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友達とのやり取り

 山根先輩はすぐに帰った。 もう夕暮れなのでおかしくもない。

 ポツリと、一人で先輩が部室に戻ってくるのを待つ。 荷物は置いてあるのでそろそろ戻ってくるはずだ。

 それまでに何をしようか。


 学校の宿題は、文化祭への配慮なのかいつもより少なくもう終わっている。 やることがあまりないので、とりあえず、部活のアルバムを整理でもしようかな。


 整理ついでに思い出を振り返ろうと、一ページ目を開く。


「部活動設立(2019・4/8)」そう上に書かれた写真は咲華先輩……綺麗な幼さを少しだけ残した女性が映っている。 一人だけだというのに、彼女は心の底から楽しそうで、ほんの少しだけ笑ってしまう。


「部員勧誘失敗(2019・4/10)」知らない生徒がたくさん映っている。 楽しそうで何よりだ。


「部員勧誘成功(2019・4/11)」僕がムッと少しだけ顔を顰めている写真だ。 恥ずかしい。 この頃は、色々と辛いことがあったからか、近くの写真も笑っている顔はなく、何枚も似たような写真が残っている。


「空亡新初笑顔記念(2019・5/1)」同じようにムッとした僕の顔。 この時は、初めて咲華先輩の前で笑ってそれを騒がれたのだ。 他の写真と違い、少しだけ僕の顔が赤くなっているのが恥ずかしい。


「咲華先輩とお出掛け(2019・5/10)」他のものと違い、僕が写真を撮って字を書いたところだ。 他のイベント時の僕の写真ばかりや僕の近くに咲華先輩がいるのとは違って、咲華先輩の写真ばかりが続いている。


「新たんとの買い物(2019・5/10)」同じ日付けの先輩が撮った写真。 僕の写真が多く、私服なのが少しだけ浮いたように見える。 それと、顰め面がなくなっている。


「看病してくれたナース新たん(2019・5/19)」私服で咲華先輩のお部屋にいる僕の姿や、お粥の写真。

結構余裕があり、来たことを後悔した思い出がある。


「新たん看病中(2019・5/21)」咲華に風邪を移されたのだ。 流石に写真好きの咲華先輩も病に伏している僕を取ることもなく、何故かステーキの写真が貼られている。 「看病を三倍返しだ!」と張り切った咲華先輩が大枚をはたいて僕にステーキを焼いたのだ。 当然、咲華先輩が食べた。


「新たんのそっくりさん発見(2019・6/3)」顰め面の猫の写真が貼られている。 猫は好きだけれど、似ていると言われても嬉しくはない。 隣に顰め面の僕の参考画像が貼られているのが少しだけ可笑しい。


「先輩のそっくりさん発見(2019・6/4)」凛とした表情の猫の写真が貼られている。 横に同じように咲華先輩の写真が貼られていて、少しだけ似ていて笑ってしまう。


「新たんと自宅デート(2019・6/9) 」咲華先輩の自室で、先輩とひっついている画像がある。 今見るとなんとなく気恥ずかしい。


「勉強会開始(2019・6/10)」部室で一ヶ月以上も後の期末テストに備えて、勉強に取り組む僕と咲華先輩。 真面目そうに見えるものの部室である。 部活をしていないので比較的不真面目である。

この頃も頭が悪いので、よく咲華先輩に問題の答えを尋ねていた。


「女子会(2019・6/22)」優雅にティーカップを傾けている咲華先輩。 女子会は何をすればいいのか分からなかったのでテレビゲームをしたっけな。


「先輩のダイエット(2019・6/29)」必死で公園のグラウンドでランニングしている先輩の横で、僕が寛いでいる。 結局咲華先輩の超能力でイカサマをしていたせいで痩せたりはしなかったのだ。 日焼けしただけだったと嘆いていた。


「雷に怯える新たん(2019・7/8)」雷の音に紛れていつの間にか撮られていたやつだ。


「雷を克服した新たん(2019・7/15)」思い切り怯えている写真。 こういうのはやめてほしい。


「夏祭り(2019・8/1)」普通の洋服の僕と、浴衣ではなく着物の咲華先輩がベタベタし合ってる写真がたくさん。

この頃から、咲華先輩とデキてる、なんて噂が流れ出したのだった。



 もう、去年の夏休みに入ったアルバム。 僕はその次のページへと、小さくアルバムの端を摘まむ。


 その時、着信によって自己主張を始める携帯電話。


 何物か。 そう考えるが、結局は一つの答えしかない。 どうせ先輩だろう、そう思って開くが画面には「友人A」の文字。


 ああ、クラスメイトの少女か。 そうだ、名前が分からなかったから適当に付けたのだ。


『件名:植木 葵です。

 本文:よろしくお願いします。』


 おおよそ、友人とコミュニケーションを取ったことがないような初々しいメールである。 少しだけ珍しい名字とありきたりな名前。

 何処と無く咲華先輩を思い出すけれど、しかしあの人はコミュニケーション能力は極端に低いけれど、異常とも取れるほど、初対面でも馴れ馴れしい。 咲華先輩から馴れ馴れしさを除いて代わりに人見知りを加えるとこの子と似たような感じになりそうだ。


 返信するのは面倒だけれど、一昔前に流行ったソーシャルネットワークサービスのせいで「既読お知らせ機能」が標準で設定されているので、既読スルーするのは気が引ける。

 先輩相手ならば既読スルーどころか未読スルーでも着信拒否でも問題ないのだけれど。 実際に出会った当時は着信拒否していた。


 まあ、友人相手に既読スルーはいけないという妙な常識があるので、それに従うべきだろう。


「件名:Re.植木 葵です。

 本文:こちらこそ、よろしくお願いします。』


 味気ない文書だけれど、元々乗り気ではないのだから仕方ないとそのまま送信する。


 すぐに返ってくる着信。


『本文:もうちょっとで文化祭だけど、一緒に回らない?』


 一瞬、適当にはいはいと返信をしそうになるが、文化祭には先客である先輩がいるのだ。

 所謂デートであり、想い人からそれをキャンセルしてまで、仲良くなりたくもない少女に使うわけもない。


 しかしながら、どう断ろう。 僕と夏先輩が仲が良いのを知っている人物はそう多くない。


 積極的に隠しているわけでもないが、僕と先輩が仲良くしていると先輩に学校社会的なデメリット……つまりはロリコンのあだ名が押し付けられるので遠慮して、部室内で勉強を教えてもらう、ボードゲームをするときには横に座る、時々登下校を共にする。

 その程度で抑えているのだ。 尤も、文化祭デート?はその枠から大きく外れており、先輩=ロリコンの図式が生まれる可能性とあるが、文化祭は私服もOKなので勝手に兄妹だと勘違いしてくれそうなものである。


 それに、僕の容姿はぶかぶかな制服を着ていたら目立つけれど、私服ならば目立たない。 先輩も格好がいいけれど有名人でもないので二度見される程度である。


 つまり、二人共通の知り合いでもいなければ問題はないのだ。 私服万歳。


 けれど、それを友人である植木さんに伝えるのは、先輩=ロリコンの図式を成立させる可能性を上げてしまう。


 先輩はロリコンだ、先輩はロリコンと呼ばれても気にしないだろう。 ロリコンだけれども……自分の想い人がロリコン呼ばわりされるのは…………!!


 以上の理由で、返信するのが難しいのだ。 しかし、何か言い訳するにしてもいいものが思いつかない。



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