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テンプレートギルド

 冒険者ギルド。 魔法学校と双璧を成す、異世界転生系統における重要な施設である。


 説明されてもほとんど使われることのない、しかし重要なときには役に立つ、身分証代わりにもなるギルド証を結構簡単にくれる重要な施設である。


 すぐに最高ランクになれる重要な施設である。


 説明の時に一度だけ使われて、それから作中では話題にも登らないことが多々ある金銭の価値を教えてくれたりする重要な施設である。


 受け付けが美人のお姉さんで、主人公に惚れるけど結局ヒロインにはならない重要な施設である。


 何故か結構な権力を持ってたりする重要な施設である。


 ちょっとしたことで「ざわ……ざわ……」「天才だ」となる重要な施設である。


 高ランクやギルドマスターに戦闘を挑まれる、主人公の強さを誇示するためにも重要な施設である。


 何故か始めて来たとき限定で、下級ランクの先輩が喧嘩を売ってくる重要な施設である。



「絡まれたらどうしましょう?」


「あらたんガード安定だな」


「あらたんって呼ばないでと何度言えば……」


「あらたんガードは技名であって、あらたんのことではないであらたんよ。 あらたんあらたんあらたん」


「理解出来ません」


「あらたんガードってのはな、何か恐ろしいものが現れた時に俺の身を守るために新の後ろに隠れる必殺技なんだぜ!」


 流石先輩、ゲスいです。


 なんだかんだ言っても庇って助けてくれるだろう、そう安心しながら冒険者ギルドの扉を開ける。


「あっ、エロフじゃね?」


 先輩が発した甘美な響き【エロフ】。 その言葉が気になって先輩の視線を追う。

 エルフではなくエロフがそこにいた。


「何あれ、ものすごくエロフです。

即堕ちしそうなんですけど」


 ギルドの受付嬢というやつだろうか、服装も崩れていない、肌色率も低い、真面目そうな顔をしている。 だがどう見てもエロフだ。


「なんであんなに真面目っぽい容姿なのに……エロフにしか見えないのか。 ちょっとあの貧乳触ってこようかな?

エロフも貧乳を触られて気持ちよくて幸せ、ちっぱい触れて俺も幸せ、俺が幸せで新も幸せ。

Win&Win&Winじゃん、やべえ」


「本当に触ったら縁切ります。 もう話しかけないでくださいね」


「なら代わりに新の胸を……」


「乳と言わずに胸というところに殺意が湧きます。 触ったら先輩が死ぬまで延々と罵りますからね」


「えっ、胸触れる上に罵ってもらえるの!?」


「……触らないでください」


 お酒と煙草の匂いがきつく、慣れないそれに不快感を感じる。

 目を上に向けて、ギルドの時計を確認する。


「まだ十二時ですか」


 朝ごはんも食べていないからか、そろそろお腹も減った。 そんな空腹よりも、こんなに疲れたのにまだ正午という事実に苦しめられる。

 ゾンビやら魔王やらBOUKENSYAやら……やってられないですよ、こんなの。


「……別によお、俺が本気出せば勝てない奴なんて存在しねーんだから、新はギャグ漫画見るときみてーにヘラヘラしてればいいんだぜ?」


 先輩は落ち込んでる僕の頭をゴシゴシと乱雑に撫でる。 ちょっと痛いぐらいだ。


「ギャグ漫画見るときって……僕はギャグ漫画は読みませんよ。

それに歩き疲れて笑ってる場合じゃないです」


「マッサージしてやろうか? それともおんぶしてやろうか?」


「本気で勘弁してください。 気持ち悪すぎて吐きそうです」


 先輩に頭を撫でられながらエロフさんの元に向かう。


「えーっと、魔王討伐の依頼を受けたいんですけど……」


「えっ、○○○(ぴー)したいだなんて……」


 僕は……やべえ人に話しかけてしまったのかもしれない。


「いえ、ぴーではなくて、魔王討伐の依頼が受けたいんですけど」


○○○(ぴー)だなんて……。 えっちな子ね」


「先輩、この人やばいです。 何がやばいってマジやばいです」


「新のスケベ……」


 あまりに言われのない誹謗である。 僕が何を言ったというのか。


「なんでですかノリが意味分からないです、いいから魔王の討伐依頼受けさせてくださいよ」


「すまん。 俺も乗ってみたけど……うん。 何言ってるのか分からないや。

隣の受付行こうか、悪かったな」


 よく分からないけど、異世界は不思議がいっぱいってことで納得しておこう。

 先輩が隣の普通の人に受付してもらい、強欲の魔王のところに向かうことになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「電車は普通にあるんですね」


「まぁ……ホテルの部屋でも電車っぽいのあったしな」


 先輩は自分の発言がセクハラであることに気が付いているのだろうか。 どうせ気が付いていながら言っているんだろうな……。


「そういやさ、暴力系ヒロインっているじゃん?」


「あっ、はい。 いますね。 突然どうしたんですか?」


「ん、いや、ムラムラするのを誤魔化すためになんか話題ないかなって思ってさ」


「……そろそろ先輩が嫌いになりそうです」


「すまん、そろそろ控える。 んでさ、暴力系ヒロインってなんで人気なの? 痛いの好きなM豚なのかな」


「……先輩が毛嫌いしているのは分かったんですけど、僕は比較的好きですよ」


「なんで、なんかヒステリックに見えない?」


「まず、照れてる女の子ってかわいいじゃないですか」


「まぁ、分からんでもないな。 でも普通に照れたらいいんじゃね?」


「読者はえっちなのを求めてるんですよ? パンチラする度に恥ずかしがってぐすぐすしてるのってテンポ悪くなるじゃないですか」


「……確かに」


「えっちな目に合って一コマで殴ってしてたらテンポよくできますし、羞恥心の少ない女の子って設定でもなければ恥ずかしがってないと不自然ですからね。 少しでもえっちなのをしようと思うならば暴力があった方が話として分かりやすくなるわけですよ」


「ふむ……でも、暴力ってよくないよな」


「先輩がそんな言葉を吐くとは……。 まぁ所詮は女の子の力ですからね。 細マッチョが基本の主人公にはダメージ少ないでしょうよ」


「そんなもんか……。 ふむ、とりあえず新後輩よ」


「なんですか、先輩」


「新後輩も暴力系ヒロインになってみないか?」


「いやですよ。 辱められることが前提の場合が多い存在ですからね。 いや、ヒロイン全体として辱められることは多いですけど」


 他に人が乗っていないとは言え、電車で何の話をしているのだろうか。

 自分の常識人としてのプライドが崩れていっているのを感じて、常識を崩してくる先輩から目を逸らして電車の外の景色を眺める。 先輩のせいだけではなくて、この環境のせいもあるよね。


 美しい景色は原色ギトギトのケバケバしい景色へと変わっている。

 別に異世界になっていっている世界が嫌いな訳ではない。 でも、僕が好きだった世界は……見えない。


 皆は全然違う世界をいつも通りといった顔でつまらなさそうに生きている。



 先輩に聞けば分かるのかな? 僕と彼等……この世界を生きる者として、正しいのはどちらなのだろうか。


一応、第一章完結です。

キャラ紹介を挟んだ後に第二章の七大罪編に入ります。

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