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とりあえず金本さんは置いといて

 成す術もなく敗北した帰り道。

 大きなため息を何度も吐く僕とそれを見てニヤニヤしている先輩。 いつもと同じ光景にほんの少しの安心感を覚えてしまう自分が、なんとなく腹立たしい。


 問題は何も解決していない。 『初体験を話す』『セクシーなポーズで』というお題だったためにどうしようもなかった。

 初恋の話みたいなのだったら、誇張も含めてもう少しなんとかなったかもしれなかった。 まぁぴーばかりの話には勝てる気がしないけれど。


「まぁ、元気出せってあらたん。 一週間の猶予があるんだから記憶がちゃんと残ってる人を探すぐらいなんとかなるだろ。

 俺たちだけが残ってるってのも不自然だしさ」


「あらたんって言わないでください」


 先輩が言うことも理解出来る。 自分が選ばれた存在だなんて尊大な勘違いはしていないつもりなので、それを探すことは決まっている。


 しかし、だ。 僕の交友範囲はとても狭いので、協力者を見つけるのは難しそうだ。 先輩は友達いないから役に立たない。


「それに……あんなぴーぴー魔王だったらいざとなれば俺が倒してくるさ。

 魔法ってのは驚いたが、何が来てもおかしくないと考えて動けば負けることはないだろ。 俺って強いし」


 自信過剰としか言いようがない。 手から炎が出せる人に、ボールペンで字を書くのが上手い程度のことしかできない先輩がどうやって対抗出来るというのか。

 ペンは剣よりも強しとは言うが、ボールペンと剣が打ち合えば当然のように剣が勝つ。 たぶん。


「まぁ無理でしょうよ。 相手魔王ですよ?」


「えっ、でも俺は勇者だぜ? 土田じゃない魔王が言ってた」


「あー、そういえば、金本さんが言ってましたね。

 ぱっと見勇者っぽい見た目してるからじゃないですか?」


 それに、最近の勇者は下衆だったり小者だったりが多いので、そういう意味ではしっかりと勇者なのかもしれない。

 しかし、容姿と下衆さと小者さでは勇者っぽいけど、選ばれし戦士みたいなのではないはずだ。


「勇者っぽい見た目ねえ。 新は……可愛いとは思うが、物語のヒロインにはなれそうにないよな。 身長的な意味で」


「まだ成長中ですよ。 たぶん明日には先輩の背を抜いてるんじゃないですか? オーク的な意味で」


「それマジで怖いからやめて。 本気で俺泣いちゃうよ」


 先輩の反応をけらけらと笑いながら歩く。 あと一週間か。 先輩に任せっきりでもどうにかなると思うけど、僕は僕で動こうか。 魔王って長い棒とかで叩けば勝てるかな?


「ん、ちょっと気になった物あったから待ってて」


 そう言って先輩は何処かに駆けていく。 なんだろう、また僕に変な虫をけしかけたりするつもりだろうか。 異世界化してグレードアップした虫をけしかけられる前に逃げるべきかもしれない。 今のうちに逃げ出そうとするが、その前に先輩が戻ってきてしまった。


「ほらこれ見て見て」


「【BOUKENSYA】なんですか、その本」


「スーパーの前に置いてあったフリーペーパーの求人誌。

 毎週月曜日に発行されてるみたいだな」


「あー、そういう求人誌も異世界化したんですね。 どういうのが乗ってるんですか?」


「えーっと、よくある依頼っぽいな。 魔王の討伐、ドラゴンの討伐、世界の征服」


「ずいぶんと難易度が高いですね。 流石異世界」


「えー、難易度高いか? 俺なら無呼吸で鼻歌歌いながら小指七本でいけるぜ?」


「無呼吸で鼻歌ってどうやって歌うんですか。 あと、小指は四本しかないです」


「新に協力してもらうから万事問題ない」


「その信頼の源が知りたいです。 それと靴を脱ぐことになるのも嫌です」


「じゃあ俺が五本か……なんとかなりそうだな」


「なりません。 なんとか指を増やせたところでどうにもなりません」


 僕の小指で何が起こるのだと言うのか。 小指の非力さを示すために背伸びをして先輩の頬をツンツンと突つく。

 突つく度に変な表情に変える先輩が面白くなり、何度も突つく。


「あっ」という声が聞こえて、小指に嫌な感触を覚える。


 先輩が……こけた。 そして、僕の小指が目に突っ込んだ。 先輩は死んだ。


「せせせせせ大丈夫ですか!? すみません!! 」


「お、おう。 俺はマジで強いから大丈夫だ、うん。

 ほら、普通の奴にこの攻撃を七つの目すべて同時に喰らわせたら……どうなる?」


「僕はこの状況でもボケを忘れない先輩を尊敬しますよ……」


「んで、どうなると思う?」


「まず七つの目を持つ生物を知らないので分からないです。

 強いて言うならば、先輩の体制がすごいことになりそうですね」


 ぶっすりと刺さったかと思ったけれど、先輩の目に異常はない。

 涙も出ていないので、そんなに強くは当たっていなかったのかな。 何と無く罪悪感が減る。


「おっ、これなら新と一緒でも出来そうだな。 試しに受けてみる?」


「いや、それより魔王をなんとかしないと駄目では……」


 先輩に渡されたBOUKENSYAのページを見る。

【強欲の魔王の討伐】 【一角ゴリラの角の納品】【岩の根の納品】。


「岩の根……ですか。 ファンタジーだしあるんですかね」


「いや、魔王の方。 色欲と同じような試練ってのだったらいけるかもしれないだろ?

それに、無為に前世界を覚えている奴を探すよりも、違う試練に挑んでる人を見た方が手っ取り早いかと」


「先輩がまとも……です」


「それに強欲の魔王も時間制限があるかもしれないしな」


 なるほど、尤もである。 だがしかし、まだ色々と不安が残る。


「【色欲】【強欲】ってきたら……あと五人いそうですよね」


「あと五人?

【色欲】【強欲】【暴食】【虚飾】【怠惰】【憂鬱】【傲慢】に……あっ【憤怒】か。

その八つなんだから六人だろ。 将来養ってやるけどさ、主婦として計算ぐらい出来るようになれよ」


 何か変なことを先輩が言いだした。 いつものヘラヘラ顔ではあるが、わざとぼけている訳ではなさそうだ。


「プロポーズっぽい言葉はスルーさせてもらいますね。 大罪は【色欲】【強欲】【暴食】【怠惰】【傲慢】【嫉妬】【憤怒】の七つですよ?」


「えっ、マジで? いつ変わったの?」


「さ、さあ? 最近は現代版のがあるみたいですよ。 【人体実験】とか」


「マジかあ……。 やっぱ世代の差ってあるなあ」


 二歳差だろうに。 僕を子供扱いするのはいい加減にしてほしいのだけれど、それを言ったところで止めてくれる人ではないか。


 諦め混じりに先輩の方を見る、いつものヘラヘラ顔の後ろの町並みが、見た覚えがない。 いつの間にか知らない道にまで来てしまったのかもしれない。


「先輩、どこに向かっているんですか?」


 嫌がらせとかされそうな場所ならすぐに逃げよう、そう思って聞く。 先輩の答えは聞き覚えはないが馴染みがある場所だった。



「んー? 話聞いてなかったのか? 冒険者ギルドだよ」



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