表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/38

【暴食の試練】食肉は可哀想か否か

 ドヤ顔を披露する先輩から目を逸らすが、土田さん(オーク)もドヤ顔をしている。 誠に不思議である。

 お次はどんな不快な試練がくるのだろうか。 今のうちに覚悟を固めようと最悪自体を想像する。


「そんなに身構えなくても大丈夫だぞ? 俺が新ちゃんに酷い試練出すわけないだろ? サービス試練だよ。

好きな物を好きなだけ食べればいいだけの試練だ」


「えっ、マジすか! やべえ」


 元気よくケラケラと笑ながら、先輩はテーブルの上に置かれたメニューを手に取る。

 僕は横から覗き見、光に照らされて美味しそうに輝くそれらの写真を眺めながら、0円が並ぶメニューに驚愕する。


「……これ大丈夫なんですか? 0しか見えないんですけど」


 僕が懐かしく感じる声の持ち主に苦笑しながら訊くと、やはり懐かしい笑い声を出した。


「全然問題ないぞ。 いつもはこの数倍は0が並んでるからな」


「全く大丈夫じゃないことが判明したのですが……」


 というか、普段はファミレスなのかな? いや、試練は試練だし……試練って何の試練だったっけ?

 よくわからないことを考えているな。 あれ? そもそもなんで、試練をクリアしようと思ってるんだっけ?

 世界が滅びるとか? いや、金本さんも本当にそうなのか分からないし、土田さんがそんなことをするわけもない。 そもそも、本当に滅びるならみんな必死にクリアしようとするはず……。


「あっ、俺はポテトチップスで、こっちのゴツいのはプロテインで」


「ファミレスっぽい場所でポテトチップスやプロテインは出ないでしょう。 では……僕はナタデココをお願いします」


 それもないだろ。 と、先輩がしっかりとメニューを見て決めた僕に向かって言う。 なんと愚かな。


 しばらくしてやってきたナタデココ。 何故か豪華な模様の施された皿に盛られたナタデココをスプーンで救って口にいれる。


「うん……美味しいです」


「そうか、ありがとう。 まぁ、市販のやつだけどね。 ポテトチップスもナタデココもプロテインも」


 もしかしたら、ものすごく礼儀知らずのことが出来たのかもしれない。 慌てるのを悟られないようにメニューを開くが、パッと土田さんに取り上げられる。


「……一応、試練なんだからさ。 ルールを守ってな」


 ルールを破ってしまった? 何のルール? この試練のルール?

 慌てる僕の様子をみていた先輩が、口を開く。


「ルール……確か「好きな物を好きなだけ食べる」だったか?」


「好きな物を……好きなだけ」


 一見してとても嬉しい状況かもしれないけれど、実際にはとても苦しい試練であろう。

 先輩に隠していたことではあるが、僕は非常に大喰らいである。 たくさん食べるのが好きだが、別に全然食べなくとも問題はないので先輩の前ではかわい子ぶって……というか、先輩の大好きな小さい子ぶって全然食べていないのだ。

 それに、今日はそれだけでなく土田さんの目がある。 ひたすらナタデココを食べているだけならば、ものすごく気まずい。 かと言っても他に食べたいものがある訳でもない。


 どうしよう。 詰んだ。


 仕方なく、考えるのと土田さんや先輩の表情を伺うのを止めて、無心でナタデココを貪り喰らう。


 ……おいし。


「じゃあ、俺は次チャーハンで」


「我はプロテインを頼む」


 おお、さすが先輩! これで助かった。


 すぐにやってきたチャーハンを一口食べて先輩が美味いと言う。


「あぁ、ありがとう。 市販のやつだけどね」


「って、結局市販のですか!」


 思わずツッコミを入れてしまった。 そんな僕の耳に、小さな舌打ち。 あれ、誰がしたのかな。 土田さんではないし、先輩もそんなことはしないだろう、戦部さんかな。 多分。

 ご飯中に大声は行儀がなかったか。 小さく戦部さんに頭を下げて、再びナタデココを食べる作業に戻ろうと思う。


 先輩の方をチラリと見ると、チャーハンに手をつけようともせずに机に手を置いて項垂れている。


「はぁ、今回もまた失敗か。

 何度やり直すことになるんだ。 もう百回は超えたぞ。

糞が、何がダメなんだ。 おかしいおかしいおかしい」


 ーー先輩……? 大丈夫ですか?

 そう、心配を口から出しながら先輩の方へと手を伸ばす。


「触れるな」


 えっ。


「お前は新じゃない。 新じゃない。 誰だお前は」


 先輩が僕の頭を撫でるように当て、握り潰した。


 僕は死んだ。


 先輩が何が言いたいのか、理解も出来ないまま。


 いや、何かおかしい。 死んだのに何故まだ思考が続いているんだ。


 あぁ、そうだ。 それに、僕はもっと前に…………?














はい、第二章終わりです。

一応、この作品は意欲作なので、ほんの少しだけ珍しい形で話が進んでいきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ