力こそパワー!決めろシャイニングウィザード!【中編!】
電車の車内風の部屋、牢屋みたいな部屋、お姫様の部屋のようなふりふりした部屋、なるほどこれがJapanese HENTAIなのか。 なんというか、正気でこんなところでしているとは思えない。
「すごいですね。ここ」
「あぁ、マジやべえな。 ダンジョン探索だとワクワクテカテカで来てるのに、変なプレイ用の部屋ばかり……。
これってあれか? 気まずくなった仲間達に仲違いさせる魔王の罠とか」
「あー、なるほど。確かに気まずくなりますね」
「あらたんなんて、驚いて喜んで泣いて怒ってたもんな。
あとリラックスしたら喜怒哀楽コンプだったのに」
「あんな状況でリラックスしてる人なんて存在しませんよ。
それに、その話はもう止めてください。恥ずかしすぎて死にそうです」
いや、そういえば先輩はリラックスしていたか。 むしろ先輩が緊張するような場面が思い当たらない。
天変地異が起きても、へらへら笑いながらセクハラしてきそうだ。
「っと、行き止まりか。これで三階は全部まわったな。
上にいく?下にいく?」
「とりあえず、一階に行きたいですね。
出口あるなら出口を確認しておきたいですし」
「それもそうだな。
そういや、魔王ってどんな人なんだろうな。 やっぱりすごい能力を持ってそうだよな、植物を枯らせる能力とか」
「そろそろ土田さん弄りが鬱陶しいです。 先輩には他に魔王のイメージないんですか?」
「魔王のイメージか。 あるに決まってるだろ?
絶対的で、絶望的な悪。 破壊しかもたらすことができないその力。
地面を歩けば紫電が発生し、右手を振るえば天は割れ、蹴りを放てば地が砕け、通った後には草木が生い茂り、目からは当たったら死ぬ怪光線を発し、口からは一兆度の炎を吐き散らす! みたいな?」
「破壊しかもたらさないって言ってるのに草木が生い茂っちゃってるじゃないですか。 普通逆でしょ」
「じゃあ、
絶対的で、絶望的な悪。 破壊しかもたらすことができないその力。
地面を歩けば紫電が発生し、右手を振るえば天は割れ、蹴りを放てば地が砕け、通った後には草木が散って枯れ、目からは当たったら死ぬ怪光線を発し、口からは一兆度の炎を吐き散らす!
って結局土田さんじゃないか」
「いや、土田さんは家庭菜園を枯らしますけど、家庭菜園を枯らせば土田さんになる訳じゃないです」
最近、土田さんの話ばかりしている気がする。 いや、実際土田さんの話しかしていない。
「あっ、と……出口普通にありましたね」
「そうだな。 つまらん」
出口らしき自動ドアをくぐると、赤い光の柱の前に出てきた。 やはり出口だったようだ。
元の世界に普通に戻ってこれた。 服も元に戻っているので、あの特別な空間のみだったのだろう。
「まだ入ってからの時間が十分しか経ってないな……。 時間の流れが違うのか?」
「時間の流れ……ですか。 まぁ、まだ魔王も見てないので、もう一度入ります?
今度は屋上にでも行ってみます?」
「そうだな……ボス部屋って言ったら屋上っぽいか。 モンスターがエンカウントしないからレベル上げも出来ないし」
痛いゲーム脳の先輩と共に魅惑的な赤い光の柱に触れ、世界が暗転する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今回は先輩より早く目が覚めたらしく、目の前に先輩の寝顔が見える。
「寝ているときはかわいいですね……」
憎たらしい言葉やへらへらとした軟派な笑みがない先輩は顔が整っているし線も細く男性とは分かるものの中性的な雰囲気がある。
非常に高い運動能力を支える身体は服の上からでは分かりにくいが、男らしい硬さを持っている。
ーーって、ん? 硬い?
なぜ僕は先輩の身体の硬さを感じているのだろうか。 答えはすぐに見つかった。 僕は先輩の上に制服で乗っかっていた。
「ええええあえああ……」
大声を出してしまえば先輩が起きて変な空気になってしまうだろう。 ゆっくり、ゆっくりと先輩の上から離れる。
耳まで赤く熱を持っているのを感じ、先輩を起こすことを戸惑う。 今起こせば真っ赤な顔を見られてしまうだろう。
「落ち着け、落ち着け空亡新」
先輩はまだ寝ているのだから気づかれてはいない。 つまり、いつも通りに接すればバレないはずなのだ。
少し落ち着いて深呼吸をすると薬品の匂いが鼻の中に入り、さっきとは違う場所であることに気がつく。
学校の保健室。 先ほど見回った部屋では見つからなかったので三階以外の階層だろう。
薬品の匂いまで再現しているとは凝っているものだ。教室の中に不自然にベッドがあった先ほどの部屋とは大違いである。
とりあえず、僕の通ってる学校と同じ作りのようなので簡単に見つけ出した、生徒に貸すための体操服の半ズボンをスカートの中に履いてから先輩の肩を揺さぶる。
「んー?ままぁ、今日は水曜日だぜえ? それに、まだ九時半だろぉ?」
「僕は先輩のママじゃありません。 今日は火曜日ですし、水曜日も平日なのでちゃんと七時には起きてください。
というか……いつから起きてたんですか」
「「寝ているときはーー」って、ところから起きていたでござるよ、あらたママ」
「すみません、ちょっとお星様になってきます」
「えっ、じゃあ俺はあらたんのプロデューサーやるよ。
プロデューサーって言ったらアイドル食えるんだろ?」
「そっちのスターじゃありません。 というか、エロゲじゃないんですから出来る訳ないじゃないですか。
あと、さっきのは忘れてください」
今日は羞恥してばかりな気がする。 なんか、まだ十二時にもなっていないのに疲れた。 このままベッドで寝たい。
ベッドから立ち上がる先輩を見て、入れ替わりでベッドの中に入る。
「もうなんか寝て忘れたいので寝ちゃいますね」
「いや、未クリアのダンジョンの中で寝るとか神経図太すぎだろ。危ないからやめとけ。 寝たら死ぬぞ!」
「雪山じゃないんですから。 もうさっさと屋上行ってボス倒して帰りますか。
今の精神状態で長時間先輩の顔を見ることになったら吐いちゃいますよ」
先輩の顔を見ないようにしながら部屋から出る。 相変わらず、モンスターが出ることも宝箱が置いてあったりもしない。
先輩に話しかけられるが、それを無視しながらエレベーターまで歩いて進む。
二階から一気に六階にまで上がる。 屋上は階段から登らなければいけないタイプだったのか、エレベーターから出ても室内だった。
「デカイ部屋だな。ボス部屋か」
「階段も下がる分ないので一番上っぽい感じですね」
今までの作りとは違い、廊下と呼べるものがなくエレベーターから直接この部屋は繋がっている。 その内装は豪華なのだが、あまり品があるとは言い難い。
成金趣味、センスがない、テーマが見えてこない。 様々な言葉が僕の脳裏に浮かんでは消えを繰り返すが、一番それを表すのに相応しい表現は「下品」の一点に絞られる。
下品なのだ、部屋の大きさに見合わないたくさんの明るすぎる照明に、その光を反射する大きな鏡、何故だか回っている丸いベッド、どれもが品がなく、全部合わせて下品だ。
「よくぞここまで来たな、勇者、そして……あー、うーん……幼女よ」
媚びた目をしている女性が、ベッドの中から這い出てきた。 なんかイラっとしました。