表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十章 第二次聖妖大戦
121/204

第百二十話 第二次聖妖大戦

 柚月達にとっては、予想外の展開だ。

 まさか、静居が、攻めてくるとは、予想もしなかったであろう。

 本来なら、聖印京から獄央山にたどり着くには、何日もかかるのだが、おそらく、静居は、神々、そして、妖達の力を使って、移動しているはずだ。

 これは、柚月の推測だが、静居は、柚月達が、大戦を仕掛ける事を知り、逆手に取って、大戦を仕掛けようとしているのであろう。

 空巴曰く、死掩達も、千草も、村正も、静居と共に進軍しており、平皇京の隊士達も、進軍しているとのこと。

 このままだと、囲まれてしまう。

 柚月達は、すぐさま、出撃する必要があった。


「ほう、あっちから仕掛けてきやがったか。だが、好都合だな」


 笠斎は、焦燥に駆られた様子は見せず、逆に、好都合だと言ってのける。

 その表情は、余裕と言わんばかりだ。

 笠斎は、どうやって、乗りきるつもりなのであろうか。


「空巴、静居達が、獄央山付近まで来たら、知らせてくれ!こっちも出撃する」


「ちょ、ちょっと待て。そんな事したら、囲まれてしまうぞ!」


 笠斎は、逆に、静居達が獄央山付近まで、迫ってくるまで隊士するようだ。

 柚月は、慌てて、反論する。

 柚月の言う通り、もし、待機などしていたら、すぐにでも、囲まれてしまう。

 そうなれば、追い詰められたも同然だ。

 ここは、すぐにでも出撃する必要がある。 

 柚月は、そう言いたいのであろう。


「だろうな。だがな。問題ねぇんだよ」


「けどな……」


 笠斎は、囲まれたとしても、問題ないと発言する。

 策があるのだろう。

 それでも、柚月は、不安に駆られていた。

 本当に、大丈夫なのかと。 

 だが、その時だ。 

 朧が、柚月の肩に手を置いたのは。

 朧は、笠斎の様子を察したらしい。

 柚月とは違い、落ち着いた表情を見せていた。


「兄さん、笠斎に任せて大丈夫みたいだよ」


「え?」


「皆を見てみなよ」


 朧は、笠斎の案を受け入れていいと発言する。

 朧に促され、柚月は、妖達の表情を伺う。

 皆、不安に駆られた様子はない。

 それどころか、余裕のようだ。

 おそらく、妖達は、笠斎からすでに作戦の事を聞かされているのであろう。

 ゆえに、妖達は、誰も、笠斎に反論しようとしない。

 信じ切っているのだ。

 笠斎の事を。


「わかった。任せるぞ」


「おうよ」


 柚月も、朧達と同様に、笠斎に任せることにした。

 きっと、笠斎なら、命を奪わずとも、大戦を乗り切ってくれると。

 静居が、どのような策を仕掛けたとしてもだ。

 柚月達は、笠斎に従い、神々と戦うのみ。


「頼んだぜ。空巴」


『了解だ』


 笠斎は、改めて、空巴に頼む。

 空巴は、承諾し、一度、会話は途切れた。

 静居の動向を探り始めたのだろう。

 彼らが、獄央山付近まで、たどり着くまで。


「静居が、向かってるってことは、今は、俺達を見抜くことは、できないよな?」


「ええ、そうね」


 柚月は、ある事に気付く。

 それは、静居が、自分達の様子を見られないという事だ。

 進軍しているという事は、見ている暇などない。

 ただただ、獄央山に進むのみであろう。

 ならば、今なら、作戦を立てられるはずだ。

 いや、見抜かれていたとしても、柚月達にとっては、どうってことはなかった。


「よし、なら、誰が、どの班に着くか話そう」


 柚月は、話し始める。

 誰が、どの班に着くか。

 朧達は、静かに、聞いていた。

 柚月の話を聞き終えた朧達は、反論せず、受け入れた。

 いや、むしろ、納得しているようだ。

 さすが、柚月と言う者もいた。

 果たして、柚月は、どのように分けたのであろうか。



 作戦を立てているうちに、空巴から静居が、獄央山まで迫ってきているとの報告を受ける。

 柚月達は笠斎達と共に、深淵の門を潜り抜け、獄央山の前にたどり着いた。

 今回、撫子達は、光城で待機してもらっている。

 理由は、危険だからと言うのもあるが、それでは、撫子達は、納得するはずがない。

 ゆえに、柚月は、撫子達には、もしものことがあれば、自分達をすぐに、光城まで、運んでほしいためと告げたのだ。

 撫子が所持する神薙には治癒能力が備わっている。

 牡丹が所持する日輪に宿っている獅子なら、柚月達を光城へと運んでくれるであろう。

 そう説明すると、撫子達は、納得してくれたようで、承諾してくれた。

 遠くからではあるが、東から聖印隊士、西から平皇京の隊士達が、迫ってきている。

 しかも、聖印隊士は、妖を引き連れているではないか。

 本来なら、窮地に陥っている状態であろう。

 だが、どういうわけか、柚月達は、焦燥に駆られた様子はない。

 なぜなら、笠斎の事を信じているからであった。


「まさか、ここまで迫らせるとはね~」


「本当、かなり、追い詰められた状態ですわね。これ」


 静居達が、迫ってきているのが見えるというのに、景時も、初瀬姫も、不安に駆られた様子を見せていない。

 景時は、いつものように、にこやかな表情を浮かべている。

 初瀬姫は、景時の態度を咎めようともしない。

 あきれてはいるものの。

 切羽詰まった状態ではないという事なのであろう。


「まぁ、策はあるって言うんだから、任せれば?」


「けどさ。どうやって、突破しろって言うんだい」


 和巳は、久々に、お得意の片目を閉じて、語りかける。

 だが、和泉は、ため息交じりに返答した。

 それもそのはず、東から聖印隊士、西から平皇京の隊士達が攻めてきている。

 もはや、取り囲まれたも同然だ。

 しかも、死掩達の姿は見えても、静居達の姿は見当たらない。

 隊士達の背後にいるのであろう。

 高みの見物と言ったところだろうか。

 自分達が、殺されるのを見届けるつもりなのだろう。


「なに、任せろ。心配いらねぇさ」


 笠斎は柚月達の前に出る。

 現状を目の当たりにしても、焦るどころか、笑みを浮かべているようだ。

 この大戦は、自分達が勝利すると確信を得ているのだろうか。


「柚月、わしが合図したら、神々の所へ向かってくれ。わしも、向かう」


「わかった」


 笠斎は、柚月に指示する。

 何やら仕掛けるつもりのようだ。

 もしかしたら、笠斎は、この状況を望んでいたのかもしれない。

 柚月は、うなずき、笠斎に従う事とにした。



 静居は、隊士達を進軍させる。

 神々や妖達の力を借りて、時間をかけずに、すぐに、到達できた。

 柚月達が、深淵の界から出ずに、隊士来ているとは予想外ではあったが、こちらとしては好都合がいい。

 柚月達が、逃げ場を失えば、後は、殺すのみなのだから。


「あらあら、ここまで、来ちゃったわね」


「そうだな。だが、問題ない。あいつらを一気に殺す!」


 夜深は、笑みを浮かべて、静居に語りかけるが、静居は、歯を食いしばり、形相の顔を見せ始めた。

 それも、こぶしを握りしめ、体を震わせながら。

 自分の目的を柚月達に利用され、一矢報われたのが、屈辱的だったのだろう。

 怒りを抑えきれないようだ。


「怖い顔してるわね。よっぽど、悔しかったのね。まぁ、その気持ち、わかるけど」


 静居の様子をうかがっていた夜深は、静居の心情を察する。

 夜深も、あの場にいたからだ。

 黄泉の乙女に真実を明かされ、利用された。

 ゆえに、静居は、黄泉の乙女にとって、一番大事な柚月を殺したい。

 黄泉の乙女を絶望の底に陥れたいと願っているのだと、夜深は、心情を読み取っているのだ。


――あの女、あたしの静居に……。


 黄泉の乙女に憎悪を抱いているのは、静居だけではない。

 夜深もだ。

 夜深にとって、静居は、相棒と言う存在ではない。

 愛情いや、それ以上の感情を抱いている。

 彼を独占したいと願うほどに。

 その静居を黄泉の乙女は、ほんろうした。

 夜深は、許せないのだ。

 全てを奪ってやりたいと思うほどに。


「アイツハ、イルノカ?」


「うーん、どうなんだろうね。ねぇ、静居、いるの?」


 千草は、遠くを見渡そうとしている。

 彼が、探しているのは、柚月であろう。

 葵によく似た男である柚月を。

 村正は、千草の肩に乗って、覗き込むが、人ばかりで見えない。

 静居なら、勘付いているのではないかと予想し、静居に問いかけた。


「……いるみたいですよ。ですが、こちらの指示があるまでは、動かないでください」


「……ワカッタ」


 静居は、柚月がいるとわかっているようだ。

 だが、そうなれば、千草は、すぐさま、柚月の元へ飛びかかり、殺そうとするかもしれない。

 いや、千草は、隊士達を巻き込む可能性がある。

 それでは、せっかくの戦力を削ぎ落してしまう。

 たとえ、捨て駒だったとしても、貴重な戦力だ。

 ゆえに、静居は、千草に、指示があるまで待機するよう命じ、千草は、唸りながらも、承諾した。


『主、いかがいたしましょうか?』


「あなた達も、待機して。空巴達が来たら、彼らの相手でも仕上げなさい」


 幻帥は、夜深に尋ねる。

 夜深は、死掩達を待機させた。

 確かに、柚月達を確実に殺さなければならないが、それは、隊士達がやってくれるだろうと推測している。

 問題なのは、空巴達だ。

 もう、封印はできない。

 ゆえに、厄介だ。

 彼らの相手も死掩達にはしてもらわなければならない為、待機するよう命じた。


『いい、実にいい!封印できぬのなら、殺してしまおうぞ!』


『ケケケ!いいねぇ、その方が、楽しめそうだ!』


 戦魔も、死掩も、笑みを浮かべている。

 空巴達を殺すつもりだ。

 完全に、消滅させれば、もう、自分達を止める事はできない。

 柚月達なら、尚更だ。

 ゆえに、死掩達は、空巴達が、来るのを待つことにした。


「さて、そろそろ、始めるか」


 静居は、前に出る。

 大戦を始める為に。

 夜深達は、不敵な笑みを浮かべていた。


「行くぜ、おめぇら!!」


 笠斎も、前に出る。

 大戦に勝つために。

 自分達の未来を守るために。

 柚月達は、うなずき、構えた。


「かかれ!」


「暴れてこい!!」


 静居と笠斎が、同時に、叫ぶ。

 こうして、第二次聖妖大戦が、幕を開けた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ