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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十一章 聖印京奪還作戦
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第百三十五話 再会を果たした母と娘

 柚月達は、勝吏、虎徹と死闘を繰り広げている。

 柚月の光刀と勝吏の雷刀が何度もぶつかり合った。

 火花を散らして。

 光焔の援護もあって、追い詰められていなかった。


「ほう、少しは、まともに戦えるようになったではないか」


「あの時は、本気を出していませんでしたからね」


「光焔をわざと捕らえさせるためにか?」


「……そうです」


 柚月が、本気を出さなかったのは、相手が、勝吏出会ったからと言う事もあるが、光焔をわざと捕らえさせるために、力を抜いていたのだ。

 それが、自身に傷を負うことになっても。

 だが、今は、聖印を発動させ、勝吏と向き合い、死闘を繰り広げている。

 たとえ、勝吏を傷つけてでも、勝たなければならないと覚悟を決めているからだ。


「ですから、父上、俺は、本気で戦います!」


「来るがいい!!柚月!!本気を見せてみろ!」


 柚月は、ついに、光速移動で間合いを詰める。

 勝吏は、反応できず、柚月は、刀を振るった。

 勝吏の腕は、斬られ、血が流れる。 

 柚月は、本当に、覚悟を決めているようだ。

 勝吏は、そう、感じ取り、柚月に襲い掛かった。



 朧も、虎徹と死闘を繰り広げている。

 虎徹が、異能・重鉄を発動し、全身を鉄と化し、朧に殴りかかるが、朧は、それを回避しながら、虎徹を切り裂こうとする。

 九十九と千里を傷つけないためだ。

 だが、虎徹の皮膚は、固く、はじかれてしまった。


「千里、大丈夫か?」


――……も、問題ない。お前は、大丈夫か?


「うん」


 朧は、千里の身を案じる。

 虎徹の異能・重鉄は、一撃が重い。

 朧は、身をもって体験している。

 神刀に変化した千里でさえも斬れないという事は、相当なのだろう。 

 千里は、大丈夫だと言うが、どこか、苦しそうだ。

 衝撃を受けたからなのかもしれない。

 ここは、千里を元に戻すべきかと迷ったが、虎徹に対抗するには、彼らの力が必要だ。

 ゆえに、朧は、千里を握りしめ、彼らと共に戦うことを改めて決意した。

 しかし……。


――朧!来るぞ!!


 九十九が、気配、いや殺気を感じたのか、朧に告げる。

 すると、虎徹が、朧に向かって、生里を振るい、朧は、とっさに、後退し、それを回避する。

 憑依化のおかげで、免れたのだ。


「よけたか。さすがに、憑依は厄介だなぁ」


「九十九達を憑依させないと、師匠に勝てませんからね」


「そうか」


 虎徹は、ため息交じりに呟く。

 朧の憑依は、虎徹の異能に対抗できる。

 いや、かろうじてと言ったほうがいいかもしれない。

 それほど、虎徹は驚異的だというのだ。

 さすがは、柚月と朧の師だ。

 そんな彼とこのような形で対峙しなければならないのは、非常に、辛く、残念な事だ。

 朧は、改めて、静居に対して、怒りを覚えた。


「だが、残念だが、お前さんは、負けるよ」


 虎徹は、自分が勝利すると確信を得ているらしい。

 今の朧では、自分の異能に通用しないと言いたいのであろうか。

 虎徹は、生里を振るい、朧が、餡枇と千里で対抗する。

 餡枇を前に出して、生里をはじこうとするが、その衝撃は重く、はじかれてしまい、生里が、朧の首を捕らえようとしていた。

 一方、柚月も、光速移動で、勝吏を斬りつけようとするが、なぜか、勝吏は、柚月の光速移動に反応し、防ぎきってしまった。

 おそらく、静居が、力を与えているのであろう。

 勝吏は、柚月の草薙の剣をはじき、雷渦が、柚月の体を捕らえた。


「柚月!朧!」


 光焔が、神の光を発動し、勝吏と虎徹は、目がくらみ、後退した。 

 だが、正気を取り戻した様子はない。

 やはり、今は、神の光も通用しないという事だ。

 それでも、柚月達は、光焔に助けられた。

 光焔が、いなければ、自分達は、命を奪われていたかもしれないのだから。


「すまない」


「助かった」


「う、うむ……」


「やはり、一筋縄ではいかないか……」


「けど、やるしかない。だろ?」


「ああ……」


 光焔に、助けられた柚月と朧。

 だが、これで、わかったことがある。

 自分達の聖印能力は、勝吏と虎徹に通用しない。

 それは、静居が、力を与え、強化しいるからであろう。

 静居は、夜深の力を送っているに違いない。

 ゆえに、勝吏も、虎徹も、危険が及んでいる可能性がある。

 そう思うと、柚月達は、戦い、勝吏と虎徹を取り戻すしかなかった。

 柚月達は、勝吏達に向かっていく。

 勝吏達は、不敵な笑みを浮かべて、柚月達に襲い掛かった。



 撫子と牡丹も、月読、矢代と死闘を繰り広げている。

 ほぼ互角の戦いだ。

 どちらかが、劣勢を強いられているわけではない。

 だが、撫子は、牡丹の事が気がかりなようで、矢代から目をそらしてしまう。

 矢代は、その隙をついて、撫子に襲い掛かるが、撫子は、とっさに、神薙で、防ぎきった。


「ちょっと、よそ見してんじゃないよ。あんたの相手は、あたしだよ」


「わかっております……。ですが……」


 矢代に指摘されてしまう撫子。

 撫子も、わかっていた。

 矢代の相手をしなければならないと。

 だが、妹の牡丹の事が気がかりなのだ。

 牡丹の相手は、月読。 

 椿の育ての母親だ。

 母親同士の対立は、撫子も心を痛ませていたのであった。

 牡丹は、月読と死闘を繰り広げている。

 どちらも、引けを取らない。

 牡丹は、一度、月読から距離をとった。

 月読は、冷酷な瞳で、牡丹をにらんでいた。


「なぁ、月読はん。いつまで、洗脳されてるつもりなんや?」


「静居様の為に、命を捧げてるだけだ。洗脳されてなどいない」


「それを、洗脳されてるって言うんやで?」


 牡丹は、月読にいつまで、操られているつもりだと疑問を投げかけるが、月読は、洗脳されているつもりはないと言い切った。

 牡丹は、反論するが、月読は、黙ったままだ。

 反論するつもりなどないのだろう。

 このやり取りは、不毛だと言いたいのだろうか。


「元に、戻り。あの子が、椿が、悲しんどるで」


「もう、椿はいない。殺されたんだ、妖狐に。お前も、知っているだろう」


「知っとるよ。でも、あんさんは、まだ、知らんのや」


「何がだ?」


 牡丹は、月読に元に戻るよう、説得を試みる。

 椿の為を想って。

 だが、月読は、椿は、殺されたのだから、いないと言いきってしまう。

 彼女は、まだ、知らないのだ。

 椿が、妖に転生した事を。

 ゆえに、牡丹は、まだ、月読は、何も知らないのだと告げ、月読は、眉をひそめて、問いただした。

 苛立ちを隠せないようだ。


「椿に会えるんやで」


「椿に?」


 ついに、牡丹が、明かす。

 椿に会えるのだと。

 月読も戸惑っていたが、矢代も戸惑っているようだ。

 矢代も、椿の相談相手をよくしていた。

 ゆえに、椿に会えると聞き、戸惑いを隠せないのだろう。

矢代も、戸惑う。


「ば、馬鹿な……。椿は、死んだんだ。いや、私が、殺したんだ!!」


「あんさん、ずっと、責めとったんやなぁ……。自分の事……」


 月読は、体を震わせ始める。

 椿が死んだのは、九十九が殺したからだと思っていないからだ。

 椿が、自身の出生に気付いていたと知り、九十九と椿の過去を知り、責め続けていたのだ。

 自分が、椿の運命を狂わせてしまったのだと。

 牡丹は、月読が、自分を責め続けた事を始めて気付いた。


「嘘だ!!嘘だ嘘だ嘘だ!!」


 月読は、半ば泣き叫ぶように、体を震わせる。

 だが、その時だ。

 月読が、感情に任せて、術を発動し、牡丹に襲い掛かろうとしていた。


「あきまへん、牡丹!!」


 術が、牡丹に迫ろうとしている。

 術と言うよりも、鋭利な刃のようだ。

 このままでは、牡丹が切り裂かれてしまう。

 そう思った撫子は、牡丹を助けに行こうとするが、矢代に遮られてしまう。

 術が、牡丹に迫ろうとしていた。

 しかし……。


――やめて!!


「っ!!」


 何者かが、牡丹の前に、術を発動し、月読が発動した術を相殺させた。

 牡丹と月読は、衝撃を受けたかのように、目を見開いていた。

 なんと、彼女達の前に現れたのは、椿であった。


「つ、椿……なぜ……」


――妖に転生したんです。今は、そちらに行けないから、術の力を使って見えるようにしてるだけですけど……。


「なぜ、なぜ、妖に……」


 椿が姿を現したことに戸惑いを隠せない牡丹。

 椿は、姿を見えるように術を発動したのだと答えた。

 一種の幻影術のようなものなのだろう。

 今、彼女は、黄泉の乙女として、生きている。

 ゆえに、樹海からは、出られない。

 もちろん、遠くからでも、術は発動できるらしく、そのおかげで牡丹は、救われたのだ。

 月読は、体を震わせていた。

 なぜ、椿が、妖に転じてしまったのか、理解できないからだ。

 彼女の運命を狂わせてしまったのだと、改めて、思い知らされるほどに……。


――決まってます。会いたかったから。


「え?」


――皆に、もう一度、会いたかったから。だから、妖に転生したんです。


 椿は、妖に転生した本当の理由を明かす。

 もちろん、柚月達を助けたいと思ったのは、嘘ではない。

 だが、本当の理由は、柚月達に会いたかっただけなのだ。

 月読も、牡丹も、戸惑いを隠せない。

 まさか、会いたいからと言う理由で妖に転生したとは、思いもよらなかったのであろう。

 椿は、微笑み、話を続けた。


――お母様、元に戻ってください。私、お母様に戻ってほしいの。大好きなお母様に……。牡丹お母様も、それを願ってる。だから……。


「椿……」


「つく……よみ……」


 椿は、想いを月読と牡丹に告げる。

 月読から、ひどい仕打ちを受けた。

 だが、それでも、母親である事に変わりはない。

 育ての母親だったとしてもだ。

 だからこそ、椿は、月読を心の底から愛していたのだ。

 今なら、そう思える。

 月読は、椿に想いを伝えられ、涙を流した。

 そして、矢代も。

 妹が、自責の念から解放されたと感じ、涙を流したのだ。

 そして、二人は、解放された。

 静居と夜深の呪縛から解き放たれたのだ。

 牡丹も、初めて、「お母様」と呼ばれ、涙を流した。

 これほど、うれしいことはないのであろう。


「二人が、意識を取り戻した……。解放、されたんどすなぁ……」


 撫子も涙を流していた。

 椿の想いが、彼女達に伝わったからなのであろう。

 二人が、解放され、椿は、微笑んでいた。 

 涙を流しながら。


「すまなかった。牡丹」


「ええで。よく、戻ってくれました。あんさんも、矢代はんも」


 月読は、頭を下げる。

 傷つけてしまった事を悔いているようだ。

 自力で、解放されたからなのか、操られていた記憶が残っているのだろう。

 牡丹は、月読を咎めるつもりなどなかった。

 月読も、矢代も、悪くないのだから。

 それどころか、戻ってくれたことを心の底から喜んでいた。


「ありがとう、椿……」


――はい。あの子達をお願いします。


 牡丹は、椿にお礼を言う。

 椿は、うなずき、柚月達の事を託し、消えていった。

 術が解かれたのであろう。

 椿に託された撫子達は、涙をぬぐった。

 今は、泣いている場合ではない。

 聖印京を取り戻さなければならないと感じて。


「行くで。柚月はん達を助ける為に!」


 撫子達も、本堂へと向かった。

 柚月達を助ける為に。 

 そして、聖印京を取り戻すために。


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