第百二話 反撃作戦、開始
柚月は、全てを語り終えた。
黄泉の乙女から聞かされたことを。
それは、赤い月が、人と妖の負の感情が入りまじった血を吸い取った事により、起きた現象であり、今回、大戦が起こってしまい、命が多く失われたがために、赤い月が続いたという事。
赤い月と満月の日が重なると、天変地異、つまり災厄が起こり、和ノ国は、確実に滅びを迎える。
静居と夜深は、それを狙っており、全てを滅ぼした上で、人と妖を自分をあがめる者として、都合のいいように生まれ変わらせ、自分達は、神となる事を。
全て、聞かされた朧達は、愕然としていた。
あまりにも、衝撃的であり、身勝手すぎて。
「それって、本当なのか?」
「ああ」
九十九は、信じられない様子で柚月に確認するように問いかける。
だが、柚月は、静かに、冷静にうなずいた。
柚月も、最初、聞いた時、信じられずにいたのだが、黄泉の乙女は、間違いないと答えた。
ゆえに、彼女の言っている事は、真なのだと悟った柚月なのであった。
「夜深は、赤い月と満月が重なる日を待っているんだ。そして、災厄を引き起こして、和ノ国を滅ぼす」
「けど、和ノ国を滅ぼしてどうするつもりなんだ?」
柚月は、夜深の狙いを語りだす。
昨夜、夜深が静居に語った通り、赤い月と満月の重なりによって、災厄を引き起こすことを狙っているのだ。
それが、和ノ国を一気に滅ぼすことになるのだから。
なぜ、静居に伝わらず、黄泉の乙女が知っているかは、不明であるが、赤い月と満月の事は、静居も知った可能性もある。
ゆえに、悠長な事はしていられない。
だが、朧には、理解しがたい事があった。
それは、静居と夜深は、和ノ国を滅ぼして、どうするつもりだったのかだ。
ずっと、気になっていた事だ。
なぜ、彼らは、和ノ国を滅ぼそうとしているのか。
誰にも理解できなかった。
「静居は、俺達を自分をあがめる人間や妖として、生まれ変わらせるらしい」
「つまり、自分の理想の世にしようってわけね」
「そうだな」
柚月が、朧の問いに答える。
静居は、自分の思い通りの人間と妖を生み出すつもりなのだ。
それも、夜深の力と合わせてなのだろう。
そうなれば、彼らは、静居と夜深を神としてあがめ、静居も、真の神となれる。
そう、推測しているようだ。
自分の理想郷の為に、愚かな願いを叶えようとしている。
朧達は、静居と夜深に対して、改めて、怒りを覚えた。
「赤い月と満月の日が重なってしまうと、あっしらでも、止められないという事でごぜぇやすな」
「そうなる前に、何とかしないとってわけだな」
高清は、柚月の話を聞いて、理解したことがあるようだ。
さすがは、研究者と言ったところであろう。
もし、災厄が怒れば、その災厄を止める事は、自分達では、不可能だ。
それは、神々でさえもなのだろう。
透馬は、災厄が起こる前に、静居と夜深を止める必要がある。
そう、考えたようだ。
「満月が、いつなのかはわかるのか?」
「確か、一か月後だったはず」
「一か月って、短いっすよ!」
千里は、その満月になる日がいつなのか、尋ね、瑠璃が答える。
次の満月の日は、一か月後。
真登は、あっけにとられ、焦燥に駆られた。
一か月は、すぐ来てしまうからだ。
もう、期間は、残されていない。
静居と夜深を止めるには、あまりにも、短い期間であった。
「その前に、静居を止めればいいだけだ」
「でも、どうするつもりだい?方法はあるとは思えないんだけど」
それでも、柚月は、静居達を止めればいいと宣言する。
彼の表情は、冷静さを保っている。
無謀な事を言っているわけではなさそうだ。
だが、その方法は見つかっていない。
今から、探すわけにもいかない。
その時は、すぐそこまで、迫っているも同然なのだから。
和泉は、不安に駆られた様子で、柚月に問いかけた。
「心配いらない。黄泉の乙女が、教えてくれたんだ」
「どうすればいいのじゃ?」
柚月は、朧達の不安を取り除く。
対策を黄泉の乙女から聞いたようだ。
黄泉の乙女は、どこまで、知っているのだろうか。
いや、どうやって、知ったのだろうか。
聞きたいところではあるが、柚月も、知らないとみて間違いないだろう。
もし、知っているのであれば、黄泉の乙女の正体も知っているはずだから。
ゆえに、春日は、黄泉の乙女については尋ねず、食い止める方法を尋ねた。
「まずは、神々を復活させること、そして、全ての地を奪還しなければならないらしい」
「神々の力で、妖達の破壊衝動を抑えるという事ですね」
「そういう事だ。神々なら、できるであろうと黄泉の乙女は言っていた」
柚月達がしなければならない事は、二つある。
それは、空巴達、神々の復活だ。
かつて、泉那は、封印されていながらも、千城家の姫君に力を送り、聖水の雨を降らせ、妖達を浄化してきた。
もし、空巴達が、復活したのであれば、破壊衝動を抑える事は可能であろう。
たとえ、浄化まではできなくともだ。
夏乃は、そう、推測したようだ。
黄泉の乙女も、同じことを、推測していたらしい。
そして、二つ目は、全ての地の奪還であった。
「全ての地ってことは、人や妖を解放するってことなのかい?」
「ああ」
「なるほど、静居は、人や妖を操る力を持ってる。その気になれば、殺し合いなんて、簡単にできるってことだね」
全ての地の奪還と言う事は、操られている人々を解放するという意味なのではないかと、和巳は、予想し、柚月に尋ね、柚月は静かにうなずいた。
静居は、今も、人や妖をいとも簡単に操っている。
もし、神々を復活させたとしても、静居は、再び、人や妖を争わせ、大戦を起こし、殺し合いをさせることなどたやすいのだ。
景時の考えは正しかったらしく、柚月は、静かにうなずいた。
「後は、静居に対抗するべく、力を得よと言っていた。力を得るには、光の神の力が、必要となるらしい」
「つまり、光の神を復活させなければならないのでござるな」
「そうだ」
この二つを遂行した後は、さらなる力を得なければならないらしい。
柚月達には、圧倒的に力が足りないのだ。
神懸りした静居に対抗するには、同等の力が必要となってくる。
その力を得るには、光の神を復活させなければならないらしい。
「光の神」と言う言葉を聞いた要は、柚月に確かめるように問いかけ、柚月は、うなずいた。
「まずは、全ての地の奪還か、神々の復活のどちらかを遂行させないといけないよね」
「ええ、ですが、どちらも、容易ではなさそうですね……」
柘榴は、どちらかを遂行しなければならないと考えているようだ。
だが、それは、どちらも、容易ではない。
相手は、静居と夜深だ。
一筋縄ではいかないのは、確かであろう。
美鬼も、それを理解しており、難しそうな表情を浮かべていた。
「せ、戦力が圧倒的に足りないですからね……」
「僕達以外、全員、操られてるからね……」
「何かいい案があれば、いいのですけれど。難しいですわね……」
現在、静居は、聖印京の人間だけでなく、全ての人間を掌握しているはずだ。
ゆえに、街に降りることさえ、容易ではなくなってしまった。
いわば、柚月達に、味方がいないも同然なのだ。
時雨も、景時も、そして、初瀬姫も対策が浮かばず、困惑しているようだ。
打つ手なし、と言ったところなのだろう。
しかし……。
「深淵の門だ」
「え?」
「深淵の門をもう一度開けば、笠斎達に会える。笠斎達なら協力してくれるはずなのだ!」
光焔が、提案し始める。
深淵の門を開こうと言っているようだ。
深淵の界には、笠斎達がいる。
以前、笠斎は、静居と手を組み、柚月達と相対していたが、柚月達の説得により、改心し、味方となってくれた。
深淵の界から、逃がしてくれたのも、笠斎達の手助けによるものだ。
静居が、召喚した妖が行く手を阻んだが、笠斎が、単身で交戦し、柚月達は、深淵の界から出れた。
おそらく、笠斎達は生き延びているはずだろう。
光焔は、そう、信じているようだ。
「つまりは、深淵の鍵を手に入れなければならないってことか……」
「けど、深淵の鍵は、夜深が持ってる。奪うのは、難しいと思う」
確かに、光焔の提案なら、全ての地の奪還も、神々の復活もうまくいくであろう。
だが、今、深淵の鍵は、夜深が、所持している。
ゆえに、深淵の鍵を奪還するのは、容易ではない。
朧も、瑠璃も、難しい表情を浮かべていた。
その時であった。
「だったら、神々を復活させればうまくいくかもしれない」
「……何か策があるってわけね」
「ああ」
柚月が、神々を復活させることを遂行しようと提案する。
神々の復活も、容易ではない。
だが、柚月が、後さき考えずに、言っているとは思えない。
何かいい案が思い浮かんでいるのではないかと推測した綾姫は、柚月に問いかけると、柚月は、話し始めた。
それは、朧達にとって、予想外の作戦だった。
「いいな。それなら、うまく行きそうだ」
「あいつらが、驚く顔が目に浮かぶぜ」
予想外ではあったが、柚月の提案した作戦なら、うまくいく。
九十九も、千里も、そう信じているようだ。
いや、誰もが反論することなく、うなずいていた。
「柚月、わらわは、柚月に従うのだ」
「俺達もな」
「ありがとう。皆、やるぞ!」
朧も、光焔も、柚月の作戦を受け入れ、従う事を宣言する。
柚月は、作戦を遂行することを宣言した。
静居と夜深に対抗するために。
こうして、彼らの反撃が始まろうとしていたのであった。