6.~記憶の整理~
目の前にいる友人はブツブツと呟いていた。
希望的観測がどうとかそういった事を話していた。
こいつの名前は小此木優。
パンデミックが始まりひと月ほどの時間が流れていた。
優は、この異常事態が今始まったかの様に振る舞う、そして今、大橋元康と名乗っていた。
今観ているテレビは録画だと思う。
ここで籠城して一週間が経っていたが、何度か同じものをみた。
多分放送局が自動で垂れ流してる放送だと思う。
パンデミックが起こる数時間前、俺は学校で講義を受けて居た。
遼と晴とは3人で一緒に講義を受けて居た。
落ちこぼれ3人は去年落とした単位を取得するため、2度目の講義を受けて居たのだ。
優と元康は卒業までは、ゼミの単位を取得するだけで就職活動中だったので俺たち3人が一緒にいることが多く、こいつは元康と良くつるんでいた。
最近は5人揃って遊びに行くことも減っていたがこの間は久々に、講義の帰り合コンをするために集まっていた。
俺たち3人は私服、こいつら2人は就職活動の帰りなのかスーツを着ていた。
一頻り合コンを愉しんで各自解散した後、パンデミックが起こってしまったのだ。
壁の外はどうなってるのか?
一週間前に、この部屋でこいつを発見した時は満身創痍な状態だった。
様々な箇所が噛まれ元康の名前をうなされながら呼んでいた。
元康とも連絡が途絶えている。
多分元康はもう死んでしまっているのではないか、嫌な予感がしていた…。
壁によってこの辺一帯は隔離されているらしい。
そして外は感染者がさまよっている。
実際隔離された壁の向こうには平和な世界が広がっているのだろうか、それとも…。
優は何処かを見ながら話しかける。
俺はそれに言葉を返す、何度もほとんど同じ内容を話していた。
一週間前は俺が分からなかったのに今では俺を沢渡浩平としてちゃんと認識している。
これから少しずつ回復に向かうのだろうか、それとも外の奴らと同じ様に俺を襲ってくるのだろうか。
いや、生命活動が止まっているなら今頃腐敗臭がしているハズだし記憶の混乱はあるものの一応は俺の言葉は聞こえている様に思えた。
しばらく沈黙が流れたが、何処かに向かって呟いていた優は財布から何かを発見し手に取った。
「お、このぎ…す、ぐる?」
自分の名前を読んで驚いているのか、
しばらく固まったままだったが…。
やがて俺の方を向いて一言話した。
「こう…へい?何で俺の家に居るんだ?」