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【暴食の試練】無限と可能性

 うーん。 と、首を傾げる。

 いや、なんかデートっぽいなあって思ってたら先輩が「財布に金がなかった」とか言って僕が先輩の分のお金を出すのも別にいいんだけどさ。

 いや、よくいるらしい女の子のように、奢ってもらえることを期待していたわけじゃないよ? 一応、父母が残してくれている一人でいるなら一生を遊んで暮らせるほどのお金がありますし。 ええ、僕はお金に苦労したことないボンボンですし。

 ……はっきりと言うと、百万円をドブに捨ててもいいから奢られたかった訳ですよ。 先輩に奢られる680円(税抜き)>親の百万円なんですよ。


 よし、今日お金を出したことをダシにして明日や明後日に奢ってもらおう。

 奢ってもらえる作戦を決めて、席から立ち上がる。

 前に会計しているカポゥの彼女側がお金を出す素振りも見せていなくて、心が折れた。


「新さん、ごっつぁんです!」


 相撲取りの真似をしている先輩にこの不満を伝えるように溜息を吐く。


「あらたん、ごっつぁんです!」


 そういう問題ではない。

が、なんかこういうアダ名って、恋仲っぽいなと思ってしまった僕はチョロいのだろうか。


「あらたん、ごちでーす」


 チャラ男か。


「あらたんでーす」


 それはない。


「先輩、少し煩いです。 二十秒ほど口を閉じていてくれませんか」


「随分短いな」


 「今日は黙っていてください」と言ったら無言で一日中見つめられた恐怖を忘れはしない。

 先輩が静かにしてくれている横で、パパッと会計を済ませる。


「ねえ先輩、あの人見覚えがあるんですけど」


「ん? どいつだよ。 というか、新が見覚えあっても俺の知り合いとは限らないと思うんだが」


「僕が知ってる人は大抵先輩も知ってるじゃないですか」


「ああ、新の知り合いは大抵部活の知り合いだからな」


 僕にだって、普通に知り合いぐらいいるよ。 クラスメイトとか、土田さんとか、清水さんとか、金本さんとか、元クラスメイトとか。

 ……というか、僕の親しい人は基本的に何処かに行ってしまうからそれがなければ友達たくさんのリア充って奴になれていたはずだ。


「あっ、アイツかよ……。 新、逃げるぞ」


 見覚えがあるけれど、誰かが分からない。 変わってしまった世界なのだからそれぐらいあってもおかしくはないが。 先輩がすぐに気がつける人で僕が気がつけない人は珍しいと思う。 先輩ってなかなか人の名前覚えないし。


 先輩と僕との共通の知り合いで、先輩がよく覚えている……ゴリマッチョ。 あぁ、赤髪に変わっていたので分からなかったけど、戦部さんかな。


「ん? あぁ、赤口……。 久方ぶりだな、決闘しようか」


「いや、無理。 今、世界を救うのに忙しいの」


「ふむ……今風に言うとだな、我と世界、どっちが大切なんだ」


「お前が大切だから世界を救うんだろ? 言わせんな、恥ずかしい」


 僕にはそのノリが分からないです。

 男友達とはこういうものなのか、それとも喧嘩友達という奴だからなのか、僕の存在を放って決闘とやらをすることになっていた。

 もう少し優しくされたいです。


「じゃあ我からなリンゴ!!」

「ゴハン」

「ンゴロンゴロ保全地域!!」

「キンカン」

「ンジャメナ!!」

「ナン」

「ンデベレ族!!」

「苦悶」

「ンゴマ!!」

「万」

「ン……ン……!! くそお!! 我の負けか!!!!」


 ああ、この人は阿呆だったな。 「ン」のボキャブラリーはすごいけど。


「さ、三回勝負だ!! リンゴ!!」

「ゴハン」

「ンゴロンゴロ保全地域!!」

「キンカン」

「ンジャメナ!!」

「ナン」

「ンデベレ族!!」

「苦悶」

「ンゴマ!!」

「万」

「ン……ン……!! くそお!! 我の負けか!!!!」


 これから六十年生きたとしても、これ以上愚かな事象に遭遇出来ることはあり得ないと思う。

 今日というこの日の出来事はきっと死ぬ時まで覚えているだろう。


 あまりの馬鹿さ加減に先輩を放っておいて帰りたくなるけれど、先輩は電車賃も持っていないのでそうするわけにもいかない。 全く、先輩ったら僕がいないとダメダメなんだから。


 先輩をぼーっと眺めていると、決着がついたのかいい笑顔で僕の方へとやってきた。


「次の試練をどっちがクリア出来るかで決着を付けることになった」


 さっきまでのしりとりの意味を知りたい。

 無言でついてくる身長195cmの男に怯えをなくすために、先輩の手を握ろうとするが僕の手は空を切る。


「なぁ、喉乾いてないか?」


「先輩にはヒモの才能があると思います」


「いや、俺の財布の中には、まだ二百円玉と五十円玉が残っているんだ」


「この世に二百円玉なんて存在しません」


「んで、新は何が飲みたい?」


「コーヒーのブラックでお願いします」


 思わぬところで夢が叶い、ウキウキとした気分で先輩の背中を見送る。

 しばらく待っていると先輩がとぼとぼと戻ってきた。


「増税の野郎……!! 絶対に許せねえ!!」


 あぁ、130円だったのか。 そう言えばもう増税したんだったね。 世界が変わったのにそこは変わらないのか。


「ここで新に質問なんだが、二人で一本のでいいか? おしることかならカロリー的には半分で充分かと思うんだ」


「それって……もしかして……プロポーズです、か」


「どうしてそうなった」


「えっ、いや、回し飲みってことですよね? プロポーズってことですよね」


「あっ、何かの暗号か」


「……もう、いいです。 僕の分はいいです」


「やべえ、今世紀始まって以来の謎だ。

乙女心は分からなんだ」


「すみません。 勘違いしてしまって」


「あっ、ほら、スーパー入れば二人分買えるぞ? 近くにあったはずだし、行くか」


 落ち込んでいる僕の手を引っ張ってスーパーにまで走る。 どうでもいいけど、後ろの戦部さんが目立ちそうで不安だ。

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