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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十一章 聖印京奪還作戦
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第百三十九話 勝吏

「うっ!!ぐぅっ!!」


「父上!!」


「息子をかばったか。愚かだな」


 勝吏は、苦悶の表情を浮かべる。

 柚月は、目を見開いて、驚いていた。

 誰が、予想できたであろうか。

 勝吏が、柚月をかばうなど。

 あの状況で、誰も柚月を助けられなかったというのに。

 勝吏は、口から血を吐く。

 それでも、静居は、容赦なく、勝吏を見下し、刀を引き抜こうとした。

 しかし、勝吏が、静居の腕をつかんだ。


「なっ!!」


 静居は、驚愕し、動揺した。

 強引に、引き離そうとしたが、勝吏は、決して、放さない。

 たとえ、激痛が勝吏を襲ったとしてもだ。


「これで、勝ったと思うなよ?静居!!」


「き、貴様!!」


 勝吏は、笑みを浮かべて、静居に告げる。

 何かをしようとしているかのようだ。

 静居は、悪寒に背筋が走り、引き離そうとするが、勝吏は、放すわけもなく、振り向いて、柚月達の方へと視線を向けた。


「柚月!!今だ!!」


「はい!!」


「柚月!!」


 勝吏が、静居を捕らえた理由は、静居に一矢報いるためだ。

 だが、静居を刺しても、再生してしまう。

 それでも、柚月なら、できるであろうと、勝吏は、信じていた。

 柚月は、草薙の剣を手にする。

 そして、光焔は、草薙の剣にふれ、神の光を発動した。

 神の光が、草薙の剣に流れ込む。 

 神の光で、静居の再生能力を打ち消そうとしているのだろう。

 柚月と光焔は、同時に、畳を蹴り、静居に向かっていった。


「「おおおおおおおおっ!!」


 柚月と光焔は、雄たけびを上げながら、静居に向かっていく。

 それも、光の速さで。

 柚月は、異能・光刀を発動したのだ。

 静居は、勝吏を押しのけ、無理やり、引き抜き、防ぐ。

 勝吏は、仰向けになって倒れ込むが、その間に、柚月と光焔が、静居に突きを放った。


『静居!!』


 夜深が、静居を助けようと術を発動しようとするが、九十九と千里が、夜深に斬りかかる。

 夜深は、二人の刀をはじいたがために、術を発動する事ができなかった。

 静居は、深淵を前に出し、防ぎきろうとする。

 だが、草薙の剣が、深淵とぶつかり合った時、深淵にひびが入り、真っ二つに割れた。

 柚月と光焔は、静居を草薙の剣で貫いた。


「ぐっ!!」


 静居が、苦悶の表情を浮かべる。

 それでも、柚月は、決して、草薙の剣を引き抜こうとしなかった。


「これで、終わりだ!!」


「がはっ!!」


 柚月は、静居を貫いたまま、神威空浄・光刀を発動する。。

 静居の体に激痛が走り、静居は、血を吐いた。

 柚月は、草薙の剣を引き抜き、光焔を守るように、後退する。

 静居は、前のめりになって倒れかかるが、夜深がすぐさま、静居を支えた。


『静居……』


「し、深淵が……」


 夜深は、不安に駆られた様子で、静居を見る。

 静居は、真っ二つに折れた深淵を目にし、手を震わせた。

 深淵が、折れた為、深淵・楽園が、発動できないのだ。

 ゆえに、静居は、再生能力を失った。

 柚月達は、静居に向けて刀を向ける。

 静居達は、今度こそ、追い詰められてしまった。


「て、撤退するぞ!!」


『わかったわ!!』


 追い詰められた静居は、ついに、撤退を決意する。 

 夜深は、静居を抱え、術を空に向けて発動する。

 暴れまわっている千草と村正に撤退を伝えるためであろう。

 術を見た村正は、千草に伝え、千草は、村正を抱えて、聖印京から飛び去った。

 彼らと死闘を繰り広げていた空巴は、息を切らしながら、安堵する。

 人間とは言え、全ての聖印をその身に宿していた千草は、人間とは思えないほどの力であり、驚異的であったからだ。

 夜深は、静居と共に姿を消す。

 これで、聖印京は、解放されたのだ。

 しかし……。


「父上!!」


「父さん!!」


「勝吏様!!」


 柚月達は、勝吏の元へと駆け付ける。

 勝吏は、弱弱しい呼吸を繰り返している。

 すでに、撫子が、神薙の力を発動して、治療に取り掛かっているが、傷口が塞がらず、血が止まらなかった。


「今、助けるのだ!!」


「もう、良い。私は、もうじき死ぬ」


「何をおっしゃっているのですか!!あなたは、死なせません!!」


 光焔も、光を発動し、治療に取り掛かる。

 何度も、神の光を発動し、体はとうに限界を超えている。

 それでも、光焔は、決して、弱音を吐くことなく、勝吏を助けようとしたのだ。

 だが、勝吏は、死を覚悟している。

 月読は、勝吏にあきらめるなと叱咤した。


「違うんだ。あきらめてるわけじゃない。わかるんだ。静居は私に呪いをかけた。死の呪いを……」


「そんな……」


 勝吏が、死を覚悟していたのは、あきらめたからではない。

 感じ取っていたからだ。

 静居が、勝吏を貫いた時、死の呪いをかけた事を。

 ゆえに、勝吏は、静居に一矢報いる為に、力を振り絞って、静居を捕らえたのだ。

 月読は、愕然とし、畳の上に手をつく。

 もう、勝吏は、助からないのだと悟って。

 それでも、光焔と撫子は、治療を続け、牡丹は、祈った。

 勝吏が、助かるようにと。

 

「柚月、朧、月読、お前達に、話したいことがある」


 勝吏は、意識が朦朧としながらも、柚月達に語りかけた。


「お前達を巻き込んですまなかった。椿の事も……」


「俺は、巻き込まれたなんて思っていません!」


「俺もです!!」


 勝吏は、謝罪した。

 後悔しているのであろう。

 息子達を危険な目に合わせた事を。

 そして、椿の運命を狂わせてしまった事を。

 普通の青年として、普通の女性として、過ごさせたかった。

 勝吏は、それを願っていたのだ。

 だが、聖印をその身に宿し、彼らは、戦いに身を投じることになってしまった。

 それも、何度も、傷つきながら。

 柚月も、朧も、巻き込まれたなどと思っていない。

 自分の意思で決めたからだ。


「優しいな。お前達は……」


 勝吏は、柚月達に微笑みかける。

 救われた気がしたからであろう。

 柚月達は、咎めようとはしなかったから。


「柚月、お前に話さなければならないことがある」


「何でしょうか……」


「お前は……私と月読の、本当の子ではないのだよ」


「え?」


「にい、さんが?」


 勝吏は、衝撃的な言葉を柚月に告げる。

 柚月は、勝吏と月読の子ではないのだと。

 つまり、朧と同じように、二人とは血がつながっていないというのだ。

 柚月も、朧も、呆然としてしまった。

 その場にいた九十九達も。


「な、何をおっしゃってるんですか、勝吏様!柚月は、私と勝吏様の子です!!私が、生んだんです!!今でも覚えてます!!」


「そうだぞ。俺も、柚月が生まれたことを知ってる!皆に祝福されただろう!」


 月読は、動揺を隠せず、声を震わせながら、反論する。 

 柚月は、自分と勝吏の子だと。

 月読は、おなかを痛めて、柚月を生んだのだ。 

 その感動は、今でも、覚えている。

 自分の子が、生まれたのだ。

 忘れるはずがない。

 虎徹も、動揺しながらも、反論した。

 柚月は、鳳城家の跡取りとして、聖印一族から、祝福されたのだ。

 それなのに、なぜ、勝吏は、柚月は、自分達の子ではないと告げたのだろうか。

 柚月達には、理解できなかった。


「その通りだ。月読、虎徹。でもな、本物の柚月は、生んだ後すぐになくなったんだよ」


「え?」


 勝吏は、さらなる真実を告げる。

 本物の柚月は、生まれた後に亡くなってしまったと。

 月読は、信じられなかった。 

 柚月が、亡くなったなど、記憶にない。

 柚月は、目の前にいるのだから。 

 柚月達は、言葉を失った。

 状況を把握できずに……。


「月読。私の小包の中に、手紙が入っておる。それを読んでみなさい。全て、わかるはずだ」


 勝吏は、月読に告げた。

 自分の部屋にある小包を開けるようにと。

 その小包の中に、手紙が入っているようだ。

 おそらく、柚月の出生に関することが記されているのであろう。

 月読は、何も言えず、体を震わせた。

 何が、真実なのか、理解できずに……。


「柚月、朧。お前達は、私達と血はつながっていない。だが、それでも、私は、お前達の事を息子だと思っている」


「それは、俺もです」


「そうですよ、父さん」


 勝吏は、声を振り絞るかのように柚月と朧に告げる。

 たとえ、血がつながっていなくとも、息子である事に間違いはないのだと。

 それは、柚月も、朧も、同じだ。

 血はつながっていなくとも、本物の家族になれる。

 勝吏と月読の事を両親だと思っているのだ。

 今も、変わらず……。


「月読……今まで、辛い思いをさせてすまなかったな……」


「そんな、私は……。貴方の妻で、幸せでした。今だって……」


 勝吏は、月読に謝罪した。

 月読に苦労をかけてしまったと思っているのだろう。

 月読は、鳳城家に嫁ぎ、冷たい視線を浴び、陰口まで言われたことがある。

 それでも、月読は、一度も、鳳城家に嫁いだことを後悔していなかった。

 なぜなら、勝吏の妻で射られて幸せだったからだ。

 月読は、その事を涙ながらに勝吏に告げた。


「ありがとう……愛してるぞ……」


 勝吏は、最後に力を振り絞るように柚月達に告げる。

 そして、一筋の涙をこぼして、ゆっくりと、目を閉じた。


「勝吏様?勝吏様!!」


「父上!!」


「父さん!!」


 柚月達は、勝吏に呼びかける。

 だが、勝吏は、目を開けようとしなかった。

 勝吏は、息を引き取ったのだ。

 柚月達は、そう、悟り、愕然とした。


「いやああああああああっ!!!」


 月読は、泣き叫んだ。

 それでも、勝吏が、目を開けることはなかった。


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