力こそパワー! 決めろシャイニングウィザード!【前編!】
家に寄って着替えたあとは、光の柱へと向かって歩くことに変更となった。 図書館に行くのは後日ということで。
「新ってさ、洒落っ気ないよな。 ほら、学校でもモテモテで歩くだけでキャーキャー言われる先輩とお出掛けだぞ?
もっとあるだろ、ミから始まってニスカートで終わるものとかさ」
「一文字も下心も隠せてないです。 今から得体のしれない物を見にいくのにスカートなんて動きづらいじゃないですか」
「隠すのってよくないと思うんだ。 ほら、だからさ、あらたんもパンツを隠さずに晒そうぜ?」
「ちょっと先輩に対する殺意を隠せそうにないです」
赤い光が目の前に見える。 意外と近くにあったのか、足が疲れる前にそこまで辿り着くことが出来た。
「ここに魔王土田さんがいるのか……!」
「いや、だから土田さんは魔王ではないですって。
魔王戦の前なのに回復の泉とセーブポイントありませんね。
魔王が回復してくれるパターンでしょうか?」
「はっ、これだから最近の簡単なゲームしかしたことのない若い奴は。 里見の謎とか絶対クリア出来ないだろうな」
「無駄にイラっとしました」
直径一mほどの小さな赤い光の柱。 魔王がいるようには見えないので、もう魔王の城に移動したのだろうか。
観察していると、思考に靄がかかったかのように赤い光しか目に入らなくなる。
ーーあぁ、綺麗です。
感じたことのない、思考や人格が揺らぎ崩れるほどの欲求を感じる。 自身の息が荒げていることにも、先輩が心配そうに僕を気遣っているのにも関わらず、僕はその赤い光を見る。
愛おしい。 あぁ、なんて愛おしいのだろうか。
街灯の光に引き寄せられる羽虫のように、僕は美しいそれに惹き寄せられる。 欲情した獣の瞳を光の柱へと向けて、自身の物へとするために手を伸ばす。
世界は暗転した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
身体が揺さぶられる。
なんですか、人が気持ちよく寝ているのに起こすなんて……。
薄っすらと目を開けていくと、見覚えのない天井が見える。
「……学校?」
「目ぇ覚めたのか。大丈夫か?」
学校のような机や黒板や蛍光灯が見えるが、明らかに学校ではない場所が一つ。 何故か僕が寝ている場所が、床ではなく大きなベッドであるということだ。
学校ではないな。 似ているけれど、教室にしては少し手狭だし何処と無く新しいように見える。
「学校ではないな。 俺も目を覚ましたばかりだからよく分からないが、ホテルだと思う」
ホテル? ああ、なるほど、よく見たら遠くにお風呂が見える。変な内装ではあるが、ホテルのようだ。
「やらしい方のな!!」
ーーへ?
僕が驚いて周りを見ると、ベッドが一つしかなく、枕が二つある。
「へ、あ、えっ……てっ、嫌ですよ! やめてください! こんなの! なんで!?」
服装もいつの間にか学校の制服に変わっている。 先輩の趣味なのだろうか。
先輩は嫌いではない……いや、好きではあるけれどもこんなのは違う。
まだ結婚もしていないし、それどころか交際すらしていない。
でも、先輩の力に僕が勝てるわけもない。 百メートル10秒で走れる先輩相手に、五十メートル11秒もかかる僕が逃げ出すことも出来る訳もない。
いつかはと考えていたけれど、こんなのはあんまりだ。 もっと深い関係になって、ロマンチックな空気でとかがよかった。
こんな強姦紛いの無理矢理での行為なんて……。
「……え、えっと、責任は、取って……くださいよ。
僕もう16ですし、せ、先輩も18歳ですよね。 とらっ、とりあえずは書類だけでもよいので……」
未成年なので親の許可がいるはずだけど、僕の父母は適当な人なので帰ってきたら頼めばすぐにでも書いてくれるだろう。
あと、子供が出来ないようにしなければならないけど……そんな道具持っている訳がない。 先輩も出るときには何も持っていなかったので……。
どうしようか。
「あのー、新さん?」
「えっ、あっ、あっ、ななななんでしょうか先輩! あっ、いや、これからは夏さんって呼んだ方がいいでしょうか」
先輩の大きな手が僕の震える手を握る。 なんだか安心するけれど、無理矢理こんなところに連れ込んだあとにそう優しくするのはどうなのだろうか。
そういえば、下着が、下着が子供っぽいのだ……どうしよう、こんなことになると思ってなかったから……。
見られるのは恥ずかしい、見られない方法はあるだろうか。 一遍に脱ぐとかは難しいけど不可能ではないだろう、でも、それはそれですごく恥ずかしい。 今から起こるであろう羞恥に耳に血が集まるのを感じる。
不意に、自分が制服に変わっていることに気がつき、着替えさせられたであろうと考える。 先輩……夏さんに着替えさせられたのだとしたら下着は見られているだろう。
あまりの羞恥に目から涙が零れる。
「うっ……なんでこんなことするんですか……。 先輩がそういうのしたいなら、告白してくれたらよかったじゃないですか。
そしたら僕と同じお墓に入ってくれるんなら、頑張っておめかしして、そういう下着を用意してとか出来たじゃないですか」
「重いよ、 告白の意味が重いよ。
それに俺が連れ込んだ訳じゃなくて光に触れたらな……」
「うるさいです、先輩のばかばかばかばか」
泣きたくもないのに涙が零れ出てくるのは何故だろうか。 先輩の胸をぽこぽこと殴りながら、子供のような悪口を繰り返す。
「いや!だから!連れ込んだ訳じゃねーの!着替えさせてもないの!」
「ばかばか、って……へっ?」
「これも異世界化とかそういうのの一例だろうな。 ダンジョン化ってところだろうか。
まあ、光の柱に触れたらここに飛ばされたってだけであらたんに手を出すなんて児ポ法にひっかかりそうなことはしてないから安心しろ」
もしかして、僕、ものすごく恥ずかしい奴だったのではないだろうか。
先輩に連れ込まれたと思って怖がって。 無理矢理えっちなことをされると思って期待して。 見られた羞恥によって泣き出して。 節々で結婚を迫る。
「穴があったら入りたいです。 本気で」
「俺も穴に入れたい……。 っと、それより、この部屋を散策するか」
恥ずかしがっている僕に気を使ってか、先輩は教室擬きの部屋をキョロキョロと探っていく。
僕も手伝おうと立ち上がる。 とりあえず、顔を洗ってきてから手伝おうか。
顔を洗って、何かないかを探そうとするが、だいたいは先輩が調べているだろう。 先輩が見逃したものを僕が見つけれるとは思えないので、教室擬きの部屋は無視して扉を開けて廊下に出ようとする。
「おい、勝手に動くなよ。 何があるか分からないんだから。 ランダムエンカウント方式でモンスターが襲撃してきたらどうするんだよ。
職業:遊び人が一人でクリア出来るほど世の中甘くないからな?」
「なんで僕が遊び人なんですか、魔法使いとかがいいです」
「新に魔法使いは無理だろ。 あれって三十過ぎても経験のないおっさんしかなれないんだぞ?」
「今はRPG的な魔法使いの話してるんですけど。 じゃあ賢者でいいですよ」
「賢者も男限定だろうが、諦めて遊び人になってろよ」
「なんで男の人だけなんですか……。というか、職業制があるようには思えないので無駄でしょうこの話題」
「うるせえ!パンツ脱がすぞ!」
「やってみてくださ……って、えっ? ……唐突過ぎますよ!」
教室の捜索をやめて、僕のいる廊下の方にくる先輩。 ゲーム脳ではあるがなんだかんだ言って頼りになる人だ。
「やべえ、ホテルなんて来たことないから間取り分からない。 手探りで手がかりを探すしかないか」
随分と時間がかかりそうなやり方ではあるが、それしか方法はなさそうだ。 仕方ないので先輩について異世界ホテルの中を見てまわる。