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聖印×妖の共闘戦記―神話乃書―  作者: 愛崎 四葉
第八章 赤い月と災厄
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第九十九話 想いの残存=心

「体の方は、どうかな?」


「ああ、大丈夫だ」


「そう、それは、良かった」


 黄泉の乙女は、柚月に問いかける。

 心配していたのだろう。

 破壊衝動に駆られ、凶暴化してしまった九十九達を助ける為には、特殊な力を送らせる方法しかなかったとはいえ、柚月に無理をさせてしまったのだ。

 そう思うと、黄泉の乙女は、心が痛んだ。

 だが、柚月は、うなずく。

 彼女は、柚月の様子をうかがっていたが、無理をしている様子は見られない。

 偽ってないと見抜き、黄泉の乙女は、安堵した。


「なぜ、貴方が……」


「そうだね。ちゃんと、説明しなければならないね」


 柚月は、黄泉の乙女に問いかける。

 なぜ、彼女が、ここにいるのか。

 黄泉の乙女は、柚月を救うために、力の全てを柚月に差し出し、消滅したはずだ。

 柚月達の目の前で。

 ゆえに、彼女は、幻なのか。

 または、何か理由があるのか。

 柚月は、疑問を抱いていたのだ。

 黄泉の乙女は、冷静にうなずき、説明をし始めた。


「確かに、あの時、私は、消滅した。けど、君の中に残しておいたんだ」


「何を?」


「私の想いの残存」


「想いの残存?」


 黄泉の乙女曰く、柚月に力の全てを送る際、柚月の中に自身の想いの残存を残したというのだ。

 だが、思いの残存と言うのは、何を意味しているのだろうか。

 魂なのか、それとも、別の何かか。

 柚月は、思考を巡らせるが、見当もつかなかった。


「要するに、私の心だよ」


「なぜ……」


 疑問を抱く柚月に対して、黄泉の乙女は、答える。

 想いの残存とは、心だというのだ。

 彼女が、その身に宿していた感情。

 ゆえに、想いの残存と例えたのだろう。

 その想いの残存が、彼女の姿を形作ったのだ。

 だが、なぜ、想いの残存を自分の中に残したのかは、不明だ。

 彼女は、何かを知っているというのだろうか。


「君達を助けたかった。それに、話さなければならなかったからなんだ」


 黄泉の乙女は、想いの残存を残した理由を語る。

 彼らを助けたいと心から願ったからだ。

 それに、柚月達に話さなければならないことがあるらしい。

 やはり、彼女は、何かを知っている。

 おそらく、今後、自分達にも影響する重要な事をだ。

 そう思うと、柚月は、彼女に尋ねたかった。


「知りたいことは、山ほどあるみたいだね。いいよ。私で答えられることがあれば、答えよう」


「いいのか?」


「もちろん。そのために、私は、ここにいる」


 黄泉の乙女は、柚月の心情を見抜いているようだ。

 ゆえに、質問に答えてくれるらしい。

 そもそも、黄泉の乙女が、夢で柚月に会ったのは、伝えたいことがあったからだ。

 柚月達が、知らなければならない事を。


「なら、俺のことについて教えてほしい」


「君と私の関係性かな?それは、まだ、君には、聞こえないと思うよ?」


 柚月は、自身のことについて知りたいと懇願するが、黄泉の乙女は、自身と柚月の関係性だと思い込み、まだ、知るのは、先だと諭す。

 初めて、柚月と会った時、黄泉の乙女は、自身と柚月の関係性を伝えたが、柚月には、届かなかったようだ。

 関係性の部分だけが。

 ゆえに、彼が、この事について、今、知る必要はないのだと悟り、この事を知るのは、先なのかもしれないと推測した。

 黄泉の乙女は、困惑するが、柚月は、静かに首を横に振った。


「いや、そうじゃない。特殊な力の事だ」


「ああ、そうだったね」


 柚月が知りたいと願ったのは、関係性ではない。

 自分の中に眠る特殊な力の事だ。

 聖印の力とは、別だとすれば、自分は、何をその身に宿しているのか、知る必要があると考えたようだ。 

 今後の戦いの為にも。

 黄泉の乙女は、納得したようで、柚月に特殊な力の事を教えた。


「君の中に眠る力は、夢で、過去や未来を見る力だ」


「夢で?」


 黄泉の乙女曰く、柚月が、その身に宿しているのは、夢で、過去や未来を見る力だという。

 だが、柚月は、ピンと来ないのか、困惑した様子を見せる。

 そんな柚月に対して、黄泉の乙女は、優しく問いかけた。


「思い当たる節はないかな?」


 柚月は、思考を巡らせる。

 ゆっくりと、思い出すかのように。

 すると、柚月は、ある事を思い出した。

 それは、十年前、九十九が椿を殺した過去を夢で見た。

 柚月は、それを嫌と言うほど見てきた。

 だが、過去を受け入れた直後、柚月は、その夢を見なくなったのだ。

 その力が、聖印と同様、心の強さと関わっているのなら、見なくなった理由も、うなずける。

 それに、柚月は、朧が四天王にさらわれそうになる未来、そして、九十九と椿の過去を夢で見たことがあった。


「ある」


「だろうね」


 柚月は、うなずく。

 心当たりは、大いにあるのだから。

 黄泉の乙女も、微笑んでうなずいていた。

 彼女は、柚月の事を熟知しているようだ。

 柚月自身が知らない事も。


「そして、過去や未来を仲間達にも見せることができるんだ」


「そうか。だから、俺達は、九十九の過去を……」


 黄泉の乙女は、語り続ける。

 なんと、柚月は、その夢を仲間達にも見せることができるらしい。

 それを聞いた柚月は、納得した。

 ずっと、疑問を抱いてきたことがあったからだ。

 以前、柚月達は、夢で、九十九と椿の過去を見たことがある。

 しかし、全員が、同じ夢を。

 しかも、二人の過去を見ることなどあり得ない事だ。

 だが、それが、柚月の特殊能力が発動したことで見られたのなら、納得がいった。


「君は、夢で会うこともできる。つまりは、夢の力、と言ったところかもしれないね」


「夢の力……」


 しかし、柚月の特殊能力は、過去や未来を見るだけではないらしい。

 柚月は、夢を通して、人と会うことができるのだ。

 過去に、柚月は、夢の中で、九十九、光の神、そして、黄泉の乙女と会っている。

 これもまた、特殊な力の一つのなのだ。

 ゆえに、その力は、「夢の力」だという。

 安易な名であるように思える。

 だが、納得はできた。


「納得してもらえたかな?」


「ああ、そうだな」


 黄泉の乙女は、柚月に問いかける。

 満足した答えだったのかと。

 柚月は、満足そうにうなずき、黄泉の乙女は微笑んだ。


「他に聞きたいことはあるかな?」


「ああ」


「何を聞きたい?」


 黄泉の乙女は、柚月に問いかける。

 柚月が知りたいのは、自身のことだけではないと見抜いていたからだ。

 柚月は、静かにうなずき、黄泉の乙女は、尋ねた。


「赤い月の事だ。どうして、赤い月が、出現したんだ?あなたは、何か知ってるんじゃないのか?」


「うん、知ってるよ」


 柚月が知りたいのは、赤い月の事だ。

 赤い月が何日も、続いている。

 これは、和ノ国にとっては、一大事と言っても過言ではない。

 黄泉の乙女なら、この異常現象について、何か知っているのではないか。

 だから、夢で会えたのではないか。

 柚月は、そう推測しているようだ。

 そして、柚月の読み通り、黄泉の乙女は、赤い月の事について知っているようであり、うなずいた。


「赤い月は、人や妖を殺す事で、真っ赤に染まってしまうんだ。血のようにね」


「人や妖を殺す事で?」


「そうだよ」


 黄泉の乙女は、説明し始める。

 赤い月が出現する条件は、人や妖を殺す事で、起きる現象のようだ。

 つまり、人と妖が、争い、命を奪い合ってきた事により、起きるらしい。

 人を守るために、妖の命を奪ってきた聖印一族。

 だが、それは、返って逆効果のようだ。

 妖の命を奪わなければ、赤い月が出現することはないのだから。


「そして、赤い月が、満月の日と重なる時、災厄は起こる。静居は、これを狙っているんだ」


「災厄?」


 黄泉の乙女は、さらに、説明を続ける。

 赤い月は、常に、満月のように見えるのだが、実際は、そうではない。

 三日月や真月の時にも、赤い月は、満月のように見えた事もあったのだから。

 赤い月が出現してからは、一度も、満月と重なった日がない。

 だが、もし、満月の日と重なった時、災厄は起こるようだ。

 静居は、その時を待っているらしい。

 だが、災厄とは、どのような事が、起こるのであろうか。


「人と妖が、滅ぶってことだ」


「っ!」


 柚月は、絶句し、言葉を失う。

 災厄は、人と妖を滅ぼすことができるらしい。

 つまり、和ノ国は、完全に滅ぶという事だ。

 しかし、静居は、なぜ、人や妖を滅ぼそうとしているのだろうか。

 柚月には、見当もつかなかった。


「詳しく話そう。私が、知っている赤い月と静居のたくらみを……」


 黄泉の乙女は、さらに、話を続ける。

 柚月は、真剣なまなざしで、黄泉の乙女の話を静かに聞いていた。

 だが、それは、柚月にとっては、あまりにも、衝撃的であった。



 早朝、夢から目覚めた柚月は、すぐさま、朧達を大広間に呼び寄せた。 

 黄泉の乙女から聞いた話を朧達にも聞かせるためであろう。


「兄さん、どうしたんだ?」


「話って何なのだ?」


 朧と光焔は、柚月に尋ねる。

 赤い月の事について、何かわかったのではないかと悟って。


「昨日、夢で、黄泉の乙女と会った」


「黄泉の乙女と?」


 朧は、柚月に尋ねる。

 おそらく、柚月が、その事について語るということは、通常の夢ではない。

 特殊な夢と見て間違いなさそうだ。

 ならば、黄泉の乙女と会うことは、難しいのではないかと推測する。

 なぜなら、黄泉の乙女は、消滅したはずだ。

 それなのに、なぜ、黄泉の乙女と夢で会えたのだろうか。


「黄泉の乙女が、教えてくれたんだ。静居がどうやって、和ノ国を滅ぼそうとしているのか……」


「兄さん、詳しく聞かせてくれる?」


「ああ……」


 柚月は、静かに語り始めた。

 黄泉の乙女となぜ、夢の中で出会えたのか。

 そして、黄泉の乙女が、教えてくれた赤い月と静居のたくらみについて。

 それは、朧達にとっても、衝撃的であった。

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