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六曜高校ボードゲーム部

 この六曜高校には沢山の部活動がある。 部活動が活発な訳ではないが、「事情がない限りは何かしらの部活動に参加しなければならない」という謎ルールがあるために大抵の生徒は部活動に参加していることと、部費や部室はほとんど出ないものの簡単に新しい部活を作ることが出来るので、五十越えという数の部活動が存在している。


 その中で僕が入っている部活動はボードゲーム部。 この僕はボードゲーム部に参加、活動している。

 普段の主な活動内容は先輩との談笑である。 教室とは違って、他の人とも話すけれど。


 僕はその部室の扉を開く、パッと見渡しながら中に入るけれど視界の中に先輩はいない。


「こんちはー、空亡」


「あっ、こんにちは、田中君。 先輩……夏先輩はまだ来てないんですか?」


 同じ二年生である田中(たなか) 佐藤(さとう)君が人懐こい笑みを浮かべながら挨拶をする。

 ちなみに、渾名はタナサトである。


「赤口先輩? まだ来てないな。

 お前、本当にあの人好きだな」


「そんなことないです」


 否定する僕に向かって、分かりやすいため息を吐いた田中君は、何故か僕の頭を撫でようとする。


「ほら、避けるじゃん。 あの人のは避けないのに」


「別に……」


 答えることが出来ない僕の目を見て、田中君はもう一度ため息を吐く。


「今、ポーカーやってるけど混ざるか?」


「いや、いいです」


 先輩が来るまでの間に暇つぶしにしようかと思っていたけれど、興が冷めてしまった。 何故、高校生という奴はこんなに恋愛やらなんやらと腑抜けた軟派なものが好きなのだろうか。

 僕は先輩と仲が良いだけなのに。


 しばらく待っていると、先輩がやってきた。


「うぃーっす」


 気の抜けた声が聞こえて、黒髪(・・)の先輩がへらへらと部室の中へと入ってくる。

 あれ? 先輩って黒髪だったっけ?

 いや、黒髪か、染めるのは禁止されているし……。


 何故か先輩には金髪のイメージがあるために、妙な違和感を感じる。

 なんでだろうと考えている内に、先輩は僕の方へと来ずに違う人のところに向かう。


「おー、久しぶりだな。 みんな」


「昨日もあっただろうが、ポーカー混ざるか?」


 僕に気がついていないのか、先輩は僕の方を見ることもなくポーカーをし始めた。

 まぁすぐに気がついてこっちに来るだろうと思い、先輩の行動を眺める。

 あっ、イカサマした。 何か不自然な手の動かし方だね。 などと見て、心の中で先輩のイカサマが発覚することを祈る。


 どうでも良い話だけれど、この部活ではイカサマは公認されている。 勿論バレたら反則負けではあるが、バレなければ何でもありということになっている。

 ちなみに「超能力」もありである。 これは、部員がまだ全然いなかった時の、夏さんではない先輩……咲華先輩と僕だけの期間のことに起因することなので、今の部員(・・・・)ならばほとんど関係がないルールである。

 いや、夏さんならば超能力使い出しても不自然ではないけど。


「はい、俺ツーペア」


「田中は弱いな。 フォーカード」


「拙者はもっと低いワンペアでござる」


 あぁ、やはり先輩は運がいい。 先輩の行ったイカサマは、元から机の下に数枚のカードを忍ばせておいて……といったものであり、役を揃える可能性は格段に上がるものの、ジョーカーを抜いているこのポーカーではフォーカードの様な揃いにくいものを簡単に揃えられるものではない。

 いや、あと一つ、先輩はカードを配る時に自分のところにのみ六枚配っている。 カードを変えるときに「じゃあ二枚変える」という言葉とともに、三枚すてて二枚引いている。 これもほんの少しではあるが、勝率を上げる所以であろう。


「……そろそろあらたんに構ってやらなければ拗ねるか」


「随分……と、仲がいいですね。 兄妹みたいですよ」


 兄妹か。 遠くから田中君の言葉を聞いて、他から見ればそうなのかと知る。

 確かに、身長も40cmも離れているし、身長以上に僕は幼い顔らしいので少し年の離れた兄妹に見えるかもしれない。


「まぁな、二歳差だしな。 俺は新のことを妹とは思ってないし、新も思ってないだろ?」


 突然話を振られたことで、少し狼狽えるも先輩のような兄は嫌だと思い、首を縦に振る。

 そういえば、文化祭の出し物はどうするのだろうか?

 まだ人が集まりきっていないので、話を始めるわけにもいかないし。

 そろそろ話し合いを始めたいなと考えていたことに、最後の一人の部員、曽野さんが大きく息とスカートを乱しながらやってきた。


「お待たせ部長! クラスで、文化祭の話し合いがあったせいで遅れちゃった!」


「あ、いえいえ、全然問題ないです」


 先輩、僕、田中君、曽野さん、山根先輩のボードゲーム部員の五人全員揃ったところで、僕は教卓の前に移動する。

 人見知りで、緊張のしやすい僕ではあるけれどもたった四人の前で、それにある程度ではあるが知っている人なので吃ってしまったりはしない。


「えーっと、では、あと二週間後に迫っている文化祭について話し合いをしたいと思います」


 一旦区切り、皆の表情を確認する。 ちゃんと部員の意思を確認することが大切だと、前の部長である咲華先輩に習った。


「あのー、部長。 去年は何をしたんですか?

同じことをしようという訳ではないですけど、参考までに」


「えーっと、参考にはなりませんが、去年はマジックショーをしました。 ほんとに参考にならないですけど」


 僕と咲華先輩しかいなかったために、ほとんどのことが出来ないということで咲華先輩の特技を生かしたリアル(・・・)マジックショーをしたのだ。


「参考にならない? 赤口先輩なら出来るんじゃないんですか?」


 曽野さんは先輩をじーっと見ながら僕に尋ねる。


「いや、先輩でも難しいと思います。 似たようなことなら出来るかもしれないですけど」


 納得のいっていないような曽野さんに、先輩がトランプでマジックを披露している。 なんでわざわざ拗れるようなことをするのか。

 別に、去年と同じマジックショーでも良いのだけど。 助手も一人か二人かでいいので部員が余ってしまうし、何より去年と比べられるといくら先輩でも本物ではないのだから見劣りしてしまうだろう。


「まぁ、夏先輩に任せっきりになってしまいますけど、とりあえず案に入れときますね」


 そう言って、黒板に「マジックショー」と書き込む。


「空亡さんは、何かしたいことないんですか?」


 田中君が、司会進行役である僕に尋ねる。 やはりこうなったかと内心笑いながらチョークをトンと置く。


「多分、皆もそうだと思いますが、僕は猫耳カフェやメイドカフェに行きたいです。 なので、あまり時間が取られないものがいいですね」



 先輩しか頷いてくれなかった……。



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