出し物
えっ、部長ってレズなの?
そう言えば、去年の文化祭のときもずっと女の先輩とイチャイチャしてたな。
などの声が聞こえるが、敢えてスルーである。 別に僕は百合などのアブノーマルではない。
「まあ、そういうわけで、屋台みたいなのは避けたいです。 尤も、皆さんもクラスの出し物もあるので2、かなり簡易的な屋台でも2〜4人でだと難しいと思います。
4人でもずっと働きっぱなしになってしまいますし、2人だと回らないと思いますよ」
僕が一通り、自身の意見を正当化したところで田中君が僕に反論する。
「赤口さんがいたら一人で一通り出来るんじゃないか?
最悪、赤口さんがいないときは営業停止でさ」
あぁ、なるほど確かに。 僕は背伸びをして、「マジックショー」の上に「屋台」と書き込んだ。
「他に意見はありませんか?」
気だるげなちょんまげヘアーの山根先輩が、だるそうに手を上げる。
それ以外に手もあがっていないので、それを指名する。
「劇とかはどうでござるか?
それならば、他のクラスや部活動も同じことをしているのだから紛れることが出来、くおりてぃが低くとも目立たないかと」
「たしかに、目立たないというのは利点ではありますが、形式だけするのならばもっと簡単なことがあるかと思います」
山根先輩は少し考え込む表情を見せてから口を開く。
「赤口に全部任せればいいと思うでござるよ。 分身の術でござるよ」
あぁ、なるほど確かに。 僕は椅子を一つ持ってきて、足場代わりにし「屋台」の上に「劇」と書き加えた。
では、次の人をと聞こうとすると、田中君が口を開いた。
「ボードゲーム部なんですし、この部室で部員にボードゲームで勝ったら豪華賞品が……。みたいなのはどうですか?」
「うーん。 いくら先輩が強いと言っても、トランプみたいな運要素の強いのは豪華賞品がバンバン出てしまう可能性がありますし、将棋や囲碁は少し敷居が高いですしね」
豪華賞品というぐらいなら、せめてお菓子の詰め合わせぐらいはしたいが、先輩は超能力者でもないので負けるときは負けまくる。 運がいいと言ってもその程度だし、部員以外にイカサマは良心がやめろと止めている。
将棋や囲碁は、僕も簡単な囲いや定石を知っているし、僕以外は皆なかなか強いのでなんとかなるけれど、如何せん、将棋や囲碁が出来る人も多少限られる上に、その出来る人がわざわざ参加するかも怪しい。
つまり、メイドさんを愛でる時間が減るだけでお客さんも来ずに終わってしまうかもしれない。
「チェスは?」
「先輩が先手だったらどうやっても勝てないので……。 ゲームとして成り立たないですね。 まぁ他のものでも同じようなものですけど」
「あー、全パターン知っているんだったか。 スパコンかよ」
何でも先輩に頼ればいいという訳でないことを再確認し、まぁ先輩がほどほどに手を抜けばいいかと思い、曽野さんに頼んで「劇」の上に「賭け事」と書いてもらった。
そろそろ有りがちな意見は出揃ってきたかと思う。 この部活はそこまで文化祭に熱を持っている訳でもないし、あとは先輩の意見を聞くだけにしようかな。
「先輩は、したいことあります?」
既にチョークを渡してしまい、手持ち無沙汰な手を先輩の座っている机に置いて尋ねる。
先輩は少し珍しいキザったらしい仕草で髪をかき上げ、僕の手を握る。 小さく笑みを浮かべたかと思うと、少し横を一瞥する。
「俺も新と同じで、一緒に遊びに行きたいから。 時間取らないのがいいな」
先輩の手を机と一緒に突き押す。 耳に血が多く巡り、熱くなるのを感じる。
顔を背けて、先輩から離れる。
「いい、ですよ。 先輩が、一緒に……行きたいのなら」
存在しない胸が弾むような感覚を覚える。 なんでわざわざ部室で言うのかと、不満に思う。 しかしその二つの感情は、皆が見ている前でデートを誘われたしかもそれを受諾したという羞恥にかき消される。
嬉しい。 けども恥ずかしい。 先輩に不満がある。 それを押さえて羞恥心が勝つ。
徐々に冷静さを取り戻し、冷静になる度に自分のチョロさに羞恥が湧きでる。
「…………つ、次! 次決めましょう! 次を!」
今更、誤魔化すことは出来ないと分かりながらも誤魔化すために大きな声を発して司会を進める。
「えーっと、結局、赤口先輩もパパッと終わるものがいいってことですよね?
なら、屋台と賭け事?はなしですか?」
気を使っているのか、それとも焦りまくった僕に呆れているのか、ほんの少し表情を歪めた曽野さんが僕からチョークだけでなく司会進行までもぎ取っていった。
「んー、だいたい赤口任せのものでござるし。 赤口がやりたくないものなら諦めた方がいいでござるな」
確かに、先輩が働くのに、先輩が嫌なことを無理矢理多数決でやらせるのは……数の暴力ってやつだろう。 それは間違っている。 という訳で先輩の意見を大きく考える。
「なら、マジックか劇かですか……。
劇は先輩が分身する必要があって、負担が多そうです。
とりあえず、夏先輩をメインにマジックショーをするということでいいですか?」
僕の意見を聞いて、田中君以外の人が頷く。
田中君の方向を向くと、すごく不機嫌そうな顔をして先輩を睨んでいる。 時々、妙に仲が悪いけれど、何か確執でもあるのだろうか。
「俺がやります。 マジックでもなんでも」
やる気になってくれたのはありがたいのだけれど。 咲華先輩から先輩に代わっただけでも遥かにクオリティが下がりそうなのに、それから更に田中君に代わるのは不安である。
しかしながら、やりたい人の意見を却下して、やりたくない人にやらせるのはどうにも悪い気がする。
事実、楽しむことが目的であり大義である文化祭に置いてはクオリティを追求するのは野暮というものだろう。 周りの反応も良好のようなので、ここは一つ任せるといいか。
「空亡。 俺だけじゃあ無理だから、助手は頼んだ」
「え、ええ……。 目立つの嫌いなんですけど……」
しかし、先輩がメインでやる場合には手伝うつもりだったのだ。 田中君の場合はやらないというのはフェアじゃない。
それに、僕は部長だ。 確かに、前部長である咲華先輩が転校したせいで一人しかいないという理由でなし崩し的に部長になったとはいえ、部長……その責任はある。
「まぁ、部員が頼むのならば仕方ないですね。 一肌脱ぎましょう」
「えっ、あらたん脱ぐの?」
「脱ぎません。 先輩は黙っててください」
手品の助手なんてことはやったことがない。 咲華先輩のは手品ではなくマジックだったので。
どうしたらいいのか分からないけれど、まぁ田中君は自信満々なようなので従ってればなんとかなるかな。
「じゃあ、とりあえず田中君がメインで行うマジックショーということで。
何かあったら相談させていただくので、よろしくお願いしますね」
先輩とデートの約束も出来たので、上機嫌で会議を終了させる。
文化祭、頑張ろう。