【強欲の試練】人の不幸を喜ぶことは
第二章スタートです
「強欲の試練ってどんなのですかねえ。 やっぱり欲しい物を言っていくとかですか?」
「さあ、まぁ色欲のも状況が状況なだけに大変だったけど、実際は難しい試練でもなかったしな。
似たような物ならなんとか出来るんじゃねーか?
それより俺は魔王の名前の方が気になるな。
土田、金本ときて、次は清水とか植木とかか」
「だから土田さんは……。 もういいです、アホの先輩には言っても無駄でしょうし」
「アホじゃねーよ! IQも53万あるからな」
「IQは300までです。 あと「も」ってなんですか「も」って先輩にはそんな戦闘力ありませんからね」
「いや、HPがだよ」
「むしろ先輩が魔王ですよね、そのHPって」
ゲームのボスのようなHPをした先輩に連れられて、強欲の魔王の根城の赤い光の柱の前についた。
目の前には赤い光。 薄く目を開けて、周りを確認していく。
何もないところで躓き、先輩に笑われてしまい。 ほんのすこしだけ目を先輩から背けながら顔を上げる。
目の前に……赤い光。 近くで直視してしまった。
欲しい欲しい。 あれが欲しい。 なんだこの素晴らしい物は、僕の物にしたい。 僕の物だ、誰にも渡さない。
赤い光に吸い寄せられて、頭が悪くなるのを感じる。 だが、そんなのに構うものか。
目の前の赤い光を手に入れようとして、手を伸ばす。
世界が暗転した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
体が揺さぶられるのを感じて目を覚ます。
「どこ触ってるんですか」
「お腹だけど。 ……それにしても、悪趣味な場所だな」
先輩の言葉を聞いて周りを見渡す。 語彙の少ない僕がこの空間を一言に表すと、ゴミ屋敷。
もしかしたら、価値のある物なのかもしれない。 いや、僕は素人だがどう見ても素晴らしい物品達だ。
だが、どうしてもゴミ屋敷にしか見えない。 オシャレとやらに興味が薄い僕でも着てみたくなるようなふわふわのお姫様のような服が飾られている隣に、最近人気のあるゲームカセット達が乱雑に積まれ、その上に高そうな腕時計が山になっている。
他にも、小洒落たティーカップがシックなソファの上に転がっていたり、照明が提灯、シャンデリア、ロウソクそれに蛍光灯と複数の光がぐちゃぐちゃと混ざり合ってその美しさを醜さへと変貌させてしまっている。
「こりゃ……やべえな。
俺の欲しかった物が全てゴミになってる」
ああ、なるほど。 僕が欲しかった娯楽の物や、小洒落た小物がたくさんある。
そんな不思議な空間の中で先輩は何を思ったのか、色々な貨幣を目に入れるとそれを蹴り飛ばす。 鳥居のようなものを殴り壊す。 腕時計などを踏み壊す。
「えっ……あ……」
先輩が何故か本気で怒っている。 ここの物は本物とは違うのか、人の力では壊せないような物が粉々に砕けている。
ディフォルト化された人のフィギュアを幾つかを残して壊した挙句、壊しきれないそれらの物を見渡して「糞が」と吐き捨てた。
壊されていない物を見ると、僕と両親が手を繋いでいるフィギュアがあった。
これが、これが僕の欲しかった物だとでも言うのか。 僕は怒る先輩の前に恐る恐る行き、僕と両親が幸せそうにしているフィギュアを拾う。
僕は両親がやりたいことをやることに賛成していた、馬鹿な両親だが幸せに過ごしてもらいたいと思っている。
彼等は僕と同じ家で、平凡に過ごすことは好かないだろうから、不幸せだろうから……世界を旅することを認めた。 いや違う、勧めたのだ。 なのに……なのに。
「僕が……僕があの人達の不幸せが欲しがっているとでも言うのか! ふざけるな!」
僕の欲しかった物は、両親の不幸せは地面にぶつかり、僕のフィギュアの首だけが折れて、幸せな両親のフィギュアが生まれた。
隣のフィギュア、自殺した姉。 投げ飛ばすと綺麗なネックレスの紐に首が引っかかる。
近くのフィギュア、女優なんて夢のために転校した昔の先輩。 投げ飛ばす。
投げる。 投げる。投げる。
一通り投げ飛ばし、先輩のフィギュアだけが残った。 傷つけないように手に取る。 投げ飛ばさない。
「先輩は、僕といて幸せですか?」
答えはない。 先輩は、綺麗な女性のフィギュアの前で……立ち止まっていた。 手に持っていた物を嫌味たらしく音をたてながら、そこに置いた。
その横に転がっている僕の首が、とても不快で踏み潰した。
気分が悪い。 きっとお腹が空いているからイライラしているんだ、僕って子供だから。
「行きましょう。 さっさと、終わらせましょう」
先輩の答えを待たずに、奥の華美な扉を開く。
黒い高級そうなスーツを身につけた男性がそこに立っていた。
「ようこそボス部屋へ。 お二方。
当然だけどさ、この植木が出題する強欲の試練、受けるよね?」
消えいるような了承の言葉。 「ああ」と弱々しい先輩の声が後ろから聞こえて、僕は俯くように頷いた。
「まずはルール説明といこうか。
ルールはとても簡単、心の底から欲しい物を三つ言えばいい。ヒントが欲しければ、ヒントを出してもいい。
なんなら答えを教えてやってもいい。
ただ君たちは自身の強欲を吐露するだけで勝ちだ。 わかったね簡単だろ?」
予想していた通りの試練と、先輩の推理通りの名前。
いつもならば馬鹿のように喜んでいたところだ。 だから、今もそうしなければならない。
「あっ、先輩先輩! ほら、名前合ってましたよ! すごいです!」
「そりゃ俺は天才だからな!当然だろ?」
喜びを分かち合う僕と先輩。 わざとらしくハイタッチ、先輩からしたらロータッチをしてはしゃぐ。
「じゃあ……そっちの女の子の方から始めようか。
君の欲しい物は、何かな?」
「ははっ、こんな試練僕からしたら一捻りですよ! 新MUSOU伝説がここから爆誕する!」
ほんの少し、小さな間が空く。
「お腹が減ってるので、ご飯が欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「最近、お金がないので、お金が欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「女の子らしい、可愛いお洋服が欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「CMで興味が出た、ゲームが欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「少し前に落として壊してしまったので、小洒落たティーカップが欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ。
ヒント出してあげようか?」
「僕も女の子なのでお化粧とかしてみたいです。 なので、お化粧品が欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「やっぱり色々と不便なので身長が欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ」
「むぅ、意地悪な試練ですね。 ちょっと恥ずかしいですけど、胸囲がもう少し欲しいです」
「ぶっぶー、ハズレ。
答えでも出そうか?」
「……もう、もういいです。 ……ギブアップです。
僕は何も要りません。 欲しい物なんて存在しません」
「欲しい物がない人なんて存在しないさ。 隠す必要なんてないよ」
魔王の言葉が耳に入る。 呆然としているのに、耳から耳へと流れたりはせずに頭の中に留まり続ける。
もう、何も要らない。
試練は基本的に根性悪いです。