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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第十章 第二次聖妖大戦
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第百十六話 再び、会いに

 神々を復活させ、深淵の鍵を奪還した柚月達は、早朝、深淵の界に向かった。

 目的は、笠斎達に協力を求めるためにだ。

 柚月達は、全ての地を奪還しなければならない。

 だが、戦力が圧倒的に足りないのだ。

 静居は、ほとんどの人間と妖をを掌握しきっていると考えていい。

 ゆえに、柚月達だけでは、奪還は、不可能と言っても過言ではない。

 だが、笠斎達は、操られていないはず。

 なぜなら、深淵の界に閉じ込められているのだから。

 静居が召喚した妖と死闘を繰り広げたであろうが、彼らなら、無事であろう。

 柚月達は、そう信じている。

 そのため、柚月達は、深淵の門がある獄央山にたどり着いていた。

 ちなみに、空巴達は、静居の動向を探っている。

 彼が、卑劣な手を使って、柚月達を殺そうとしているだろうから。


「へぇ、こんなところにあるのか。その深淵の界って言うのは」


「うん。こことは、別世界って感じだったかな」


 和巳は、まじまじと獄央山を見回している。

 まさか、このような所に深淵の門があるとは、思いもよらなかったのであろう。

 もちろん、深淵の界が、どこにあるのかは、わかってなどいなかったが。

 朧は、深淵の界について、単的に説明する。

 深淵の界と、ここは、別世界のように見えるのだと。

 光焔は、深淵の鍵を手にしているのだが、うつむいている。

 まるで、不安に駆られているようだ。


「どうした?光焔」


「うむ、怖いのだ」


「怖い?どうしてですの?」


 透馬や初瀬姫が、光焔に問いかける。

 光焔は、何かを恐れているようだ。

 だが、何に対して、恐れているのかは、不明であった。


「その……笠斎がどうなっているのか……」


 光焔は、口ごもりそうになりながらも、恐れている理由を柚月達に打ち明ける。

 笠斎達のその後を光焔は、知らない。

 いや、予想する事もできないのだ。

 柚月達に襲い掛かったあの妖・牛鬼は、凶暴であった。

 ゆえに、柚月達も、からくも、深淵の界から脱出できたのだ。

 笠斎が、深淵の界に残り、一人、牛鬼と戦ってくれたから。

 もし、笠斎が牛鬼に殺されてしまっていたら。

 光焔は、悪い予感がぬぐえず、不安に駆られているようだ。

 だが、柚月は、光焔の肩に手を置く。

 兄のように。

 光焔は、ゆっくりと、柚月の方へと振り向いた。


「大丈夫だ。笠斎なら、きっとな。俺はそう思う」


「……うむ、柚月の言う通りなのだ」


 柚月は、光焔に語りかける。

 笠斎なら大丈夫であろうと。

 笠斎と対峙した柚月は、わかっているのだろう。

 笠斎の強さを理解しているのだ。

 ゆえに、笠斎が死んでいるとは到底思えない。

 光焔は、こくりとうなずく。

 柚月の言葉を信じることにしたようだ。

 光焔は、しっかりと深淵の鍵を握りしめた。


「皆、行くのだ!」


 光焔は、深淵の鍵を天に掲げる。

 すると、青、白、黒が入りまじった光が出現し、その光は、天へと延びた。

 ついに、深淵の門が開いたのだ。

 柚月達は、深淵の門をくぐり、深淵の界に入り込む。

 初めて入る者達は、戸惑いながらも。



 深淵の界に入った柚月達。

 青と黒が入りまじった洞窟を見回すように眺める者もいる。

 珍しいのであろう。

 この世のものとは思えないほどの美しさに目を奪われそうで。


「ここが、深淵の界、ですか……」


「本当に別世界のようでござるなぁ……」


 夏乃と要は、珍しそうにあたりを見回す。

 先ほどいた獄央山とは、景色がまるで違う。

 本当に、別世界に迷い込んだと錯覚してしまうほどなのだろう。

 柚月達は、歩き始める。

 しかし、妖達の姿は、全く見当たらなかった。


「誰もいないっすね」


「奥にいるのかな~?」


 行けども行けども、妖達は、現れない。

 誰一人、柚月達の前に姿を表わそうとしないのだ。

 ゆえに、景時と真登は、奥にいるのではないかと推測する。

 笠斎も奥にいるのではないかと。


「いえ、気配はします。隠れているのでしょう」


「なんで、隠れる必要があるんだい」


「ちょ、ちょっと、怖いですね……」


 美鬼は、妖達の気配を感じ取ったようだ。

 わずかな妖気と殺気が流れ込んできたのだろう。

 だが、姿を現さないという事は、隠れているようだ。

 和泉も、時雨も、警戒し始める。 

 妖達は、なぜ、隠れているのかと。


「おい、まさか、ここの妖達も……」


 九十九も、妖達の妖気と気配を察していたようで、ある事に気付く。

 すると、突然、妖達が、一斉に、柚月達の前に現れた。 

 しかも、唸り声を上げ、威嚇するように。

 まるで、柚月達を敵とみなしているようだ。


「な、なんじゃ!?」


「何が、起こってるって言うの!?」


 綾姫と春日は、戸惑いを隠せない。

 妖達は、今にも、柚月達に襲い掛かろうとしているようだ。

 柚月達は、とっさに、武器を手に取り、構える。

 そうでなければ、妖達に命を奪われてしまうだろう。

 妖達は、じわじわと柚月達に迫っていく。

 誰もが、唸り声を上げながら。

 前回は、協力してくれたというのに、どうしたのだろうか。


「もしかして、破壊衝動が抑えきれなくなってる?」


「みたいだな」


 瑠璃と千里は、気付いたようだ。 

 九十九と同様に。

 ここの妖達は、赤い月の影響を受けており、破壊衝動を抑えきれなくなり、理性を失ってしまったのだ。

 ゆえに、妖達を説得する事は、不可能に等しい。

 柚月達を信じている深淵の界の妖達でさえも、破壊衝動を抑える事はできないのだから。


「やるしかないか」


「ああ、そのようだな」


 柚月も、朧も腹をくくったようで、構える。

 もはや、戦うしかないのだ。

 妖達を気絶させるか、破壊衝動を抑え込むしかない。

 どちらも、容易ではない事は、わかっている。

 だが、傷つけ、命を奪うよりは、よほどいい。

 柚月達は、一斉に襲い掛かろうとする、妖達に対して、向かっていこうとした。

 だが、その時であった。


「待つのだ!」


 光焔が、柚月達の前に立ち、両手を広げる。

 まるで、妖達を守るように。

 いや、柚月達を止めようとしているのであろう。


「光焔、どうしたでごぜぇやすか?」


「わらわに、任せろなのだ!」


 高清は、戸惑いながらも、光焔に問いかける。

 光焔は、いつもの調子で、自分に任せてほしいと告げた。

 何か、策があるようだ。

 だが、光焔は、何をするつもりなのだろうか。


「ま、任せろって、どうするつもりなのじゃ!?」


「わらわの力を使うのだ!見ておれ!」


 春日は、困惑した様子で光焔に尋ねた。

 見当もつかないのだろう。

 何をしようとしているのか。

 光焔は、自分の力を使うという。

 それは、神の光を使うという事のようだ。

 確かに、神の光は、九十九達の破壊衝動を浄化した。

 だが、深淵の界には、幾百、いや、幾千もの妖達がいると予想している。

 おそらく、それ以上いる可能性もあるだろう。

 神の光は、彼らを一気に浄化できるものなのだろうか。

 そもそも、膨大な力を使って、光焔の体に影響は出ないのだろうか。

 皆が、不安に駆られている中、光焔は、怖気づくことなく、堂々と進み始めた。


「光焔!危険よ!戻ってきて!」


 綾姫は、光焔を引き戻そうとする。

 懸念しているのだろう。 

 光焔に危険が及ぶことを。

 膨大な力を使って無事で済むとは、到底思えない。

 かつて、綾姫も、膨大な力を使って、意識不明となったのだから。

 だが、そんな綾姫を柚月が、肩に手を置いて、制止させた。


「柚月……」


「綾姫、大丈夫だ。光焔を信じよう」


「え、ええ」


 柚月は、綾姫を落ち着かせ、光焔を信じるよう促す。

 信じているようだ。

 光焔なら、大丈夫だと。

 根拠はないだろう。

 だが、今の光焔は、頼もしく見えるのだ。

 綾姫は、戸惑いながらも、うなずくが、やはり、不安そうだ。

 光焔が無事である事をただただ、祈るばかりであった。


「皆、正気に戻るのだあああぁっ!!!」


 光焔は、まばゆい光を、神の光を発動する。

 神の光は、瞬く間に、深淵の界全体に広がっていく。

 光が止み、破壊衝動に駆られていた妖達は、一斉に、正気を取り戻し始めた。

 光焔は、苦悶の表情を浮かべることなく、平然としている。

 どうやら、体に影響は、出なかったようだ。


「お、俺達は……」


「何をしてて……」


 正気を取り戻した妖達は、戸惑い始める。

 何があったのか、わかっていないようだ。

 おそらく、破壊衝動に駆られた時の事は、覚えていないのだろう。

 妖達は、互いの顔を見合わせながら、ざわつき始めた。


「皆、破壊衝動に駆られていたのだ。でも、もう、大丈夫だぞ!」


「どういう事だ?」


 光焔は、妖達に説明する。 

 破壊衝動に駆られていたが、もう、心配ないと。

 だが、なぜ、心配ないと言い切れるのか、妖達には、見当もつかない。

 妖達は、光焔に問いかけた。

 その時であった。


「光焔が、破壊衝動を浄化したんだ。そうだろ?」


「うむ!」


 奥から声が聞こえる。

 懐かしい老人の声だ。

 その老人が、誰なのか、柚月達は、もう、気付いており、光焔は、嬉しそうにうなずいた。

 老人の声が聞こえると、妖達は、一斉に振り向き、一歩下がる。

 まるで、老人の為に道を作るように。

 その老人は、言うまでもなく笠斎だ。

 笠斎は、ゆっくりと、歩き始めた。


「破壊衝動を?そんな事が……」


「できるんだよ。こいつならな」


 妖達は、光焔が破壊衝動を浄化した事が信じられないようだ。

 当然であろう。

 破壊衝動は、妖気の塊だ。

 そう簡単に、それも、一斉に、浄化できる妖は、いない。

 だが、笠斎は、知っているようだ。

 光焔なら、それを可能にできると。


「笠斎!無事だったのだな!!」


「おう、久しぶりだな」


 笠斎の姿を目にした光焔は、うれしそうな表情を浮かべる。

 笠斎は、無事だったようだ。

 光焔は、笠斎と再会を果たした。


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