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世界異世界物語

 異世界転生。 何回目?

 世界が揺れ、崩れる。 もう慣れたものだ、やがて世界は色を失い、ボロボロと崩れ去っていく。

 真っ暗というよりも、闇と言うよりも、「何もない」がただ淡々と広がっている空間が生まれ、そこに居座ることになる。


「ん……」


 そんな妙な空間の中にも、時間という概念は存在し、それ故に変化は起こる。 小さく耳の中に、幼い少女が誰かに媚びへつらうような、わざとらしく悦んでいるかのような、「ん」なんて声が響く。 この空間に来たときでは毎回のことではあるが、それが癪に触り、不快感に舌打ちをする。 音は出やしないが。


 声が発情期の猫に似ているな、と思っているとすぐに空間から世界が構築されていく。


 初めは、俺の住んでいた街の形をしていて、緑色の空にカラフルな髪色の人間、そんな妙な世界だった。

 次は昔のその街。 その次は完全な異世界、それもベタベタな。 その次は田舎の村だった、しかも神社の周辺しか存在していないのか、離れようとすると見えない壁に阻まれるという訳の分からない仕様の。


 異世界転生というよりは、ループ物のように感じる。 しかしループと呼ぶには毎回変化が大きすぎる。


 この異世界?の特徴を簡単に述べると、ゲームの中のようである。

 決まった場所にしか動けない、が大きな要因であるが、一番は別にある。


 人間がみんな同じ顔をしている。


 髪型が多少違ったりはするが、だいたいみんな能面のような顔をしていて、気持ちが悪い。 会話もちゃんと出来るし、それに不自然は存在しないのが逆に不自然である。


 哲学的ゾンビとやらとは違うが、それに準じた存在なのではないかと勝手に想像をする。


 その中で、能面以外の人間が数人、そうだな、メインキャラクターとでも呼ぶことにするか。

 メインキャラクターは確認出来ただけで数人、

 俺こと引田 友。

 どのループ上でも毎回登場する僕っ子の子供、ヒロリン?っぽいの空亡 新。

 次に神社以外のループで毎回登場するイケメン野郎。 名前は分からない、空亡新と仲がよい? 先輩と呼ばれている。

 俺と同じクラスだった、ござる口調の自称侍、山根君。

しかし俺のことは忘れている? 少なくとも俺のことは知らないようだ。

 名前も分からない同じ学校の二年生の数人。


 顔が少し怖い近所のおっさん、土田さん。 これも山根君と同じく俺のことは忘れている?ようだ。


 いつの間にか現れたコンクリートの道路に立ちながら、こんな世界に長居していたら気が狂うと、抜け出す手がかりを探しに「空亡 新」などのメインキャラクターを見つけることにする。

 何かを、一番大切な何かを忘れているような、気がするが、この世界にきてから(・・・・・・・・・)のことは全て覚えている。 気持ち悪いことも、かわいい女の子の空亡新のことも。


 問題も、忘れていることも、何も無いと思い直してメインキャラクターを探しに動く。


 肌寒さのある秋の風が頬に向かってくるように微かに吹く。 カラカラと落ち葉が風に揺られて音を鳴らす。


「あー、なんか、さみしいな」


 秋は、実りの秋とかスポーツの秋とかなんだとか言うが、実りが感じられるような畑はない、ともに運動する友もいないので、ただ葉が落ちていたりするだけのさみしい季節だ。

 これが夏とかならばそんなにさみしくはないのだと思う。 暑ければ、気分悪くて孤独感も少ないだろうけれど、こう過ごしやすい程度に肌寒いのは……。


 どう言い訳しようとも、季節の問題というわけでもなく、ただまともにコミュニケーション取ることが出来ていないのが孤独感を与える理由なのだが。


 今までの「世界」の法則性を考えるのならば、空亡新や先輩、そして俺が在籍している学校にコンタクトが取れるメインキャラクターがいる可能性が高いけれど、もう夕暮れの時間なので、そこにいる可能性は低そうだ。


 しかし、他にいそうな場所は見当もつかない。 自宅らしきところに帰ろうにも……()らしきモブキャラクターがいるので入ることも出来ない。

 というか、不気味すぎて近寄りがたい。


 あまりにやることがないので、世界が変わる度に戻ってくる、ポケットの中の財布を取り出して、ファミリーレストランに向かうことにする。 一人で。


 向かう途中も、ファミリーレストランの中も全部能面の人達。


「気味が悪いな……」


 どうせ戻ってくると贅沢をしてステーキを頼む。 いい匂いのするそれを不器用に切り分け、口に運ぶ。 肉汁がほわーと、広がる感覚はあるが、甘いとも感じなければ美味いともしょっぱいとも、当然酸っぱいとも美味いとも苦いとも感じない。

 匂いや食感はあるけれど、無味。 ドリンクバーの炭酸飲料を口に含むがやはり無味。 シュワシュワとした感覚が慰めにはなるが、食欲がそそられることはない。


 今度の世界こそはと思っていたが……やはり、味が存在しない。 こんなならば、不味いなら不味い方がまだ食える。


 興が冷めるのを感じながらも、食わねば生きていけないと思い無理に口に運び、咀嚼し、嚥下する。

 気持ちの悪い感覚を終わらし、適当に会計を済ませると、寝れる場所を探しに外に出掛ける。 どっかのホテルという手もあるが、近くにあるのは愛の言葉が頭に着くようなところだし、そうでないのは少し遠く起きた時にはまたこちらに移動するのが面倒くさい。


 やはり、寝ずに通行人の中のメインキャラクターを探してみるのがいいか。 ゲームみたいな話だけど何かフラグが立つかもしれないし。


 欠伸を噛み殺しながら、学校周辺を中心に、練り歩く。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 朝である。 能面しかいない。 とりあえず、学校に行って屋上で寝よう。 そっから、メインキャラクターにコンタクトを取って、今回の世界の広さを把握して……だるいな。

 しかも調べてる途中で新たな世界に変われば徒労になる。 なんだこのクソゲー。ふざけんなクソが。



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