのであろう。


「それでも、俺は、うれしかった。父上と母上の子になれて。今でも、そう思っています」


「柚月……」


 柚月は、月読に告げる。

 真実を知った今でも、勝吏と月読の息子として、生きられたのは、うれしいことなのだ。

 二人を咎めるつもりはない。 

 朧や椿、そして、仲間達と過ごせたのは、彼らのおかげだと思っているのだから。


「母上、俺は、静居を倒します。父上の仇を取りたいんです。それに、和ノ国を守りたい」


「俺も、兄さんと共に行きます。絶対に、兄さんを守りますから」


「強くなったな、お前達は」


 柚月は、月読に静居を倒すことを宣言する。

 勝吏の仇を取るために。

 だが、復讐の為ではなく、和ノ国を守るためだ。

 誰もが、願っている事だから。

 朧も、柚月についていくと宣言する。

 柚月を守ると誓って。

 彼らの想いを聞いた月読は、涙を流していた。

 柚月も、朧も、強くなったと感じ取って。


「柚月だけじゃないのだ!!わらわも、柚月達と一緒に行くのだ!!」


「俺も、行くぜ。借りを返さねぇとな」


「俺は、罪を償いたい。だから、共に行く」


 光焔は、柚月達についていくと告げる。

 そして、九十九も、千里も。

 彼らは、柚月達に感謝しているのだ。

 柚月達に会えたことを。

 そして、九十九と千里は、もう一度、生きる機会を柚月達に与えてもらった。

 ゆえに、その借りを返すために、そして、罪を償う為に、柚月達を、和ノ国を、守ると誓ったのだ。


「ありがとう。勝吏様も、きっと、喜んでくれる」


 月読は、涙をぬぐった。

 柚月と朧は、本当に、いい仲間に恵まれたと。

 勝吏の事を思ってくれる者達がいると感じながら。

 勝吏も、どこかで、見守っていてくれる。

 きっと、柚月達の決意を目にし、喜んでいるであろう。

 そんな気がしてならなかった。


「必ず、帰ってくるのだぞ」


「はい」


 月読は、柚月達に、伝えた。

 必ず、帰ってくるようにと。

 柚月達は、うなずいた。


 

 話を終えた柚月達は、外に出て、空を見上げる。

 もう、雨は、すっかり止んでいた。

 澄み切った青空だ。

 美しく思えたのは、初めてかもしれない。

 それほど、澄み渡っているのだ。


「絶対に、静居を倒すぞ」


「うん」


 柚月達は、誓った。 

 必ず、静居を、夜深を倒して、和ノ国を救うと。


――父上、見えててください。俺は、必ず、皆を守りますから。


 柚月は、心の中で、勝吏に告げた。

 強く、強く。

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