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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第九章 神々の解放
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第百五話 譲れない誰にも

 刀がぶつかり合う音が大広間に響き渡る。

 それも、何度もだ。

 言うまでもなく、柚月達が勝吏達と交戦している。

 どちらも、引けを取ることなく。

 もし、手合わせだったらどんなによかっただろうか。

 だが、今は、手合わせではなく、殺し合いだと言っても過言ではなかった。

 

「見事だ。柚月、こうして、息子と戦わなければならないと思うと、寂しいぞ」


「俺もです。父上」


 柚月は、勝吏と戦いを繰り広げた後、後退し、距離をとる。

 息を切らしながら、額の汗をぬぐう柚月。

 それほど、激しかったのだ。

 当然であろう。

 相手は、勝吏だ。

 鳳城家の当主であり、聖印寮の大将を務めている。

 年を取ったと言えど、実力は、現役からほとんど落ちていない。

 ゆえに、柚月にとっては、一歩でも、気を緩めてしまえば、劣勢に強いられるほどだ。

 それでも、勝吏は、柚月が強くなった事を認めている。

 お互い悲しさを瞳に宿しながら。


「ならば、光焔を渡してもらおう」


「それは、お断りします!」


 勝吏は、あえて、柚月に、光焔を渡すよう命じる。

 もちろん、柚月が、承諾するとは、思っていない。

 挑発するかのようだ。

 柚月は、勝吏の懇願を断り、再び、勝吏の元へ向かっていく。

 だが、勝吏は、雷鳴刃を発動し、柚月を追い詰めようとした。

 その時だ。

 九十九が、強引に柚月の前に立ち、雷の刃を紅椿で、受け止めたのは。

 九十九も、柚月と共に勝吏と交戦していたのだ。

 雷が、九十九を襲い、九十九は、火傷を負う。

 しびれるような痛みと焼け焦げた匂いが、鼻に着くが、九十九は、構わず、勝吏の雷渦を払いのけるように、弾き飛ばした。


「柚月には、てぇ出させねぇぞ。たとえ、お前が相手でもな。勝吏」


「ふん、妖狐が、私に勝てると思うなよ?」


 九十九は、紅椿を肩に担いで、威嚇するように、にらみつける。

 相手が、勝吏であってもだ。

 柚月を守ろうとしているのだろう。

 だが、勝吏は、九十九を「妖狐」と呼ぶ。

 まるで、見下しているかのようだ。

 あの能天気だが、優しかった勝吏の面影は、どこにもない。

 静居によって、奪われてしまったのだ。

 そう思うと、柚月も、九十九も、静居を許せない。

 感情をぶつけるかのように、勝吏に向かっていった。


 朧も、千里と共に師匠である虎徹と対峙している。

 虎徹の放つ一撃は、重い。

 それも、そのはず。

 虎徹は、鉛ノ型を発動しているのだ。

 刀が、鉛とかして、朧と千里に襲い掛かる。

 朧と千里は、何とか食い止めているが、刀が折れてしまいそうだ。

 それほど、生里の衝撃は、重いのだろう。


「こんな形で、師匠と戦うことになるなんて……」


「そうだな。でも、仕方がないんだ。お前さん達が、強情だから」


「そうですね。でも、やっぱり、譲れませんよ!」


 師と弟子が、このような形で、殺し合いをしなければならないと思うと朧は、複雑な感情を抱いているようだ。

 虎徹とつばぜり合いをしながら。

 だが、虎徹は、致し方なしと考えている。

 自分達の命令に背くからだと言いたいのだろう。

 朧も、わかってはいるが、それでも、譲れるわけがない。

 光焔を渡すつもりなど、毛頭ないのだから。

 朧は、このまま、体重を餡枇に預け、強引に、押し切ろうとするが、虎徹は、餡枇をはじき、朧に斬りかかった。

 だが、千里が、強引に、朧と虎徹の間に割って入り、右肩を斬られながらも、突きを放つ。

 虎徹は、とっさに、後退し、朧達と距離をとった。


「千里、大丈夫か!?」


「ああ、問題ない」


 朧は、千里の身を案じるが、千里は、苦悶の表情を浮かべ、左手で右肩を押さえつつも、問題ないとうなずく。

 だが、どう見ても、大丈夫とは言い切れない。

 かすめたとはいえ、衝撃は重かったはずだ。

 肩に激痛が走っている可能性もある。

 それほど、虎徹は、容赦なく、刀を振ったという事なのだろう。

 弟子である朧を殺すつもりなのだ。

 朧は、歯を食いしばり、こぶしを握りしめた。

 彼を操っている静居に対して、怒りを露わにして。


 牡丹は、月読と交戦している。

 どちらも、引けを取らず、ほぼ互角と言ったところであった。


「まったく、こないなことになるなんてなぁ。すまんなぁ、椿……」


 月読と牡丹は、椿に向かって謝罪するように呟く。

 実の母親と育ての母親が対立するところなど、娘の椿が見たらどう思うだろうか。

 もし、このような状態でなければ、勝吏にも月読にも教えてやりたい。

 椿に会えるのだと。

 だが、それすらも、叶わない状態だ。

 悲しみに暮れてしまいそうになる牡丹。

 月読は、隙を逃すことなく、牡丹に襲い掛かる。

 だが、光焔が、光を放ったため、月読は、目がくらみ、ふらついた。


「光焔はん!」


「わらわが、牡丹を守るのだ!絶対に」


「おおきにな」


 光焔も牡丹と共に戦っている。

 たとえ、自分が狙われていたとしても、戦うと決めたのだ。

 逃げて、隠れて、怯える自分ではない。

 自分の身くらい自分で守れるし、柚月達を守る事ができる。

 牡丹にとっては、心強い味方だ。

 それほど、月読は、手ごわい。

 やはり、聖印一族は、敵に回すと恐ろしいのだと改めて、感じ取っていた。



 撫子は、矢代と戦いを繰り広げている。

 だが、一人ではない。

 保稀も一緒だ。

 保稀は、虎徹と対峙するつもりだったのだが、朧が制止した。

 なぜなら、虎徹の能力は、驚異的だからだ。

 華奢な保稀が、一撃を喰らったら、ひとたまりもないであろう。

 何本も骨が折れてしまう。

 ゆえに、朧は、自ら、虎徹と戦うことを決意したのだ。

 虎徹にも、大事な妹を傷つけさせたくなかったがために。

 そのため、保稀は、撫子と共に矢代を止める決意をし、現在、矢代と戦闘を繰り広げていた。

 撫子も、舞を繰り出すが、矢代も驚異的であり、侮れない。

 それもそのはずだ。

 矢代は、鍛冶職人。

 宝刀や宝器を使いこなすことまでできる。

 矢代は、刀、弓矢、槍など、様々な宝器で、撫子をほんろうしていた。

 しかし……。


「帝!」


 保稀が、術で応戦する。

 もちろん、保稀も、宝器である札を手にして戦うことが可能だ。

 しかも、彼女は、陰陽術と札、そして、聖印能力を一度に組み合わせる事が可能であり、矢代と互角に渡り合うことができるのだ。

 保稀のおかげで、撫子は、後退し、矢代と距離をとる。

 保稀も、距離を取り、撫子の元へと駆け付けた。


「保稀!」


「ここは、連携を取りましょう。そうすれば、相手が、矢代でも、押し返せるはずです」


 保稀は、撫子に提案する。

 聖印一族である矢代は強敵だ。

 しかも、ありとあらゆる宝器を所持している。

 ならば、こちらも、連携を取り、矢代を追い詰めるしかない。

 自分と撫子なら、できるはず。

 保稀は、そう確信しているのだろう。


「わかりもうした。たのんますわ」


「はい!」


 撫子と保稀は、矢代に向かっていく。

 矢代は、宝器を取り出し、撫子と保稀に向かって、飛ばした。


 柚月も、九十九も、勝吏と戦いを繰り広げている。

 だが、勝吏の方が、能力が上だ。

 それゆえに、二人は、劣勢を強いられていた。

 いや、本気を出せないのだ。

 完全なる妖狐になった九十九の九尾の炎は、人間にも有効だ。

 だが、勝吏を焼き尽くすわけにはいかない。

 加減も難しく、九十九は、九尾の炎なしで、戦わなければならなかったのだ。

 柚月も、異能・光刀で、早期決着をつけたいところはあるが、勝吏は隙が無い。

 ゆえに、二人は、勝吏に追い詰められていた。


「ちっ!」


 勝吏が、雷鳴刃を発動し、柚月と九十九は、とっさに距離をとる。

 だが、雷は、柚月達を追尾し、柚月の左手は火傷を負った。

 しびれるような痛みが、左手にまとわりついている。

 まだ、右手じゃないだけましだろう。

 右手であれば、草薙の剣は、握る事も難しくなりそうだ。

 柚月は、一瞬、朧達の様子をうかがう。 

 朧達の方も、劣勢を強いられているようだ。

 相手は、虎徹。

 体を鉄と化するその能力は厄介だ。

 一撃を喰らえば、骨を砕かれるほどなのだから。


「九十九、お前は、朧のところに行ってやってくれ!師匠の聖印能力は、分が悪い!」


「けどよ!」


「大丈夫だ。父上は、俺一人で何とかする!」


 柚月は、九十九に、朧の元へ向かうよう懇願する。

 だが、九十九は、柚月の身を案じて、躊躇した。

 確かに、朧達の事も心配だ。

 だが、二人で勝吏を相手にするのにも苦戦しているのに、一人で戦わせたらどうなるか、目に見えて分かっている。

 それでも、柚月は、一人で何とかすると宣言した。

 これも、朧を守るためだ。

 柚月の心情を察した九十九は、こぶしを握りしめながらもうなずいた。

 柚月を信じるしかないのだと。


「わかったよ。死ぬなよ!」


「誰に言ってる」


 九十九は、朧を守るために、朧達の元へ向かった。

 柚月が無事である事を祈りながら。


「ほう、一人で、相手にできると思っているのか?」


「やります。やるしかないんです!」


 勝吏は、柚月に問いかける。

 一人で、なんとかするという言葉が、気に入らなかったからだ。

 何とかできるなど、たやすく言える状況なのかと。

 だが、柚月は、やるしかないと答え、ついに、聖印能力・異能・光刀を発動した。


「異能・光刀か。ならば、私も、本気を出そう」


 柚月が、聖印能力を発動したことで、勝吏も、聖印能力を発動する。

 すると、勝吏の左手から、小さな雷の輪が生まれた。

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