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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 赤い月と災厄
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第百話 月と負の感情を宿した血が混ざり合った時

 夜深は、本堂にある静居の部屋の格子窓から赤い月を見上げている。

 まるで、その赤い月に見入っているようだ。

 血に染まったような深紅の赤い月に。


「ふふ、綺麗な月ね。ずっと、見ていたいわ」


「そうだな、夜深」


 夜深は、ずっと、格子窓から、赤い月を見ていた。

 今日だけではない。

 赤い月が出現した日からだ。

 傍から見れば、おぞましく感じる赤い月だが、夜深にとっては、美しく見えるのだろう。

 まるで、狂気におぼれているようだ。

 静居もまた、笑みを浮かべて、赤い月を見上げている。

 勝ち誇った表情だ。


「ついに、この時が来たのね。千年、待ったかいがあったわ」


 夜深は、千年も待ちわびていたのだ。

 赤い月が出現する時を。

 だが、千年もの間、赤い月は、何度も出現したはずだ。

 確かに、赤い月は、以前とは異なり、毎晩、出現している。


「喜ぶのは、まだ、早いぞ。その時は、まだ、先だ」


「知ってるわ。でも、もう、あの子達は、和ノ国を救うすべを失った。そうでしょ

?」


「その通りだ」


 静居は、まだ、自分達の願望が叶うのは、先だと告げる。

 どうやら、赤い月が、満月の日と重なるのを待っているようだ。

 だが、夜深は、柚月達は、抗うすべを失ったと確信を得ている。

 もちろん、静居も、同じことを考えている。

 柚月達は、自分達に勝つことすらできなかった。

 ゆえに、和ノ国を救うことなどできないのだと。


「だったら、私達の願いも叶ったも同然よ。赤い月の力で、妖達の理性は、失ったわ。今頃、あの子達は、仲間に殺されてるんだから」


「……いや、そうではないらしい」


「え?」


 すべがないのなら、自分達を止める事は不可能であり、願望は、叶えられた。

 夜深は、そう思っているのだろう。

 赤い月が出現する限り、妖達は、破壊衝動に駆られ、理性を失う。

 ゆえに、九十九達は、柚月達を襲っている頃合いだろう。

 九十九達が、いつまでも、破壊衝動に耐えられるはずがない。

 柚月達は、仲間に殺されるのだ。

 そして、九十九達も、自滅する。

 夜深は、そう推測しているらしい。

 だが、静居は、そうは思っていないようだ。

 夜深は、驚愕し、動揺し始めた。


「よく見てみろ」


 静居は、柚月達の動向を探るよう夜深に促す。

 夜深は、困惑したまま、しぶしぶ、目を閉じた。

 すると、目に映ったのは、柚月達の姿だ。

 柚月達は、今も、生きている。 

 それどころか、九十九達は、破壊衝動に駆られていない。

 穏やかな表情で眠りについていた。

 これは、一体どういう事であろうか。

 九十九達は、破壊衝動に駆られていないという事なのであろうか。

 過去を見始める夜深。

 すると、目に映ったのは、光焔が、光を放ち、九十九達の破壊衝動を取り除いた光景であった。

 夜深は、ゆっくりと目を開ける。

 その目は、憎悪を宿していた。


「……本当だわ。あの坊やが、何かしたみたいね」


「そのようだ。だが、柚月も、何か発動したようだ」


「何かって?」


 怒りで気が狂いそうになる夜深。

 柚月達は、まだ、抗おうとしているからだ。

 しかも、またしても、光焔が、柚月達を救った。

 いつも、そうだ。

 大戦の時も、妖達に光城を襲わせた時も、光焔が、光を発動し、柚月達を救っている。

 勝ったと確信を得た直後にだ。

 光焔の存在に対して、忌々しく感じる夜深。

 だが、今回、自分達の邪魔をしたのは、光焔だけではない。

 静居曰く、柚月も、何か、発動したというのだ。

 夜深は、柚月が何をしたのか、問いただす。

 「何か」と発言するという事は、静居にも、不明なのだろうか。


「さあな。私がわかるなら、お前も、既にわかっているはずだ」


「それも、そうね」


 静居は、夜深の問いに答えるが、どうも、わかっていないらしい。

 正体は、不明と言ったところであろう。

 それに、もし、静居がわかっているならば、夜深にもわかるはずだ。

 指摘された夜深は、納得してうなずく。

 だが、不明と言う事は、警戒すべきことなのだろう。

 静居も、夜深も、柚月の謎の力に対して、忌々しく感じ、警戒し始めた。


「でも、残念ね。あの子達は、本当に、貴方の思い通りにはならない」


「まったくな」


 夜深は、妖艶な笑みを浮かべて、静居に語りかける。

 それも、意地が悪そうに。

 まるで、怒りの感情を静かに静居にぶつけているようだ。

 静居も、夜深も、予想外の事ばかりだ。

 柚月達が、抗い、生き延びてきたのだから。

 忌々しく思うほどに。

 静居も、同じ感情を抱いているのだろうか。

 うなずいてはいるが、瞳に憎悪を宿しているかのようだ。

 いらだっているのかもしれない。

 自分の思い通りにならないのだから。


「殺しておけばよかった?」


「いや、ますます、興味深い」


「貴方なら、そう言うと思ったわ」


 夜深は、再び、意地が悪そうに問いかけてみる。

 静居は、後悔しているのではないかと、推測しているようだ。

 自分達の願いの妨げとなる柚月達が、生き延びてきた。

 次で、殺しにかからなければならないほどだ。

 切羽詰まっていると言っても過言ではない。

 だが、静居は、そうは、思っていないようだ。

 自分達に、抗い続ける柚月達に関して、興味深いと思っているようだ。

 夜深も笑みを浮かべて、呟く。

 たとえ、憎悪を宿しても、静居が、後悔するはずがない。

 柚月達が、どれだけ、あがき、生き延びたとしても、最後に自分達に、殺されるのだから。


「で、次は、どうするの?」


「……光焔を手中に収める。あいつは、柚月達にとっては、切り札のようだからな」


「そうね。あの坊やのおかげで、計画通りに進まないんだからね」


 夜深は、静居に問う。

 次は、どのような卑劣な手段を使うのか。

 夜深は、楽しみで仕方がないのだ。

 静居は、今度は、光焔を手中に収めると宣言する。

 これは、夜深にとって、予想外だ。

 だが、悪くはない。

 光焔が、自分達の邪魔をしてきたのだ。

 彼を手中に収めることができれば、今度こそ、柚月達は、終わる。

 柚月達を殺すことができるだろう。

 静居も夜深も、そう、予想しているようだ。


「でも、手ごわいわよ?やれるかしら?」


「お前に任せる。お前なら、やれるだろう?」


 夜深は、静居に迫る。

 光焔は、明らかに、普通の妖とは違う。

 柚月達を強制的に光城へ戻し、強力な結界を張り、九十九達の破壊衝動を浄化してしまうのだから。

 光焔を手中に収める事は、容易ではないだろう。

 だが、静居は、夜深に任せるようだ。

 夜深なら、やれると信じているのだろう。


「いいわよ。やってあげる」


 夜深は、不敵な笑みを浮かべてうなずく。

 よほど、自信があるようだ。

 ことごとく、光焔に、邪魔をされても、それを上回る力を持っていると自負しているのだろう。

 

「しかし、赤い月は、人や妖の血で染まったのが、原因だと思っていたのだが、真実だったようだな」


 静居は、改めて、赤い月の事を語る。

 赤い月が出現したのは、千年前、妖が現れた時だ。

 ゆえに、静居は、赤い月がなぜ、出現したのかは、不明であった。

 だが、人や妖の血で染まったのだろうと推測していたようだ。

 静居は、気付いていたからだ。

 人や妖が命を奪われた時、血が地面に残っていたのだが、一瞬にして消えたのを。


「いいえ、少し違っているわ」


「そうなのか?」


「ええ」


 夜深は、静居の推測と実際の現象は、少し、異なっていると語る。

 これには、静居も、驚いているようだ。

 夜深は、赤い月の真相を知っているらしい。

 静居でさえも、知らない事を。


「あの月が吸い取ったのよ。人と妖の血と負の感情を」


「月が吸い取った?」


「ええ。負の感情は、とっても、すごいのよ。負の感情を操れば、力となり、地震を起こすことだってできるんだから。まるで、神の力みたいでしょう?」


「確かにな」


 夜深曰く、月は、血で染められたがゆえに、赤い月へと豹変したのではないらしい。 

 赤い月が、人と妖の血を吸い取ったのだ。

 しかも、負の感情も含めて。

 まさか、月自身が吸い取っていたとは、思いもよらなかった静居。

 興味がわいたようで、夜深に問いかけた。

 夜深は、負の感情について、笑みを浮かべて説明する。

 負の感情は、集まれば、強大な力となり、大地を揺らすことさえ可能となるようだ。

 その負の感情を月が、吸い取るというのは、どういう事なのだろうか。


「その力を操れば、天変地異を引き起こす事は可能なのよ」


「なるほどな」


 負の感情を力として操れば、天変地異さえも、起こすことはたやすいようだ。

 だんだんと、彼女の狙いが見えてきた。

 静居も、笑みを浮かべて、聞いている。

 意味深な言葉に、興味を抱いたかのように。


「月は負の力を宿した血を吸い取って、赤い月となるの。これが、赤い月が誕生した理由よ」


 赤い月が誕生したのは、負の力を宿した血を吸い取ったのが、原因らしい。

 それは、人と妖が、命の奪い合いを続けていたがゆえの事であった。

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