第百二十四話 VS戦魔
柚月達は、戦の神・戦魔の元へと向かっている。
瑠璃曰く、今、李桜が、戦魔と死闘を繰り広げているとのことだ。
李桜にとって、戦魔は、因縁の相手、彼女は、彼と対峙しているだろうと踏んでいたが、やはりそうかと、柚月は、納得していた。
光焔が、柚月達に必死についていく。
妖と言えど、少年だ。
柚月達についていくのに、精一杯であろう。
柚月は、光焔の様子を伺い、走りながら、振り返った。
「光焔、大丈夫か?」
「うむ、大丈夫なのだ!!」
柚月は、光焔に、問いかける。
彼の身を案じているのだ。
光焔は、強くうなずく。
柚月達の足手まといになりたくないと強く想いながら。
「柚月、あともう少しなのだな?」
「ああ、もう少しでたどり着くぞ」
光焔は、柚月に尋ねた。
戦魔の所に、もう少しでたどり着くらしい。
ならば、自分は、柚月達についていくだけだ。
そうでなければ、戦魔とは、戦えるはずがない。
光焔は、柚月達と共にかけていく。
その時であった。
「柚月、あれをみるでごぜぇやすよ!!」
高清が、空に向かって指を指しながら、叫ぶ。
柚月は、上を見上げた。
すると、李桜が、戦魔と死闘を繰り広げていたのだ。
だが、李桜は、劣勢を強いられているようだ。
戦魔が、大剣を振り回し、李桜が、それを回避する。
攻撃を仕掛ける事が、できないようだ。
「李桜!!」
「あれは、まずいね……」
柚月、和巳が、李桜の危機を察している。
李桜は、無事なのだろうかと身を案じるほどに。
柚月達は、急いで、李桜の元へと駆けていった。
李桜は、柚月達の読み通り、劣勢を強いられていた。
百花繚乱を発動して、桜の花が渦を巻き、敵を取り囲んで攻撃しようとするも、戦魔は、全て、桜を切り刻んでしまう。
続いて、天花乱墜を発動し、桜の花で突き上げて、たたき落とそうと仕掛けるが、これも、戦魔が、防ぎきってしまう。
戦魔は、文字通り、戦の神。
夜深が、生み出した神々の中でも、戦にたけていると言っても過言ではない。
それゆえに、李桜は、追い詰められていた。
『ケケケ!どうした?どうした?もう、終わりか?』
『いいえ、まだ、です!!』
『へぇ。強がるなぁ』
戦魔が、笑みを浮かべながら、挑発する。
余裕と言わんばかりに。
李桜は、息を切らしながらも、否定する。
まだ、自分は、戦える。
自分に、言い聞かせるかのようだ。
だが、彼女の心情は、戦魔に見抜かれている。
戦魔は、大剣を振り回した。
『なら、これで、どうだ!!』
戦魔は、突きを放つために、李桜に向かって突進する。
李桜は、百花繚乱を発動して、桜の花で、戦魔を取り囲もうとするが、戦魔は、体を切り刻まれても、突進してくる。
もはや、傷さえも、気にも留めていないかのようだ。
戦魔は、李桜に、迫り、李桜は、窮地に陥ろうとしていた。
だが、その時であった。
「やめるのだ!!」
光焔がとっさに、神の光を発動する。
その光は、まっすぐ空へと、戦魔へと向かっていった。
「ちっ!!」
戦魔は、神の光を回避する。
やはり、神と言えど、神の光は、戦魔にとっては、厄介のようだ。
戦魔は、苛立ち、光が放たれた方へと見下ろす。
すると、柚月達が、武器を手にし構えていた。
「今だ!!」
柚月が、草薙の剣を振りおろし、斬撃を飛ばす。
その名は、神威空浄・光刀。
斬撃に、柚月の聖印能力・異能・光刀を纏わせ、放つ技だ。
その光の斬撃は、戦魔を切り裂こうとしたが、戦魔は、大剣を振り回して、強引にかき消すが、傷を負った。
さすが、神刀と言ったところであろう。
神である戦魔に効いているようだ。
『ちっ。人間ごときが!!』
『待ちなさい!!』
戦魔は、怒りを露わにし、すぐさま、柚月達の元へと降下する。
李桜も、柚月達を助ける為に、戦魔の後を追う。
それでも、柚月達は、避けようとはせず、構える。
戦魔と真っ向から勝負するつもりであった。
「美鬼!!」
「承知!!」
瑠璃は、美鬼を憑依させ、美鬼桜乱狩を発動する。
桜の刃を、戦魔へと放つが、戦魔は、大剣を振り回し、全ての桜の刃を切り刻む。
それも、一瞬で。
さすがは、戦の神と言ったところであろう。
美鬼を憑依させた瑠璃でさえも、舌を巻くほどだ。
戦魔は、柚月達へと迫っていく。
柚月は、神威空浄・光刀を放つが、戦魔は、それを回避していく。
戦魔は、もう少しの所で、柚月達の元へと到達しようとしていた。
「いくでごぜぇやすよ!!」
先陣を切ったのは、高清だ。
高清は、誰よりも早く、戦魔に向かっていく。
戦魔は、大剣を振り下ろすが、高清は、身をよじらせて、かろうじて、回避し、地面を力強く蹴り、跳躍する。
高清は、陸虎ノ振を発動して、地面を揺らし、戦魔は、ちょうど、降り立った為、跳躍する事もできず、よろめき、体勢を崩した。
「美鬼、私達も!!」
――はい、行きましょう!!
わずかに隙が生まれたと確信した瑠璃と美鬼は、戦魔の元へ向かっていく。
瑠璃は、もう一度、美鬼桜乱狩を発動するが、戦魔は、すぐさま、体勢を整え、瑠璃の元へ向かっていく。
桜の刃でその身を刻まれても、構うことなく。
戦魔は、一瞬にして、瑠璃の元へ到達し、瑠璃は、距離をとることすらできず、身を硬直させてしまう。
戦魔は、にやりと笑みを浮かべ、大剣を薙ぎ払うかのように、振り回そうとした。
「させないよ!!」
和巳が、瑠璃を助ける為に、聖生・色彩器を発動し、火の剣、水の槍、風の弓で戦魔に攻撃を仕掛け、地の盾で瑠璃を守る。
和巳のおかげで、瑠璃は、戦魔の魔の手から逃れることができ、戦魔と距離をとった。
戦魔は、苛立ちを隠せず、感情任せに、大剣を振るい、和巳が発動した宝器を全て切り裂き、消滅させた。
「ありがとう。和巳」
「いいって。可愛い女の子を守るが、俺の役目だからね」
瑠璃は、和巳にお礼を言う。
和巳のおかげで、重傷を負わずに済んだのだ。
和巳は、お得意の片目を閉じて見せる。
それも、いつもの調子で。
ここに、朧がいたら、間違いなく、咎められていたであろう。
そんなことしている場合ではないと。
どちらかと言うと、瑠璃を誘惑するなと言いたいところではありそうだが。
どちらにせよ、朧がいなくてよかったと内心、思ってしまう瑠璃なのであった。
戦魔は、柚月達に向かっていくが、李桜が、百花繚乱で、応戦し、戦魔の行く手を阻もうとする。
だが、戦魔は、大剣を振り回しながらも、突進していった。
「柚月、来るのだ!!」
「ああ、任せろ!!」
戦魔が迫ってくることに気付いた柚月は、異能・光刀を発動し、光速で、戦魔に向かっていく。
光速移動で戦魔を何度も斬りつけるが、戦魔は、ひるまず、柚月の刀を防ぎ、つばぜり合いを始めた。
『ケケケ!さすがだな。なら、俺様も、やってやるぜ!!』
戦魔は、笑いながら草薙の剣をはじく。
柚月は、光速移動で、突きを放つが、戦魔は、その速さに反応し、防ぐ。
続けざまに、刀を振るう柚月。
だが、柚月の光速移動すらも、凌駕する戦魔。
光焔達は、二人を目で追えず、二人の間に、割り込むことすらできなかった。
――速い!!さすが、神だな……。
光速移動に反応する戦魔に対して、内心、舌を巻く柚月。
異能・光刀なら、戦魔に対抗できるのではないかと、推測していたが、考えが甘かったのではないかと、改めて、思い知らされた。
神ならば、光速移動すら、反応できるのだ。
柚月は、何度も刀をぶつけるが、戦魔の大剣にはじかれ、ついに、よろめいてしまう。
その隙を戦魔が、逃すわけもなく、柚月に斬りかかろうとした。
『柚月!!』
ようやく、二人の速さを目で追えるようになった李桜が、百花繚乱を発動し、戦魔は、とっさに、後退して、回避する。
その間に、瑠璃が、間合いをつめ、美鬼桜乱狩を発動するが、戦魔は、大剣で、全ての桜を切り刻む。
だが、柚月を助ける機会を得ることができた。
光焔達は、戦魔の元へと向かっていった。
「まだまだ、行くよ!!」
「あっしも、助太刀するでごぜぇやす!!」
和巳が、聖生・色彩器を発動し、火の剣、水の槍、風の弓、地の盾を戦魔に向けて、降らせる。
戦魔は、全て、切り裂き、破壊するが、今度は、高清が、陸虎ノ振を発動して、地面を揺らす。
これには、戦魔も、一瞬だけ、よろめいたが、空へ跳躍し、回避する。
だが、光焔が、手を空へ向けている。
神の光を発動しようとしているようだ。
戦魔は、それに、気付くも、時すでに遅し。
「これでも、喰らえなのだああああっ!!」
光焔が、神の光を発動し、光は、空へ向かっていく。
戦魔は、回避する間もなく、神の光を受け、地面にたたきつけられた。
『ぐっ!』
地面にたたきつけられた戦魔は、起き上がるが、よろめいている。
やはり、神の光は、神々に有効のようだ。
それも、夜深が生み出した神々なら、尚更であろう。
これで、戦魔を仕留める機会を得られた。
「柚月、今なのだ!!」
「ああ!!」
柚月は、草薙の剣を握りしめ、異能・光刀を発動する。
光速移動した柚月は、すぐさま、戦魔の元へと間合いを詰めた。
戦魔は、柚月の光速移動に、反応すらできず、柚月は、構えた。
「はああっ!!」
柚月は、神威空浄・光刀を発動。
光の斬撃が、戦魔へと向かっていった。