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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第九章 神々の解放
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第百十三話 誘導作戦

 黄泉の乙女は、柚月達が作戦を静居達に明かしていく。

 真実が、明かされるたびに、静居達は、目を見開き、驚愕し、動揺していた。


「ど、どうやって、深淵の鍵を手に入れたって言うのよ!そんな事、できるわけ……」


 夜深は、声を荒げて、反論する。

 深淵の鍵を奪われた事を、認めたくないのだ。

 いや、できるはずがないと思っているのだろう。

 確かに、光焔は、ただの妖ではない。

 だが、神である自分を欺け、密かに、深淵の鍵を奪取するなどできるはずがない。

 そう思いたい夜深であったが、ふと、ある事を思い出す。

 それは、夜深が、光焔を妖にしようとした時だ。

 光焔は、恐怖で、夜深を突き飛ばした。

 あの時、夜深は、そう、思い込んでいた。


「まさか、あの時?私を突き飛ばした時に?」


 夜深は、気付いてしまう。

 突き飛ばした時に、光焔は、深淵の鍵を手に入れたのだと。

 だが、突き飛ばしただけで、深淵の鍵を手に入れられるとは、到底思えない。

 夜深は、深淵の鍵を手に取っていたわけではない。

 奪われないように、術で隠していたのだから。

 となれば、光焔は、何か、術を発動したと考えた方が正しいだろう。

 光焔は、夜深を突き飛ばした時に、発動したあの光によってなのだろうか。

 夜深は、思考を巡らせた。


「そう、お前に触れて、八尺瓊勾玉で吸収したんだよ」


 黄泉の乙女は、どうやって、光焔が、深淵の鍵を奪取したのか、明かす。

 それも、夜深の事を「お前」と呼んで。

 おそらく、夜深を神とは、認めていないのだろう。

 光焔は、八尺瓊勾玉を使って、深淵の鍵をひそかに奪い返していたのだ。

 光を発動したのも、静居達に真の目的を悟られないようにするためであろう。


「深淵の鍵を手に入れれば、笠斎達に協力を仰げる。光焔は、そう、予想したんだろうね。でも、もちろん、私と柚月は、反対したよ。けど、彼の意思は、変えられなかった。神の光を制御できれば、元に戻れるかもしれないって思ったんだろうね。だから、彼の作戦を受け入れたんだ」


 光焔が、深淵の鍵を奪おうと考えたのは、深淵の界に閉じ込められた笠斎達に、もう一度、会い、協力を仰ごうとしたからだ。

 全ての地を奪還するためには、笠斎達の協力が必ずしも、必要となる。

 だが、柚月と黄泉の乙女は、光焔の提案を受け入れられず、反対した。

 危険だからだ。

 静居が、光焔をさらい、妖にしようとしているのは、光焔を自分達の駒とするためか、あるいは、別の目的があるからであろう。

 ゆえに、柚月と黄泉の乙女は、承諾できなかった。

 それでも、光焔は、自分の意思を曲げようとはしなかった。

 光焔は、神の光の事も聞いている。

 神の光で九十九達を破壊衝動から救った。

 そのため、たとえ、妖になったとしても、破壊衝動に飲まれたとしても、神の光で、浄化できる。

 そう考えたのだろう。

 柚月と黄泉の乙女は、光焔を説得できないと、観念し、対には、受け入れたのであった。


「けど、光焔の作戦だけでは、静居は、光焔をさらいにはこない。だから、柚月は、考えたんだよ。誘導作戦をね」


「誘導作戦だと?」


 黄泉の乙女は、光焔の作戦だけで、動いたわけではないと明かす。

 確かに、光焔の作戦だけでは、静居は、動かない。

 ゆえに、柚月は、誘導作戦を提案したのだ。

 静居は、目を見開き、体を震わせる。

 自分は、誘導されていたという事が腹立たしくて仕方がないのだ。

 神となるはずの自分が、たかが、聖印一族の男に、誘導されたなど、考えただけで、屈辱的なのだろう。

 だが、どのような誘導をしたというのだろうか。

 静居には、見当もつかなかった。


「光城を手薄状態にする事」


「っ!?」


 黄泉の乙女の話を聞いた静居は、絶句する。

 確かに、綾姫達が、光城を降り、神聖山に向かった時、絶好の機会だと思ったからだ。 

 柚月達だけならば、聖印一族を送り込んでも、光焔を奪えると。

 つまり、静居は、自分の企みを利用されていたのだ。


「人数が減れば、お前は、光焔を必ず、さらいに来るのではないかと柚月は、予想した。だから、綾姫達を神聖山に向かわせたんだ。神々を復活させるために」


「だが、なぜ、成功した?あいつらが、神聖山に向かったことは知っている。だから……」


「だから、隊士達を向かわせた。山頂にね。でも、残念だったね。彼女達は、山頂にはいないよ」


「何?」


 静居は、まだ、理解できない事があった。

 それは、綾姫達の事だ。

 綾姫達は、神聖山に向かった。

 それは、静居も、綾姫達が、神々を復活させると、勘付いており、ゆえに、聖印隊士を神聖山の山頂へと向かわせたのだ。

 綾姫達を殺し、柚月達の目的を阻止するために。

 ここで、黄泉の乙女は、衝撃的な言葉を口にする。

 なんと、綾姫達は、山頂にはいなかったのだ。

 静居は、驚き、戸惑いを隠せなかった。


「彼女達は、神聖山の麓で、待機していたんだ。神々を復活させるんだったら、神聖山のどこでもよかったんだよ」


「馬鹿な……」


 静居は、綾姫達が結界術により、姿を消したことも、見抜いていた。

 ゆえに、彼は、隊士達を山頂へ向かわせたのだ。 

 綾姫達は、必ず、山頂で、神々を復活させると。

 だが、実際、綾姫達がいたのは、山頂ではなく、麓だという。

 黄泉の乙女曰く、神々の封印を解くのであれば、神聖山のどこでも良かったのだと。

 神聖山は、神の力が残っていると言われている山だ。

 ゆえに、山頂でなくともよかったのであろう。

 静居は、そうとも知らず、綾姫達は、山頂へ向かっていると思い込んでしまったのだ。


「そして、お前は、まんまと誘導作戦に引っかかり、隊士達に光城を襲撃させ、光焔を連れ去った。深淵の鍵を奪われるとも知らないでね」


 静居は、本当に、誘導されていたのだ。

 自分のたくらみを利用されて。

 静居は、言葉を失った。

 まさか、思いもよらなかったのであろう。 

 自分が、利用されるなど。

 怒りで体を震わせる。

 今すぐにでも、柚月達を殺したいと思うほどに。


「でも、予想外だったのは、勝吏達を向かわせたことや、光焔に強い妖気を押し込んだことかな。まぁ、それでも、柚月達は、あきらめなかったみたいだけどね。私も、協力すると誓ったし」


 確かに、誘導作戦は、うまくいった。

 だが、予想外の事もあったようだ。

 それは、光焔をさらう為に、襲撃したのは、勝吏達であった事、そして、光焔を「真の妖」にする為に、夜深が強い妖気を光焔に、押し込んだことだ。

 だが、それでも、柚月達が、あきらめることはなかった。

 黄泉の乙女も、もし、光焔が元に戻れそうになくとも、柚月の体を借りて、光焔に呼びかけようと考えていたようだ。


「お、おかしい!そんな事はあり得ない!!」


「どうして、そう思うのかな?」


 静居は、黄泉の乙女の話を受け入れられず、否定する。

 いや、拒絶している言っても過言ではない。

 未だに、信じられないようだ。

 そんな静居に対して、黄泉の乙女は、平然とした様子で、問いかける。

 なぜ、受け入れられないのかを。


「あ奴らは、そのような作戦を立てては、いなかったはずだ!私は、この目でしかと見ていたのだぞ!!」


 静居が、黄泉の乙女の話を受け入れられなかった理由は、柚月達が、作戦を立てているところを見たからだ。

 夜深も、同様に。

 確かに、柚月は、綾姫達に、神聖山に向かうよう指示した。

 光城が手薄状態になる事を懸念して、反論したことも見ている。

 ゆえに、静居は、光焔をさらう絶好の機会だと考えたのだ。

 だが、柚月が、光焔は、狙われている事を逆手に取り、利用しようという作戦を立てている場面を見てはいない。

 いや、そのような作戦を立ててなどいなかったのだ。

 そのため、静居は、話を受け入れられず、拒絶した。


「だろうね。お前が、知らないのは、当然さ」


「何だと?」


 黄泉の乙女は、冷静に答える。

 静居達が、知るはずもないと。

 静居は、眉をひそめ、問いただす。

 気に入らないのだ。

 黄泉の乙女が、自分をあざ笑っているような気がして。


「実際、朧達には、教えていないんだ。光焔が、連れ去られることも、妖にされてしまう事も」


「な、に?」


 なんと、柚月は、朧達に話していないのだ。

 光焔が静居に狙われていると黄泉の乙女から聞いたという事は。

 これには、さすがの静居も、驚きを隠せない。

 知っていたのならば、何かしら作戦を立てているはずだから。

 だが、柚月は、あえて話さなかったことになる。

 静居は、柚月が、何を考えていたのか、真意を読めず、困惑していた。


「当然だよ。お前は、見抜くと思っていたからね。それに、朧達は、反対するだろうし」


 柚月は、朧達に話さなかった理由は、静居に見抜かれてしまう事を警戒しての事だ。

 光焔を守るために、作戦を立てたとしたら、静居は、別の方法で光焔をさらおうとしたであろう。

 それに、わざとさらわせるなどと告げれば、朧達は、間違いなく反対するはずだ。

 光焔を危険な目に、合わせられるはずがない。

 そのため、柚月は、光焔の事は、誰にも告げず、作戦を密かに遂行していた。


「だから、この作戦を全て知っているのは、私と柚月、そして、光焔だけだ」


 黄泉の乙女は、真実を明かした。

 作戦の全てを知っていたのは、柚月、光焔、黄泉の乙女のみだったと。


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