第百十九話 真っ向勝負
笠斎は、真っ向から静居に挑もうとしている。
静居も、柚月達の様子を見ているとしたら、彼に対して、宣戦布告をしたと言っても過言ではない。
いや、挑発しているのかもしれない。
「まぁ、言いたいことはわかったとして。それで、命を奪わないように済む方法ってあるの?」
「おう。けど、今は、言えねぇな」
「どうしてで、ござるか?」
綾姫が、疑問を抱いているのは、命を奪わなくて済む方法とは、どのような方法なのかと言う事だ。
大戦を仕掛けるというのに、命を奪わずして、神々に戦いを挑めるはずがない。
確かに、誰も、命を奪わずに済むというのならば、それに越したことはないのだが。
しかし、笠斎は、答えようとはしない。
方法を明かさないつもりだ。
それは、なぜなのか。
要は、笠斎に問いかけた。
「決まってんだろ?静居の野郎が見てるからだよ」
「あ」
柚月達は、声をそろえる。
静居達は、自分達の様子をうかがっているはずだ。
たとえ、深淵の界だったとしても、夜深と力を共有しているのであれば、見えるのであろう。
もし、ここで、方法を明かしてしまえば、静居にも知られてしまう。
そうなれば、静居は、策を講じてくるであろう。
それを懸念して、笠斎は、方法を明かさないのだ。
だとしても、どうやって、柚月達や妖達に作戦を告げるつもりなのだろうか。
「安心しな。わしが、こいつらに、作戦の内容については、教えるつもりだ。念じてな」
「なるほど、それなら、静居にもわかりませんね」
「だろ?」
笠斎は、妖達に念を送る事で作戦を告げるらしい。
確かに、これなら、静居に知られることなく、妖達に作戦を告げることができる。
夏乃は、納得し、笠斎は、自慢げに問いかけた。
よほど、自信があるようだ。
大戦に関しては、笠斎に任せたほうがいい。
柚月は、そう判断した。
「なら、俺達は、どうすればいい?」
「お前達は、空巴達と一緒に、死掩達を討伐してほしい。死掩、戦魔、幻帥の誰かでいいんだ。一柱の神を討伐できれば、夜深の力は、減少できるはずだからな」
柚月は、笠斎に指示を仰ぐ。
笠斎は、柚月達に、夜深から生まれた神々、死掩、戦魔、幻帥の誰か、一柱の神を討伐するようにと指示した。
夜深は、創造主の力を死掩達にも分け与えている。
その理由は、彼らを強化するためだ。
夜深は、死掩達が、消滅するわけがないと思っているはず。
ゆえに、彼らの消滅は、夜深から創造主の力を奪還することにつながるのだろう。
「で、でも、静居達の相手は、どうするつもりですか?」
「そうっすよ、千草と村正もいるっすよ!!」
確かに、死掩達が消滅すれば、静居の企みを止めることにもなる。
神々は、厄介な相手だが、空巴達がいれば、心強いであろう。
だが、問題は、静居達の事だ。
大戦に出向くというのであれば、静居、夜深、そして、千草と村正も、大戦に参加するであろう。
彼らを止めなければ、必ずや、柚月達を殺しに来るはずだ。
時雨も、真登も、不安に駆られた様子で、笠斎に尋ねた。
「それなら、心配はいらねぇぞ。わしが、相手になってやらぁ」
「りゅ、笠斎一人で?」
「おうよ」
「それは、無茶なのだ!!そんな事したら、笠斎は……」
笠斎は、一人で静居達に挑むというのだ。
たった一人で。
なんとも、無謀な策であろうか。
いくらなんでも、危険すぎる。
笠斎が強いと言えど、彼らを相手にするのは、自殺行為だ。
光焔は、声を荒げ、笠斎に反論する。
柚月達も、こればかりは、賛同できなかった。
笠斎の命が危うくなる事は、目に見えて分かるからだ。
「そう思うんなら、神々を倒せ。倒して、お前の神の光で、助けてやれ」
笠斎は、光焔に命じた。
自分を失わせたくなければ、神々を倒せと。
つまり、早期決着を望んでいるという事だ。
そして、夜深の力が弱まったところで、光焔が神の光を放つ。
そうすれば、人々と妖を解放することができるというのだ。
「無茶苦茶ね。でも、貴方に従うしかなさそうね」
「だろ?」
綾姫は、あきれた様子で、ため息をつく。
だが、ほかに方法がないのも確かだ。
と言う事は、笠斎の策に乗るしかない。
柚月達も、反論することができない。
一刻の猶予もないからだ。
満月の日は近づいている。
その前に、赤い月を浄化しなければならない。
つまりは、静居達を止めなければならないのだ。
柚月達は、笠斎に従うほかなかった。
「何、心配するな。策は講じてある」
「……わかった」
笠斎曰く、静居達に命を奪われぬよう策は講じてあるらしい。
どのような策なのかは、教えられなかった。
これも、静居に見抜かれることを懸念しての事だろう。
正直、笠斎が、本当に、策を講じているかは、不明だ。
だが、ここは、笠斎を信じるしかない。
柚月は、笠斎の作戦に乗る事を決意した。
自分達も、覚悟を決めて。
「俺達は、三つの班に分かれて戦おう」
「うむ」
柚月達は、神々と戦う為の作戦を練り始めた。
ここは、三つの班に分かれて、神々と戦ったほうがよさそうだ。
空巴達もいる。
彼らと連携を組み、死掩達との戦いに臨んだほうがいいだろう。
朧達も、賛同しており、異論は、なかった。
「だったら、妖を憑依できる私と柘榴、朧は、分かれたほうがいい」
「確かにそうですね。憑依化なら、少しでも神々に対抗できるはずです」
瑠璃が、自分と柘榴、そして、朧はわかれて戦ったほうがいいと提案する。
彼らは、妖を憑依できる。
ゆえに、身体能力は向上するため、少しでも、神々に対抗できるであろう。
美鬼も、瑠璃の意見に賛同している。
戦力を均等に分けることもできるであろう。
「なら、わしらも、分かれたほうがいいのう」
「そうでごぜぇやすな」
春日と要も、自分達は分かれたほうがいいと提案する。
高清、春日、要は、妖人だ。
妖と融合した存在。
それゆえに、身体能力は、憑依化と互角だ。
それに加えて、人工的に二重刻印をその身に宿している。
妖にも、変化することができる。
神々に対抗できるであろう。
柚月は、二人の意見に賛同した。
「回復術が発動できる私達も、分かれたほうがいいわね」
「そうですわね。それに、瑠璃も要さんも、回復術を発動できますから、そちらも、考慮して分けてもらえると助かりますわ」
綾姫と初瀬姫は、回復術を発動できる者も分けた方がいいと提案する。
長期戦には持ち込むつもりはない。
だが、神々の威力は計り知れない。
一撃が、重く、重傷を負ってしまう可能性もあるだろう。
そのため、回復術を扱えるものが、重要となってくるのは、間違いない。
それに、瑠璃と要も、回復術を身に着けている。
その事も、考慮して、班を分けたほうがいいであろう。
「後は、能力によって分けたほうがいいかもね」
「なら、俺と透馬は、分けたほうがいいかもな」
「確かに、同じ聖印能力なら、分けた方がいいよな!」
続いて意見を出したのは、景時だ。
景時は、同じ聖印能力を持つ者は、分けたほうがいいと提案する。
すると、天城家の聖印能力を持つ透馬と和巳は、別々の班にした方がいいと提案した。
確かに彼らの能力は、似たところがある。
分けた方が、得策だろう。
「後は、宝刀や宝器の属性も考慮したほうがいいかもしれませんね」
「確かにそうだねぇ。神々の属性も考慮しないとねぇ」
さらに、夏乃が、宝刀や宝器の属性も考慮して、分けたほうがいいと提案した。
あの神々は、夜深と同じ無属性だ。
弱点はないが、同じよりも、異なった属性の方がいいだろう。
となれば、神々の属性も考慮しなければならない。
こうなると、三つの班に分けるのは、大変そうだ。
果たして、柚月達は、どのように分けるのであろうか。
「兄さん、どうする?」
「その事なら、問題ない。いい案が浮かんだ」
「はえぇよ!」
朧は、柚月に問いかける。
さすがに、全員で話し合って決めたほうがいいと判断したのだろう。
ところがだ。
柚月は、この短時間でいい案が浮かんだという。
これには、九十九も、驚きを隠せず、思わず、突っ込みを入れてしまった。
これまで、共に戦ってきた仲間だ。
おおよその事は、把握しているが故の事なのであろう。
それにしても、早い。
「さすが、柚月だな」
「うむ!」
笠斎も、光焔も感心している。
ゆえに、柚月に任せることにしたようだ。
さて、彼は、どのように分けるのであろうかと期待している笠斎。
だが、その時であった。
『皆、大変だ!』
「空巴、どうしたのだ?」
空巴が、念じて、声を柚月達に届けた。
もちろん、笠斎達にも。
空巴は、慌てた様子で柚月達に語りかけている。
何か起こったのだろうか。
もしかしたら、光城で待機している撫子達の身に何か起こったのかもしれない。
柚月達は、不安に駆られた。
『静居が、人間と妖達を引き連れて、獄央山に向かおうとしているぞ!』
空巴は、衝撃的な事実を柚月達に告げる。
なんと、静居から動き始めたのだ。
人々や妖を引き連れて、深淵の界へと進軍してきたのであった。